「ブラッドライン」は、世界のどこにでも存在する。

本作は、中東に位置する架空の国家を主な舞台とする、戦争を題材にした作品です。
ふたつの国家が血で血を洗う闘争を繰り広げ、屍山血河によって設けられた国境であるから「ブラッドライン」。
その国境付近で起きたひとつの事件を巡って、世界のさまざまな視点から描かれる群像劇という体を取っています。

しかし、本作を読んで私が感じたのは、「ブラッドライン」は世界のどこにでも存在する――という事。

本作における「ブラッドライン」は、アラルスタン共和国とラザン独立国との血塗られた闘争の歴史を象徴する国境ですが、
その本質は独善、無理解、傲慢、レイシズム、そういった負の感情に由来する心の壁であり、
その壁の向こう側にいる人を攻撃する事に良心の呵責さえ感じない、人間の醜さそのものが本作のテーマであると感じました。

群像劇の形を取っている本作は、1話ごとに語り部となる視点が切り替わりますが、
いずれの語り部もみな、人間の醜い部分が赤裸々に描かれており、そして心の「ブラッドライン」によって誰かと分かたれている。
誰もが、同じ人間であるはずの誰かと、なぜか傷つけあっている。
そしてそれは、日常的に誰かと対立し得る、現実の我々にとっても他人事ではありません。

『憎しみの始まりを 君は知らない それなのに 渡されたそれを 君は次の人へと手渡していく』
虚しく流れるばかりだったのは、全ての人類に向けた、優しさを忘れないでほしいという願いの歌。
現実を生きる我々はこれを、優しさと平和について考える契機にせねばならないのかもしれません。

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