第21話 12月24日 - 2

 最寄り駅からの道のりは歩いて行くことにした。その土地の情緒に触れたいと言う彼女の意見に私は頷いた。


 伊勢神宮 内宮


 彼女がメールで行きたいと言った場所。神話好きな彼女だから、妙にしっくりくると思った。

 クリスマスに伊勢神宮なんて。当然そう思う気持ちはあったが、それはもう諦めた。


 駅から歩いたこともあって滞在時間は2時間にも満たない。


 とはいえ、なぜか、どうにかなる。そんな気がしていた。


 おかげ横丁で名物の松阪牛の牛丼を食べ、活気のある土産物店を見て回る。

 彼女の出で立ちが少し周囲から浮いていて面白かった。


 内宮に参拝に向かう道すがら、豆砂利の道に踵をとられて歩きにくそうにしている彼女を見ると、オシャレは大変なのだと思った。だが、当の彼女は厳かで霊験灼然な他の神社仏閣と一線を画す、憧れの地に興奮を隠せない様子で、


「日本の偶像崇拝のはじまりと分岐点を同時に見てる感じ。来てよかった。本当に来てよかった」と写真を沢山撮っていた。


 参拝を終え、御朱印をもらって、内宮を後にした。


 特急の時間を考えると選択肢はなく、帰りはタクシーを使った。


 帰りの特急に飛び乗り、座席に腰を下ろすと私にはディナーに間に合うと言う安堵感が一気に広がったが、一方の彼女は名残惜しそうに窓の外を見ていた。 

 

「どうだった?天照大神のおわすお伊勢さんは」


「すごく良かった。在学中に行けないかな。とは思ってたんだけど、結局行かないできてたから、心残りだったんだよね」


「にしてもクリスマスに伊勢神宮って、どうなんだろうなあ」


 西洋の宗教行事の日に日本国民の総氏神の地を巡拝すると言う。ミスマッチ感。


「そうかな。クリスマスだったから、人が少なかったのかもしれないし、でも結構いたよね。カップルとかも多くて驚いた」


 それは彼女の言う通りだった。


 そして、考えてみれば、彼女と私の関係がどうであろうと、傍から見れば私と彼女はカップルに見える。USJに行こうが伊勢神宮に行こうがそれに変わりはない。

 

「USJとか海遊館とかベターなデートスポットに行きつくした、高レベルなカップルが伊勢神宮に来るんだよきっと」


「そんなものかなあ。2人で居て楽しいのなら、行く場所はどこでもいいと思うんだけど」


 彼女の言う事は的を射て恐らく正論だろう。



 だから、今回も私はぐうの音も出なかった。  

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