第33話 これからと - 2


「彼氏もいないのに、結婚なんてしてるわけないないでしょ」と左に薬指を突き出して見せてくれた。


 聞きたいことを1度に答えてくれて私としては助かった。


「お互い寂しいな」


 私がしみじみとそう言うと、彼女はどこか遠いところを見ながら、「職場で彼氏いないの私とお局さんだけなんだよね」とつぶやくように言う。


 人は変わる。大学の時彼女は決してそんなことは言わなかったし、そんな話題は淡泊に一刀両断していた。

 彼女の瞳に、一抹の寂しさのような光が見えたのは、私の先入観だろうか。


 少しの沈黙の後、私は今更と思いながらも、バージニアで見かけた2人のことを話した。


「へぇ、なんかいいね。そういうの。でも、私達の居場所がなくなったみたいで寂しいけど」


「まあ、もう9年も前の話だから」


「その2人は居なくても、違う2人の物語が始まってるよきっと」



「そうかな、そうだと良いな」


「店長さん元気かな。ちょっと会いたくなっちゃった」


「根本的にバージニア自体あるのかな」と苦笑する私。


「どうしてそんな夢の無いことを言うの?そういう後ろ向きなところが駄目なんだってさっき言ったでしょ」


「はいはい」



 忘れようとも思わず、忘れたいとも思わなかったバージニアでの思い出。

 

 宵の口過ぎるまではじめて出会った時から順々に、お互いにどんな心境だったのかを話し合った。お互いにかみ合っていなかったことに笑いあったし、こうして良い思い出として語れる喜びを確認し合った。


 どれだけバージニアンの思い出話しに花が咲こうとも、彼女も私もバージニアに行こうとは言わなかった。


 夜のとばりが降りる頃。駅前まで歩く途中で私が思い出して、「最初見たとき、魔女みたいだって思った」と言うと、彼女は眼を丸めて「それ前にも聞いた」と肩をこずいた。


 別れ際、私は静かに連絡先を聞いた。


 すると、


「そういうのが遅いの今でも変わらないのね」と彼女は苦笑いを浮かべ、「もう聞いてくれないのかと思った」と言った。


「ごめんよ。奥手なもんで」


  「なら言えばいいだろ」大学生の頃の私なら、ついそう言ってしまったかもしれない。私も少しは大人になれただろうか。



 ラインとメールと電話番号を交換してその日は彼女と別れた。





 縁は異なもの味なものと言うが、本当に面白い。まさかこんなドラマのような小説の中のような再会を自分自身が経験をするなんて。


 その日から1ケ月と少し、また彼女と毎日、数えるほどのやりとりをラインでしている。

 

 不思議と9年の時を経て、あの頃よりも彼女のことを理解できているような気がする。


 未来のことはわからない。


 だが、彼女に話したいことが残っている。



 絶対に話そうと決めているのが、秒速5センチメートル。



 



 もう一つは……



 伝えるかどうかはまだ決めていない。



 これから、それを考えるかどうかも、まだ決めていない。


 


    


                             ~終~




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