第2話 「さめてほしかったり、ほしくなかったり」」

 『明晰夢めいせきむ』という言葉を聞いたことがある。

 それは睡眠中に見ている夢の中でも、自分自身で『これは夢だ!』と自覚しながら見ている夢の事らしい。

 どのような条件をもとに明晰夢を見ることができるかは未だ分かっていないため、意図的に見ようとすることはできないそうだ。

 しかし、明晰夢を見るには最低限の条件が存在する。

 一つは『眠る』ことだ。寝なけりゃ夢は見られない。当たり前である。

 もう一つは『夢を自覚しても起きない』ことだ。

 夢だと分かった時、そのことで驚いたり怖がってはいけない。

 驚きや恐怖で心拍数が上がると、睡眠状態から活動状態に移行して目が覚めてしまうのだそうだ。



 俺は今この最低条件二つをクリアし明晰夢を見ている。

 

 ちなみに先程の明晰夢の情報はWikipediaに記載されていたものだ。

 それは、前々から明晰夢について調べ記憶していたのではない。

 この左腕にあるタブレット……画面に触れてみると何やらホーム画面らしきものに切り替わり、その上側に『Google』があったのだ。

 

 いきなり現実味のある事象に自分の夢ながら笑ってしまった。

 ということで先程の知識はすべて『明晰夢』でGoogle検索をかけて得たものである。

 一応言っとくが夢の中で。

 だから全く持って正しくないはずだ。情報は鵜呑うのみにしてはいけない。



 とまあ茶番は終わりにしよう。

 とりあえず、せっかくこんな綺麗な世界にいるのだから目が覚めるまで味わおうではないか。


 こうして川から離れ俺は歩き出した。



「うげぇ、マジかよ……」

 意気揚々としていたのは河川敷を出るまでだった。

 そこには広大な草原が広がっており、ちらほらと動物が見える。

 ――その動物が動物じゃなかった。

 中にはウサギのように小さくて可愛いものもいるが、俺の視界に映るおよそ半分の個体は現実世界では見られないものだった。


 背丈は人間よりもゆうにデカく、立派な逆三角形の体格をもつ半人半獣――『オーク』がそこにいた。


「いや、あれ絶対襲ってくるでしょ……」

 動物というよりは完全にモンスターである。

 とにかく見つかったら襲われる。

 そう確信した俺は姿勢を低くし「ゆっくり、ゆっくり……」と呟きながら、オークのいない方向へ移動しだした。


 そんな精神労働が功をそうしたのか、20分ほど進むと遠くに大きな壁に囲まれた都市らしきものを確認できた。


「おお! あれはすげぇ!」

 遠くからでもわかる、氷やクリスタルのように青白い透明な建物がそこにある。

 あまりの幻想さに俺は興奮し立ち尽くしていた。

 あそこまで行けば何か新しいものが見られる!

 そう確信した俺はあの幻想的な都市に向かって駆け出そうとした。

 

 その期待に満ちた背中を黒い大きな影が覆ったのはほぼ同時だった。

 

 俺は背筋が凍るのを感じた。

 一気に心拍数が上がり、背中に脂汗をかくこの感覚は現実以上にリアルだった。


 恐る恐る振り返ると、案の定そこに背丈が3m以上ある屈強なオークがいた。

 その手にはこれまた俺の身長よりも大きい鼠色の棍棒が握られていた。

 ジッとその真っ赤な瞳に睨まれ俺は声を上げることも、その場から動くこともできなかった。

「グルァァァァァァァ!!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 鼓膜が破れそうなほどの咆哮ほうこうにようやく俺も叫ぶことができ、必死で逃げ出す。

 

 何でだよ! 何でだよ! 何で覚めないんだよ!

 普通これだけ驚いたり恐怖したりすれば夢って覚めるだろ!!

 心臓だってこんなにバックバクなのにどうして覚めないんだよ!


 全速力で走りながら目が覚めないことをただ恨む。

 夢だというのに息は段々と荒くなり、脚には疲労さえ感じる


 おかしい! おかしい! おかしい!!!!

