第5話 石か? 玉か?




「助かったのじゃ、礼をいうぞ」

「まさか塀を乗り越えようとなされてる姫がいようとは…驚きました」

 背丈は4尺5寸138cm、体重は12貫ほど40kgといったところだろうか。いや、それ以上に目立つのは…


2尺9寸87cmIcup…くらいか」

 おぶった時に背中に感じた感触は相当のものだった。

 こうして対面して見ても幼い風貌に見合わぬ豊満さ、なるほど壁のぼりも容易でないだろうと思わせる大きさだ。


「ん、何がじゃ? それよりもぬし、父上の家臣なのであろう? ならばわらわの供をせい」

「供…でございますか。一体どちらに行かれようというのです?」

「決まっておる、町じゃ!」






「おぉ、山原様」

「山原様ーっ、ご出世おめでとうございやす!」

 町といってもどこに連れて行くべきか迷ったが、自分の所領であるここが無難だろう。万が一の事もないだろうし城からも近い。

 何より町割りを把握している分、案内を求められても問題なく応える事ができる。


「すごいのぉ、ぬし。民草がみな慕っておるではないか」

「いえ、それほどの事でも…。私めの所領はこの町一つですゆえ、町人との距離が近くなりやすくもありますれば」

「………むー」

 何か不満げだ。気に障るような事をした覚えはないのだが。

 この小さな姫は、仮にも仕える殿の愛娘。侍大将の山原としては上司も当然の存在だ、無礼は許されない。


「ぬし。本当はそのように面倒な性格ではなかろう? わらわの前ではかしこまらずともよいぞ」

「!?」

 なん…だと?―――― 一瞬全身が凍りついたような寒気に覆われた。出会ってよりわずか1刻30分ほどしか経っていない小娘に、己の素性を見透かされたなど、忍にとってこれほど危険を感じさせる事は、そうそうない。


「(いや……、さすがにそこまで見抜かれてはいないだろう。だが、侮れぬものだな、警戒すべきか)」

 居並ぶ家臣達同僚よりも、大殿よりも、今の自分にとって最も危険度の高い人物がまさか姫君であるとは、彼自身思いもよらず心があわ立つ。


「……ぬし、ぬしっ! わらわを放って置いて何を呆けておる。ぬしの名を聞いておるのじゃからこたえぬか」

「ああ、これは失礼を。それがし、山原 条之介 信正と申します」

「むー……まぁよい。山原信正じゃな? しかと覚えておくぞっ」

 間違いない、勘付いている。見抜いているわけではなく、山原という武士の下に何かが隠されていると、彼女は確実に勘付いている。



「(あの人の好さそうな殿様からは想像もつかないな。いや、とんびたかを産む事もあるか。さてどうするか…口封じ…は、今はマズイ。あの殿には他に子がいない分、大事になる。長老に報告して―――)」

 不意に裾を引かれ、姫の方を見る。


「のう、ノブよ。あの娘こちらを見ておるがぬしの知り合いか?」

 指し示す方向に視線を向けると、いつかの町娘が驚いたような表情でこちらを伺っていた。






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