第11話 使命の先



 その城は、敵が現われてわずか1刻ほどで完全に包囲されていた。


「なんなんだ奴らは!? どこの軍かまだわからんのか!??」

「は…はい。旗指し物もなく、甲冑も見たことのないものでして」

 主力を率いて隣国に攻め入っている殿に代わり、主城の守りを任されていた彼は、天主より幾度も身を乗り出しては謎の軍団の様子を伺う。


 各城門では争乱の声があがっており、攻め手と守り手の間で激しい戦闘が繰り広げられていた。


「まずいまずいまずいまずい! 城には1000ほどの兵しか残されておらぬというに! このままではまずい!!」

 調子にのって、1000も残されれば守りには十分だなどと言わなければよかったと、彼は後悔する。

 どこからともなくこれほどの敵が現われるのを、一体誰が想像できたというのか?


 楽で安全な任務と思い、殿様気分で留守を過ごすつもりだったというのに。





「ほっほっほ。まさに読みどおりじゃな」

「彼が少しづつ鎧甲冑や武器を里に送ってきたのはこういう事ですか。城兵も少ないようで、装備さえ十全なれば我らだけでも落とせる、と」

 城を落とせばすべてが終わる。すでにあちらの国にも、敵の主力の後方を突くよう複数の部隊を向かわせている。


「どこまで先を読んでおるやら……まったく頼もしい限りじゃて。若者少なき我が里は衰退の一途じゃ、表に出ざるをえぬ今、まっこと上手くやってくれよったわい」


「長老。潜入部隊、堀を越えましてございます。先だって矢倉に潜んだ仲間が、潜入口を確保した模様」

「よろしい。我らが本領を発揮する時じゃ。一刻も早く守将が首をあげるよう伝えよ!」

「ハッ!」

 伝令の姿が消える。おそらく3刻の内に城は落ちるだろう。


「1兵でも多く残るように……でしたか?」

「うむ。城を落とそうとも、戦力なくば維持できぬと書かれておったでな」

 つまり今城門を攻めている部隊は囮という事だ。敵がそちらへと釘付けになっている間に、死角より迫る少数の闇の刃が敵将の首を切る。


 もとより長老達の戦力もさして多くはない。


 城を囲んでいるといっても、3割ほどの兵士は藁人形でできた擬兵かかしだったりする。

 城を攻め落とした後の事を考えれば、兵の損耗を抑える策を立てるのは当然だった。


「じゃが、それを遠く離れた隣の国で考え付くのじゃからのう。ほっほ、あやつに与えた使命以上の成果が期待できそうじゃわい」





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