第6話 最初の違和感

 「見られるのは嫌だけど、本を読んでいる人の横顔を見るのは好き」


 ハリーポッターの続編を読み耽る私に、彼女がそう言った。そんなことを言われた私は、それっきり読書に集中なんてできないで、時折、横目で彼女が私を見ていないかと気になってしょうがなかった。


 それを知ってか知らずか、彼女は足を組んだまま黙々と涼し気な横顔のままで文字を追っている。彼女もすっかりハリーポッターの世界に魅了されてしまったのだ。

 

 7月に入ってから、私と彼女は付属図書館横にあるタイル張りのちょっとしたスペースで本を読むようになった。

 正午以外は常に日陰で風がよく通るその場所は、蒸し暑い最中でも、比較的過ごしやすかった。


 私はバージニアに次ぐ、彼女のお気に入りの場所なのだと思った。


 

 私は彼女の横顔をずっと見ていた。いたずらな風が波打った髪の毛を無意識に耳の後ろに掻き揚げる仕草も、時折、小さく動く唇も、どれもこれもとても魅力的に見えて仕方がなかった。

 

 彼女は青系の色が好みらしい。


 今日のいで立ちはスカイブルーのブラウスにそれよりも少し明るいロングスカートだ。

 初めて会った時は群青色のブラウスを着ていたし、昨日は蒼色、一昨日は明るい藍色だったと思う。そして、彼女の座右の銘は[青は藍より出でて藍より青し]なのだと聞いた。

 黒髪がそう思わせるのか、彼女に明るい色は似合わないと私も思った。


 そう言ったら、彼女は怒るだろうか。



 彼女の横顔を見ていると、彼女の言う意味がわかった気がした。そして、彼女はページをめくるとき、瞬きをする癖があることも発見をした。


 並んで腰かけて、話すわけでもなくそれぞれに本を読むだけの時間。バージニアではじめて出会った時から数えて何十時間と過ごしてきた時間。


 心地が良かった時間。


 当たり前だった時間。


 

 

 だったのに、今日初めて、それがもどかしく感じた。



 彼女の横顔を見つめていればいるほどに。そう感じた。

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