第26話  焦燥感

秒速5センチメートル。


 桜の花びらが落ちる速度なのだそうだ。



 年末年始にかけて、テレビを見る時間が長かった。色々と年明けに彼女と会ったときの話題にと脳内のメモ帳に記録しておいたのだが、結局はこれしか残っていなかった。


 おせちに初詣、後は寝正月。毎年変わらずの平均的な正月を過ごした。


 彼女とはクリスマス以降、新年の挨拶をメールで交わしから連絡を取っていない。

 毎日会っていたことを考えると、環境が変わるとこうも脆いものなのかと諦める反面、だからこそ、2人の気持ちをつなぎ留めておく[恋人]と言う鎹が必要なのだと理解した。


 卒業まで数ヶ月、卒業認定の単位はお互いに足りているから、主に今年は卒業論文が主となる。だから、彼女と大学で共に過ごす時間は極端に減る。


 たった2週間ほどの間ですら、この様なのである。彼女が帰郷してしまったなら、たちまち音信不通になってしまうだろう。


 ため息をつきながら、そんな絶望的な未来に想いを馳せれば馳せるほど、24日に臆病風に吹かれた自分を叱責する念に堪えない。


「{9日学校行く?}」


 だから、彼女からそんなメールが来たことがとても嬉しかった。


「{行くよ}」


 本当はもっと、色々と書きたかったが、平然を装ってそれだけを返した。


「{わかった。それじゃ9日ね}」



 途端に9日が待ち遠しくなった。



 我ながら単純だと呆れた。 

 


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