「夢ならさっさと覚めろ!!!」

 あらん感情を声にして吐き出す。

 

 だが叫んだところで俺の脚は止まった。

「所詮……夢……なのか」

 ぜえぜえと荒い息をしながら、俺はあることを思い出していた。

 それは今朝千夏が電車の中で言っていたこと。


『お兄ちゃんはクール振ってるように見えるけど、実はただチキンなだけなんです』 

 チキン……そもそも俺は臆病なのだ。

 いつもいつも自信が無くて、失敗を恐れ前に踏み出そうとしない。

 姫神舞のことだってそうだ。

 ホントは彼女と話してみたい、友達になりたいって思っている。

 そうだと分かっているにも関わらず、「クラスが違うから」とか「もう受験だから」と自分に言い聞かせて何もしてこなかった。

 

 このまま逃げるだけでいいのか?

 せめて夢の中でくらい勇敢な姿を見せてみろよ!!

 

 心の中で、こんな自分を変えたい自分がそう叫んでいた。


 陽斗はゆっくりと振り返る。

 オークの足はさほど速くないらしく、20mくらいの距離ができている。

 

 怖い、逃げ出したい、怖い……。

 そう思う気持ちを何度も「ここは夢の中だ」と言い聞かせ宥(なだ)める。

 

 俺は深呼吸し、左腰に差してある剣を抜く。

 すると『チリン♪』と左腕のタブレットから音がした。

 覗くとその画面は《Fighting trim》と書かれていた。

「戦闘態勢ってことだよな……」

 少し気になったが、近づくオークを前にあまり考えなかった。

 

 ドスンドスンとゆっくりではあるが重たい音に圧倒される。

 だが勇気を振り絞り、オークに向かってこちらも重たい一歩を踏み出した。

「うおぉぉぉぉ!!!」

 初めの一歩を踏み出した後は身体が軽く感じられた。

 こんなに速く走れたっけ? と疑うほどであった。

 

 オークは俺が間合いに入ると、右手の棍棒を高く振り上げた。

 あの一撃を食らったら間違いなく死ぬだろうな。直感で分かった。

 でも怖気づくことはなかった。なぜだかあの攻撃をかわせる自信があった。

 

 右手からほぼ垂直に棍棒が振り落される。

 オークに突っ込みながらその一撃を半身でかわす。

 そして棍棒を振り切ったオークの、その無防備な腹を狙って右手の剣を思いきり振りぬいた。

 

 感触は殆どなかった。

 だから最初「空振りしてしまった?」と焦ってしまった。

 すぐに振り返りオークの姿を確認する。

 オークはピクリとも動かず立っていた……が数秒後その上半身がグラッと傾きはじめ、下半身から離れだし……最後にはバタン! と地面に崩れ落ちた。


 オークとの戦いに勝利した瞬間だった。


「やったのか……俺があの化け物を倒したのか……?」

 自分でも疑いたくなるほどだった。

 現実以上に恐怖し怯えたあの状況から俺は勇気をだし立ち向かったのだ。

 その事にただ感動する。

 

 俺だって変われるかもしれないと本気で思えた。

 これは夢に過ぎないのだし、起きたら何をしたのかなんて忘れてしまうのかもしれない。

 けれども、せめて「臆病な自分も変えられるんだ」という思いは忘れないでいたい。

 そう切に願った。


「……にしても覚めないな……」

 あれだけの行動をしたというのに未だに夢の中にいる。

 おかしいとは思ったが、先程の勝利による気持ちの高ぶりと心理的余裕から悲観的にはならなかった。

 まあ、そのうち覚めるだろ。むしろ覚めないのならもっと色々試してみようじゃないか。

 

 周囲にはオークのようなモンスターは無く、襲われる心配はなさそうだ。    


 そうだ左腕のタブレットを見てみよう。

 現実と同じようにタッチパネルになっていて、アプリケーションのようなアイコンがいくつかある。

「ステータス、スキル、装備、アイテム、マップ……まるでRPGだな」

 あまりそういったゲームはやってこなかったんだけどな、と自分の夢ながら呆れてしまう。とりあえずステータスのアイコンを開いてみた。

「STR、VIT、INT……何だかわかんねーな。とりあえずAGIってのが一番高いのは分かる」

 3字の横文字の横に棒グラフのようなものがあるが、AGIの横だけ突出していた。

 

