7-ようこそ


1月6日早朝。


お腹の張りと腰の痛さで目が覚めた。それまでお腹は張っても、腰が痛くなることはなかった。だから、もしかして・・・と思っていた。それに前々から6日に生まれるかもしれないと思っていたのだ。信じるか信じないは別だけど、人には生まれ変わっても必ず出会う人がいるらしい。それをソウルメイトという。誕生日で判断されるんだけど、僕の誕生日と1月6日、彼と1月6日、彼と僕の誕生日、3人ともソウルメイトだったのだ。だから、もしかしたら・・・と信じていた。早朝の痛みは不規則だったし、全然我慢できるような痛さだったから、寝てみたり起きてみたり、ゴロゴロしていた。本当はその日、母と出かける予定をしていたが、腰が痛くなったので、予定変更。そして、10時に出血があった。俗にいうおしるしだ。僕はこのときよくわからなかったから、母に出血があったことを伝えたつもりだったけど、なぜか伝わっていなかった。それから、だんだん痛みは強くなっていたけど、まだなんとなく我慢できるような痛みだったので、特になにも行動することはなかった。そして13時。2回目のおしるし。これはもう今日生まれるだろうと思った。1回目の出血のとき母にいっても特に反応がなかったから、いう必要はないと思って、2回目の出血は伝えなかった。そして13:30。入院準備にたりないものがあったので、母に連れて行ってもらおうと思い約束していたが、もう結構痛くて、着替えるのもやっとだった。本当は途中で母にだけいってきてもらおうかと思ったくらいだけど、自分のことだし自分でいかなきゃと頑張って着替えて出かけた。それから、痛みがおさまることもなく、とりあえず用だけ終わらせて帰ろうと思った。そして、用を済ませ飲み物を飲んでから帰ることした。帰る前にもしかしてまた出血してるんじゃないかという感覚になり、トイレに寄った。早くトイレに辿りつきたかったのに、大型ショッピングセンターはトイレの通路に入ってからが遠い。とりあえず個室にはいれて、安心したのもつかの間。ズボンをおろしたと同時に破水した。まさかこんなところで破水するとは思わず、僕は目がテンになった。とにかく処理して早くここからでることを考えた。さすがに、遅すぎて母が心配して、様子をみにきていた。

「大丈夫?」

「いや、破水したっぽい。」

まだ、歩ける余裕はあったし、そんなに焦ってもいなかった。なにより母が冷静だったから、そんな状況でも僕も冷静でいられたんだと思う。でも、さすがに車に乗ってからは我慢ならない痛みになってきて、母の問いかけにもこたえられないほどになっていた。

「ごめん、今むり。痛いから。」

痛みがおさまり、「いいよ、なに?」といった具合の会話で、

「あー、もう5分間隔になってるじゃん。」

と言われ、病院に向かっているとき、もう出したくて仕方なかった。でも、車で産むわけにいかない。と思い耐えていた。病院につき、着いたよと車のドアを開けてもらったが、ちょうど陣痛がきているときで、降りられなかった。冷静に考えて、無理だといえば、多分、車いすがきてそれで、行けたのに、僕はなぜか頑張らなきゃいけないんだと思い、人目もはばからず、すごい形相で院内までいき分娩室まで歩ききった。院内では数歩歩いただけで、ものすごい痛みで出ちゃうんじゃないかと思いながら歩いていた。そして、分娩台にあがり助産師さんに

「ごめんね、少し見せてねー」

と言われ、内診した瞬間、焦っていた。すぐにナースコールを押して、

「破水した患者さんもう全開です。来れる人みんなきてください。」

と言っていた。途端にたくさんの助産師さんたちがものすごい勢いで入ってきて、もう怒涛の準備。僕はもう分娩台にのれた安心感でもっと陣痛がきて、されるがままだった。

「服着替えてもらうね、腕だけぬけるかなー。」

「左腕ごめんね、点滴さすよー。」

「右手ごめんね、ネームバンドつけるよー。」

「いきむときはここ使ってねー。」

「お母さんが立ち会いたいって言ってるんだけど、いいかな?」

もうそんなこと確認してくれるな、早くいきませてくれ。と思っていた。やっと、産める状態になって

「いきみたいとかある?」

「はい、かなり。」

と僕の出産は始まった。痛いというか、なんというかいまいち覚えていない。とりあえず必死だった。


そして、2016年1月6日17:18元気な女の子が産まれた。


産んだ直後の疲労感というか、なんというか脱力感は半端じゃなかった。でも、赤ちゃんをみて、とても嬉しかったし、なんともいえない感慨深いものがあった。ただの感動じゃなくて、ここまであった多くの辛いことも吹き飛ぶくらいだった。自分が親になったんだという不思議な感覚だった。身長や体重を測りながら、助産師さんたちに聞かれた。

「2人目?」

「いや、1人目です。」

「じゃあ、相当家で我慢したでしょ?」

「んー、陣痛きていたんだと思うんですけど、周りにものすごく痛くて耐えられないものだって聞いていたんで、こんなものじゃないはずと思っていたら破水しました。ちゃんとおしるしも陣痛もあったみたいなんですけど(笑)」

「あら、じゃあ相当我慢強いのね。2人目はもっと早く進むから、今度はなんか変だなと思ったくらいですぐきてね。じゃないと、お家で産むことになっちゃうから。」

と笑いながら言われた。30分もしないうちに、夕食の時間になって、運ばれてきたけど、食欲なんてでなかったけど、なんとなく食べて、やっと病室にうつった。


とりあえずパパに報告。でも、携帯の電源がきれた。充電器も持ってきてない。翌日持ってきてもらうことにしたけど、わからなかったらしく違う充電器を持ってきてくれて、この日は携帯を使えず、次の日やっと周りと連絡がとれた。その日は、もう疲労困憊。20時くらいにベイビーは預かってもらい、明日に備えた。


今までお腹の中にいて、あんなにお腹がでていたのに、なにもなくなってものすごく不思議な感じになった。その日は寝るまで多くのことを考えていた。まさか僕が子どもを産むなんて思いもしなかったし、その選択をするなんて思ってもいなかった。でも、その選択をしてよかったと、わが子の顔をみて思っていた。


女性はこんな必死な思いをして、子どもを産んで育てていることがわかって、僕は他の人よりまた一つ多くの経験ができた。これで少しは女性の大変さもわかったし、これからの役に立つだろうと多くのことを思い返していたら、いつの間にか寝てしまった。


僕はこの日、日記に今までの人生で一番幸せな日。と記した。


翌日からはお風呂や検査以外は常にベイビーと一緒だった。今思えばとてもぎこちないおむつ替えに授乳だったと思う。それも日に日にさまになってきたかな。そして、僕たちは無事退院することができた。生まれるときも親孝行な娘だったけれど、産まれてきてからも夜泣きもせず、しっかり寝てくれて、本当に手がかからない子だ。

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