ねぇちゃんと戦おう Act5

「やってくれぇっ!」


 屋外から、そんな『義妹』セイリの声が聞こえた。


「やるぞ! あさぎ!」

「うん!」


 気合い十分なあさぎと共に俺は屋敷の奥へと走っていく。

 俺達は、なるべく無傷でセイリの弟分をこちらに引き入れるつもりだった。





「セイリ。いざとなったら、俺は君の弟分の血を吸うぞ?」


 俺はセイリが屋外へとおもむく前、彼女にそう告げていた。

 当然、セイリは良い顔をしない。


「あいつも『お兄ちゃん』の眷属にするのか? 弟までほしかったとは驚きだ」

「真面目な話。俺が血を吸えば一番平和的に終わると思う」


 これは、俺の本心だった。

 しかし――


「それは平和的な解決なんかじゃない! 『お兄ちゃん』達、そしてあたしにとって都合の良いだけの解決策だ」


 ――そう言ってセイリは拒絶する。


「昴にも『お兄ちゃん』の眷属になれと言うのか? あいつの人生を捻じ曲げることをあたしに見過ごせって、あまつさえその手助けをさせようって言うのかっ!」


 彼女は声を荒げて細腕を振るい、小さな拳を思い切り壁に叩きつけた。


「なら、どうする気だ?」

「昴なら今のあたしと年の頃は同じだ。一人でも戦える。『お兄ちゃん』達は手を出すな」


 そう言って、セイリはキッと俺をにらみ付けながら拳を壁から離す。

 彼女に叩きつけられた壁には、当然傷一つない。

 俺には今のセイリがただの癇癪かんしゃくを起した少女にしか見えなかった。


「あいつは、あたしが追い返す。殺しも『お兄ちゃん』の弟にもさせない」


 声に出された言葉は、彼女には荷が勝ちすぎているのではないだろうか?

 だが、今のセイリには何を言っても共闘などできないだろう。


「なら、俺達で戦闘を二段階に分けよう」


 だから『せめて』と思い俺は、そう提案した。


「まず、セイリが屋外でそいつと戦え。セイリが勝てばそこで終了だ。でも、もし殺されそうになったり、負けそうになったら奴を屋内に引き込め。そこで、俺とあさぎが決着をつける」


 俺とセイリは互いを見据えて、しばらくの間沈黙の中に身を置く。


「わかった。あたしが勝てばいいんだな」

「ああ。けど忘れるなよ、セイリ。お前が危ないと思ったら、俺とあさぎは勝手に助けるぞ。そうなったらどうなっても文句は言わせない。俺は、俺達の親とは違う。身内になったお前を放り出すつもりも見殺しにするつもりもない」


「……それは『お兄ちゃん』なりの親への反抗か?」


 彼女の一言は俺を挑発するようでもあり、たしなめるようにも聞こえた。

 直後、セイリは「ふんっ」と、そっぽを向いてから「わかった」と了承する。


 その姿が、まるでふてくされる妹そのものに思えて、俺は微笑ましかった。


「セイリ……言い方を変えるよ。もし、どうしようもなくなって、君が殺したくも、殺されたくもない時は、俺を頼れ」

「なんだよ急に……」


 いぶかしそうに声を漏らすセイリに構わず、俺はまるで兄のように言葉を続けていく。


「難しく考えなくていい。君がもし彼と一緒に生きたくなったら、俺に言え」


 そんな俺の言い分に、セイリは拍子抜けしたように耳を貸した。

 しかし、こんなことを言うなんて、妹化の影響は彼女達だけにとどまらないのかも知れない。


 俺は時折『義妹』いもうと達の前で、恰好つけたくなっていた。

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