 次にスキルを開いてみた。しかし、これもなんだかわからないカタカナ言葉が並んでいたのですぐに閉じた。今度はよくわかりそうな装備を開く。

 すると武器や体装備といった欄が出てきたので武器押してみる。

「バスタードソード……へえ、この剣はそんな名前だったんだ」

 バスタードソードという文字の前に銅色の丸があるが、これはレア度かなんかだろうか。

 次に体装備を開いてみる。武器よりも所持数が多いが大してわかることはない。

 わかるのは今装備しているのが『ラピスラズリ』ということくらいだ。

 つか、これ宝石の名前じゃん。

 

 色々いじりながら俺はあることを考えた。

「装備を他のに変えたらどうなるんだ……」

 ちょっとした好奇心から体装備を『ラピスラズリ』から『ルビーメイル』に変えてみた。

すると……

「うあ! 変わった!」

 期待していた通り着ていた瑠璃色の薄絹が赤黒いものに一瞬で切り替わった。

 もはや本格的にRPGだと思う。


 夢は個人の深層心理を表していると聞いたことがあるが、ホントは俺もこんな世界に憧れを抱いていたのかもしれない。

 最初は怖かったモンスターとの戦闘、装備の切り替え、そしてこの開放感溢れるフィールドに俺は心を躍らせていた。


 誰が見ているわけでもないんだ。この際存分にゲームのようなこの世界を楽しもう。


 

 俺はそう決心し、何度か衣装チェンジをして遊ぶと、前方に見える氷のような都市に向かって駆け出した。




* * * * * * * * * * * * 


 途中何度かオークと出くわすことがあった。

 しかし、もう怯えることはなく、むしろ戦闘を楽しむかのように自ら接近しては倒していった。

 勢いを緩めることはなく、ひたすら前方の都市を目指して走る。

 

 そして気づけば現実では考えられないほど長い距離を走っていた。

 だが疲れを感じることもなく至って余裕である。マラソンランナーなどは常にこんな感じなのだろう。 羨ましい。


 だいぶ都市に近づいた。あと500mといったところだろうか。

 そう感じた直後、俺は城壁の手前に見えるものに気付き足を止める。


 前方から都市と同じ氷のような色合いの衣装を着た4、5人ほどの兵士がやってきたのだ。


 俺はこの世界で初めて見た人間に興奮し、喜んで駆け寄った。

 所詮自分の夢の中。そんなことは分かっていたが、それでもこの世界のことを聞いたらどんな返答をするのだろうか。

 明晰夢を見た人の中には自分の思い通りに夢の展開を変えられると言っていた人もいるらしい。

 そのことを思い出して、俺はこの世界の命運を託された勇者だったりしないかなと調子のいい願望を抱いた。

 こんな中二脳を千夏に知られたらキモいとか言われかねないが、そんなことを想像するのが楽しいのだ。

 仕方がない。



 そんな浮ついたことを考えて顔がニヤついてしまっていたのだろうか?

 兵士たちは俺の存在に気付くと躊躇なく腰の剣を抜いた。


「へっ?」

 予想もしてなかった好戦的な視線に戸惑い立ち止まる。

 すると真ん中にいたリーダー風の背の高い男が俺に向かって数歩近づいてきた。


「貴様、何故ここにいる。どこの国のものだ?」

 威圧感のある声でそう尋ねられた。 

「な、何故って言われても……。国とかそんなの知らないし……」

「国がわからないだと? 貴様さてはフュージティブか!」

 ふゅ、ふゅーじてぃぶ?

 何だかよくわからないものに勝手に分類され、先程よりも格段に殺気に満ちた視線を向けられる。


「忌々しきフュージティブがよくもまあノコノコと……。お前ら! 一斉にかかってあの者を捕えろ!」

「ウラァァァァァァァ!!」

 彼らは雄たけびを上げると、俺に向かって一目散に走ってきた。


 ちょ、ちょっとこれってかなり不味いんじゃないか!

