年の差遠恋ノススメ

こむらさき

第1話 輝く着信ランプ

僕はオンナノコでいたくなかった時期があってそんな時にたまたま好みの女の人とライブで出会ったんだ。


僕をオンナノコではないものとして好きでいてくれる彼女のことがその頃は好きだったのかもしれない。

だからずっとずっと僕はオンナノコではない生き物として生きていかないといけない。


「なんでミサキくんが一番じゃないの!!!」


深夜の電話。

怒った声の相手は遠距離恋愛歴4年になりそうな彼女。


14歳も年上で保育士なんてしちゃってて3年前は年上の女性にオトコノコとして好きって言われて嬉しかったなーなんて思ったりして。


本当は僕はリエコなんて可愛い名前なんだけど、オンナノコってのが性に合わなくてムズムズしてライブに行く時に使う偽名、所謂ライブネームなんてものをつけてしまって彼女からはライブネームで常に呼ばれてる。


15歳の頃の黒歴史を常に突きつけていられる感じがすごく心温まるよねなんて考えながら泣きながら怒る彼女の話を全力で聞き流していた。



なんでこうなったのかなーと思い出してみたんだけど、高校の卒業式も終わって新生活だなーバイトの面接だー髪の毛染めようライブももっといけるぞーなんてはしゃぎすぎてね、彼女の誕生日を忘れてたのが怒りの声の原因らしい。


忘れてたと言っても一週間前から彼女への誕生日メッセージは書いてあって下書きに保存してあったし、誕生日プレゼントだって当日に着くように手配はしてたんだ。


でもなーなんでかなー春休みだし、祝日だしでついつい友達と遊んでて、下書きに保存していたメッセージを送り損ねてたんだよね。



一度目の着信があったのは3/21 0時2分。

彼女が誕生日を迎えて2分後。

もちろん友達といるから無視した。

うん、僕は設定上寝てる。

今寝ちゃっててついついメールをね、送りそびれたんだってことにしよう。



続いて二度、三度と僕の携帯電話のバイブが響き渡る。

僕は設定上深い眠りについているからね、これくらいじゃ起きないんだ。


携帯をサイレントモードにして友達ともう少し遊んだ帰り道。

怖くて見れなかった着信履歴にそっと目を落とす。



わあ…彼女からの愛がいっぱいだ。

着信履歴が全て彼女の名前で満たされる。幸せなことだよね。


彼女が誕生日を迎えてから1時間後、一週間前から下書きに保存していたバースデーメッセージに「寝ていて遅れてごめんね」と書き足して送信した。


そして即座に鳴る電話。

泣いている彼女からの第一声が「なんでミサキくんが一番じゃないの!」なんだから参っちゃうよね。

意味が全くわからない上に心当たりもない。


でも僕は彼女にとっては「ミサキくん」であり「オトコノコ」なんだからと妙なこだわりがあって、「ミサキくんならどうすべきなのか」とか考えてしまうんだ。


オンナノコみたいなことを言うと彼女が唐突に不機嫌になるからね、僕はずっと「ミサキくん」でいないといけない。

女の子と付き合ったことがない彼女に告白したのは僕だから、彼女の理想を崩したらダメなんだ。


1時間ぐらい反射的に「ごめんね、大切な日に眠ったりしてたから悲しませちゃったね」って言葉を繰り返していたらやっと彼女が落ち着いてくれた。

眠っていたという設定だけは譲れない。


どうやら、怒った原因は「0時ちょうどに携帯が光ったのでミサキくんからの誕生日メッセージかと思ったら、友達からの誕生日メッセージだったことが悲しくて…」ってことみたい。


おのれ彼女の友達め。


完全に僕が関係ない怒りなんだけどね、来週は京都に彼女がお花見に連れて行ってくれるっていうし、新幹線代も出してくれるっていうからここはやっぱりオトコノコとして彼女の気持ちに寄り添うことが大切なんだって思った。


「一番初めに誕生日おめでとうって言えなくてごめんね、来年はちゃんと寝たりしないでミカちゃんにおめでとうっていうからね」


本当は友達と遊んでてメールを送り忘れたんだけど、彼女ってばとても素直でチャーミングだから「ありがとう、変なことで怒ってごめんね…」って言ってくれた。


30件以上の着信を10分くらいの間に入れてくれるくらい僕のことが好きな彼女のこと、これからもリエコとしてではなくて彼女の理想通りの「ミサキくん」として大切にしていかなくちゃいけないと思うとほんの少しだけ…いや結構…とても心がどんより沈む気がするんだけど、愛の重さ故の気持ちだよね。うん。

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