3-もう一人の”僕”に彼氏ができた


それから僕は少しでも周りの女の子と同じようになれるように、近づけるように努力した。同じように行動してみるとか、話にも積極的に入ってみるとか。

そして、中学2年生のとき、初めて男子と付き合うことになった。

これで少しは女子になれると思った。付き合った相手が他校だということもあって、長続きはしなかった。初めて付き合った相手だったというのもあって、全てが初めてだった。


この人との出会いは、普通の男女だったらなかなかときめくようなものだったと思う。僕たちが出会うきっかけとなったのは、市内の中学2年生だけを対象にした、商工会議所主催の沖縄旅行だった。もちろんこれに参加したきっかけは、沖縄にいきたかったから。それだけ。迷っていたところを、母が後押ししてくれた。ほかの参加生徒は事前に顔合わせなどをしていたが、僕は部活を休むこともできず、顔合わせには参加できなかったので、彼と初めて会ったのは出発の日だった。そして、初めて話したのは沖縄についてから。たしか、彼から声をかけてくれたんだと思う。それから、彼と話す機会は多くなり、食事のときなど席が離れていたけど、なぜかものすごく目が合う回数が多くて、隣の友達にも見てるんじゃない?と言われていた。あの人なんなのかなー?と思っていた。そして、周りも“イベントマジック”にかかっていたのだろう。最終日に向けて、告白するとかしないとかものすごく盛り上がっていた。そして、最終日前日。その日は全員で海に行く日。ビーチバレーやビーチフラッグ、バナナボートにシュノーケルに船、海水浴と自由に遊んでいた。そして、海水浴をしていたときのこと。彼も一緒に泳いでいき、遠浅の海の真ん中で、遠くを見ていたときに告白された。今考えれば、中学2年生にしては、ロマンチックな告白をされたんだと思う。出会って数日で、沖縄の海で告白。

でも、僕はよく意味がわからなかったので、とりあえず「考えたい」と答えた。彼もせっかちで「夜のキャンプファイヤーのときには返事してほしい」といわれた。そして、キャンプファイヤー企画のフォークダンスでペアになったときにOKの返事をした。もちろん好きだからとかじゃなくて、女子になる努力をしていたから、少しでも、そのきっかけにしたかったから。

彼はとても熱心な人で、それから帰るまでいつも一緒にいた。帰りの飛行機も通路を挟んで隣の席に座り、別れるまで隣にいた。飛行機では、小さいノートを使って、会話していた。そして、彼に呼ばれ席を立って座席後部にいくと、突然キスされた。とりあえず、パニック。なにが起きたかわからなかったけど、彼が満足そうだったのは覚えている。そして、もう一つ忘れられなかったのは、彼はそのときことあるごとに「愛してる、結婚しよう」と言っていたこと。最終的に別れることになったとき、「あんなこと言ったの人生で初めてだったのに」と僕に言った。もちろん、「そんなまだ中2だよ?どうせ今だけじゃないの?」と僕は思っていた。でも、その言葉は本当だったかもしれないともっと後になってから気付いた。帰ってからデートもしたし、それなりの付き合いだったと思う。でも、最後は僕からふった。本当に申し訳ないが理由はない。なんとなくだった。終わるってどんな感じなのか知りたかったが一番近い理由だと思う。その彼とは今でも友達。幸せそうにしているので、安心している。


理解できないかもしれないけど、そんなふうに男子と恋愛したこともあった。それから、まあ人並みに付き合ったりしたと思う。もちろん全て女子になるためだ。その時の僕にはこれしか思いつかなった。周りの子と同じようにする。小さい時から男子とばっかり遊んでいたから、今僕の中でなにかおかしなことが起こっているんだ。これを治すためだと。でも、そんなことをしてみても一向に変化が現れることもなくて途方にくれていた。

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