 迫りくる兵士たちは近づけば近づくほど、俺よりもずっと屈強で手練れた戦士だということが分かる。

 こんなの勝てる気がしねぇー!!


 オーク相手の時とは逆に全く自信がわいてこなかった。

 俺は後ろに振り返ると一目散に逃げた。


 こんなイベント望んでねーよ!!

 明晰夢は自分の思い通りに変えることができる……あれは人によりけりだな。

 仮に彼らに捕らえられたとして、その後どうなるかはわからないが、あの雰囲気からして良くて捕虜だろう。

 そうなれば俺の夢はBAD END不可避である。

 こうして俺は夢の中で二度目の全力疾走をした。



* * * * * * * * * * * * 


 どのくらい走ったのかはわからない。

 ただ、相手の装備が重かったのだろうか。気づけば完全に逃げ切っていた。

 そして俺は、一目散に駆け込んだ洞窟の中にいた。


 追い手を撒いたと気付いて初めて周囲を冷静に見渡せた。

 明かりは殆どなく、道幅も2m程と決して広くはなかった。

 ただ高さには余裕があるようでジャンプしても手が届くことはなかった。


 目は慣れてきたけど、それでもこのまま進むのは不安だ。

 俺は何か照明の代わりになるものがないか探した。

 

 それはすぐに見つかった。

 いくらタブレットとはいえ懐中電灯までついてないだろう、そんな都合がいいことないだろうと思っていたが、普通に『ツール』というフォルダの中にあったのだ。

 この都合のよさが何故先程の兵士たちとの出会いで起きなかったのかが甚だ疑問である。


 タブレットの懐中電灯機能を利用すると5m前後の視界を確保できた。

 すでに50m程中に入っているが、洞窟はかなり奥まで続いていそうである。

 今洞窟を出ても兵士たちが近くにいるかもしれないし、だからといってここに居続けるのも楽しくないので、さらに奥の方へ進むことにした。

 

 こういう洞窟ってモンスターとか結構出てきそうだよな……。

 内心ビクビクしているが、新たなモンスターと戦ってみたいという好奇心もあり落ち着かない気持ちである。

 

 しかし、予想に反してモンスターは出てこない。

 ここは安全地帯なのだろうか?

 そんなことも思ったが、この洞窟の奥にはただならぬ何かがありそうな予感がしてやまない。


 ふと、明かりを足元にあてたときあるものが目に入った。

「これは……足跡?」

 そこにはこの洞窟の奥に向かって進んでいる足跡があった。

 それはきちんとした靴の跡が残っていて明らかに人のものだった。

 足跡は奥へだけ伸びていて引き戻す向きにはない。洞窟はどんどん狭くなっていて出口など当分見えそうにない。それはつまり……


 ――――この奥に人がいる!?


 いや待て待て、人がいるって言ってもさっきみたく、まともに会話すらできないかもしれないんだぞ。

 でも、足跡が一つってことは奥にいるのは一人だけ……であるなら兵士たちの時よりはうまくやれるんじゃないか?


 そんなことを考え、この洞窟の先をさらに目指したくなった俺は進むペースを上げた。


 グラララ……


「ん?」


グララララ……

 

 地面が……いや、洞窟全体が揺れているような音が響く。

 前へ進むにつれその音は大きくなる。


 そして、正面から体が吹き飛ぶような強い風が吹く。

 

