ー受領ー

 レンヤ・トガミ中尉

 年齢:27歳

 性別:男

 髪色:ブラウン

 眼色:ダークブラウン

 前歴:L3コロニー駐留軍・外部警備隊

 備考:やや素行不良であるが、MT操縦士パイロットとしての素養は高い。――


 ――以下、彼にまつわる細かなデータなどが羅列された、宙に浮かぶ画面。刈り上げた頭に、やる気のない表情の彼の写真が添付されている。

 場所は、《アカツキ》艦長室。

 トガミ中尉の情報が映る投影表示ホロニック・ディスプレイ、その向こうに立つ副長に対して、艦長はこれで四度目になるであろう確認をとる。

「では、受領については予定通りになるのだな?」

「はい。合わせてもう一機と、その専属のテストパイロットが同道するのも当初の予定通りです。テストパイロットについても、当初の予定通りトガミ中尉を」

「分かった。しかしまぁ、パトロール部隊に対して新型機の試験運用を投げてくるとは、司令部の考えもよく分からんな」

 ため息混じりに言いながら、執務机の引き出しを開ける。タバコ……ではなく、ガムを取り出す。密閉空間であり、空気を艦内循環させている以上、無闇に吸うなどはご法度であるし、そもそもタバコは医者に止められている。

「一つどうかね、副長」

「いえ、ガムは歯の詰め物が取れてしまいますので……」

 遠慮します、とやや距離を取る副長。残念そうの肩を竦めると、それを仕舞い改めて副長に向き直る。

「中尉の方には早めに資料を渡してあげてくれ。以上だ」

「了解しました。MT長に伝えておきます」

 そう答えた後、一礼して副長は退室する。

「……さて、使える機体であればいいが。企業のゴリ押しも困ったものだな」

 椅子に深くかけて呟いた艦長の言葉はしかし、誰にも捕らえられることなく消えていった。


 ――三日後。

 補給艦とのランデブーに《アカツキ》艦内は沸き立っていた。久々の補給であり、各個人で頼んでいた嗜好品なども合わせて搬入される。色めき立つのも無理はない。

 艦体側面、ランプにもなる《アカツキ》のアクセスハッチが展開され、そこに補給艦から伸びてきた移送用の蛇腹チューブが差し込まれる。そこを通じて各種補給品や燃料を搭載していく。それとは別に、MT格納庫へ直接運ばれるコンテナが二つ。《アカツキ》の上部甲板でそれを確認したトガミは、ニヤリと笑うとすぐに、それを追いかけていった。


 格納庫。

 こちらも、MTの手持ち武器用の弾薬や予備品のコンテナが所狭しと搬入されている。そのコンテナの林を潜り抜け、目当てのブツまで辿り着いた。

「さぁて、俺のかわいこちゃんはどっちかな」

 例の新型機は、装備違い・同型が2機入るのは事前に聞いている。であれば、どっちが自分の機体になろうとも一目見ておきたいのがパイロットのサガだ。コンテナの上面側が折り畳まれながら開き、その中身を晒し出す。

 ヒュウ、と言わざるを得なかった。

 それは、一言で言えばとても趣味的な見た目をしていた。基本フレームはオルドガーダーの物を使っているようだが、あれよりも格段にプロポーションがいい。あっちが中年のオッサンなら、こいつはハイスクールくらいのアスリートだろう。頭部がゴーグルタイプなのは共通だが、額のセンサーユニットが張り出す形になり、目付きの鋭いイメージだ。側頭部にも、モニタリング用のブレードアンテナが後方上側に向かって突き出ている。

「なかなかの男前じゃねぇか」

 自分が乗るであろう機体がカッコいいのは良いことだと、トガミは満足げに頷く。

 左のショルダーアーマーに「01」と書かれてるのが見える。目の前で梱包が解かれた白いこいつが新型1号機に当たるのだろう。残る2号機の方もお目にかかろうと、キャットウォークで向きを変えた刹那。


「す、すみませ、どいてくださ~い!?」


 そんな声と共に、背中からタックルされた。

 およそ軍艦で聞くとは思えない、ティーンエイジャーらしき女の声に、一瞬思考が停止する。


「はわ、はわわわわ!す、すみませ、すみません?!」


 そしてトガミの目の前には、声の印象通りの子供が、あろうことかパイロットスーツで、手足をバタバタさせながら漂っていた。

 その少女が纏うパイロットスーツに縫われたマークを認め、


「―――――――は?」


 今度こそ本気で、思考が停止した。

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