 その時直感した。これ以上進むのはヤバいということを。

 神様が戻れと告げているのか……。


 自分でも呆れるほどのテンションの上がり下がりだが、仕方のないことだ。

 それにしても結構長い時間進んできたよな……。後ろを振り返りそんなことを思う。

 臆病者の自分が一人でこんなにできたのだ。この自信をどうにか現実にまで持って帰りたいよな、と感慨に浸る。


「さて、さすがに引き返すとするか。ここまでよくこれたよ」

 これ以上進むことを断念し、入り口に向かって歩を進める。


 その声が聞こえたのは戻り始めて5,6歩進んだかどうかのところだった。


「――――きゃあっ!!!!」

 女性の悲鳴がした。俺は自然と立ち止まる。


 声からしてそう遠くないところで女性が悲鳴を上げている。

 つまり先ほどの足跡は彼女のものということか。そして洞窟の振動と突然の突風……。


 一度、戦闘を経験した今だからわかる。

 ――間違いなく女性はモンスターに襲われている。

 そうか、さっきの地鳴りも突風も戦闘によるものだったのか……。


 ……助けなきゃ。 真っ先にそう思った。

 普段なら「どうせ俺なんかが行っても……」と考え何もしなかっただろう。


 だが、夢の中で得た自信は俺に勇気をくれた。

 そうして洞窟の奥へ向かって全力で走った。

 このまま逃げだしたら目が覚めた後、きっと後悔する。だからこの選択は間違っちゃいない。

 そう心で思いながらひたすら走った。


 すぐに視界に変化が生じた。

 日の光というほど明るくもないが、薄い明かりが見えてきた。

 その明かりは近づけば近づくほど大きくなり、やがて……。

 一瞬その光に全身を包まれたような……気がした。


 もちろん実際にはそうではなかった。

 それまでの細い道を抜け、とても広い体育館のような空間に俺はいた。

 この空間全体が薄い明かりに包まれていて懐中電灯が無くても視界を確保することができた。


「ここは……」

 そうして俺に二つの衝撃が走った。

 一つはこの空間に入って真っ先に目についた。

 視界の左側、20mほど奥に全身赤黒い肌で覆われ、体長20m以上はあると思われる巨大なドラゴンがいた。

 そいつは4本の脚で地面に立ちその黄色い目を文字通り光らせていた。

 現実では考えられないスケールと迫力に俺はただ圧倒された。


 だがそのドラゴンに引きをとらない、むしろそれ以上のものが二つ目の衝撃だった。

 

 それは視界の右側、ドラゴンの反対側にいた。

 赤く煌びやかな……けれど戦闘でボロボロになったコートを身にまとったその人物は、プラチナゴールドのサイドだけが長い特徴的な髪形で……


「――(姫神舞さんっ……)」


 俺は息を飲み込んでしまった。何故彼女がここに?

 そんなことを思ったが、理由は簡単である。「俺の夢」だからだ。

 彼女の事をよく考えているばかりに夢の中にまで呼び出してしまったみたいだ。


 ――――ならもっとマシな出し方をしてほしかった。

 お洒落なカフェで舞さんとデートとかもっとこう……

 せめてこんな物騒な戦闘に巻き込ませたくはなかった、それが例え夢の中であっても。


 俺がこの二つの衝撃に声も出せずに立ち尽くしていると、少女はこちらを向き俺の存在に気付く。

 ――やっぱり舞さんだ。

 そのルビーのような赤い瞳を見て確信した。


 しかし、その後の展開は予想外だった。

 彼女は俺と目が合うなり、その顔が驚きに満ちたものへと豹変した。

 あの『アンドロイド』と呼ばれた彼女の表情が変化したのだ。

 そして……。


「はっ…………早く逃げて!!!!」


 彼女が大声で叫んだ。

 俺は彼女の声すら聞いたことないはずだ。だがその声は透き通るように美しく、真っ直ぐ俺の脳内に響き渡った。

 俺の中の彼女の神聖なイメージが作り上げたのだろうか?

 なら、笑ってしまうよな。

彼女にあんな必死な表情をさせたのも俺のイメージなのだから……。


「早く!!!!」

 彼女は必死に叫ぶ。だが勿論逃げる気などない。

 夢でさえも彼女の前から逃げ出してしまったら、一生彼女に近づくことはできないだろう。

 それに逃げるという選択肢はとっくに捨ててきたはずだ。


 俺は左腰の《バスタードソード》を抜く。

 するとやはり『チリン♪』と音が鳴り。タブレット上に《Fighting trim》という文字が表示される。


 絶対に彼女を助ける……。

 

 それまで、夢よ覚めないでくれ。

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