第4話 コーラ以外コーラじゃないの

 居間


「本当に飲んでしまったのか?」


 香也は俺の説明を聞き終わると、今世紀最大の笑顔で俺に言ってきた。

 具体的に言うと、スマイリーみたいな感じで。


「え? ああ、そうだけど……」


「こっ、こんな古いビンの中身を?」


 空っぽになったDCSのビンを軽く振りながら、欲は無く、決して怒らず、香也は静かに笑っている。


 ビンの中に僅かに残った液が、それに反応するように、ほんのりとチェレンコフ放射する。

 ビンが真っ青な光に包まれてきれい。


「そうだ。すごくあまくておいしかった。たんさんもすごかった。またのみたいとおもった」


 俺は、いまさっき思ったことをありのままに伝えた。


 美化もせず、風化もせず、1ビット足りとも違うことなく伝えた。


「それで具合は?」


「すっごい腹痛プラス殴られたみたいな痛みが……」


「後者は気のせいだろう。おそらくは、あの液体の影響だろう」


「本当かなぁ?」


 俺は、妹の医学知識に疑問を呈する。

 妹なんて、おやつを食わねば死んでしまう病を治すぐらいの知識しかないはずだ。


「まぁ、疑わしく思うのも当然かもな。それならば、セカンドオピニオンとして、専門家に意見を聞いてやろう」


 そう言うと香也は、ケータイを取り出した。


 ピ・ポ・パ


 STANDING-BY


 とうおるるるるるるるるるるるるるるる。

 るるるん。

 とおおるるるるるるるるるるる。


「えっ、どこに掛けてんの?」


「私の知り合いの名医さ。かつては軍医をしていた身長282センチの白髪のドイツ人なんだ。無免許ではあるが、腕は確かだよ。シャム双生児の分離手術の権威でもある。ちなみに肝臓で酒を飲むのが好きらしい」


「えっ……完全に地雷が見えてるんだけど。えっ、いや、本当にやめない? いや本当に。ラッパのマークで十ぶ__」


「もしもし? あっ、ども。お久しぶりです」


「遅かったか……」


 俺は、今まで聞いたことがないくらいに軽快な香也のトークを隣で聞いていた。


「ムカ……刺激的………あんら……羊……なるほど……」


「香也すげー。医者とサシで話し合ってるよ。賢い」


 妹の成長を実感し、ほろりと来そうになっちまったよ。


「ああ、オーケーオーケー。HAHAHA。んっ?…………その言葉が聞きたかった」


 そうやって話してる電話口からね、知らない男の声が、スーって聞こえてきたんだよ。

 そんで俺は、こわいなぁこわいなぁ、って考えてた。


 でもね、香也は楽しそうに笑ってんだ。


 そんで俺は、「なんだ思い過ごしか」って思ったんだ。


 そしたらね。


 香也が言ったんだ。


「今から連れてく」



 コワイ!

 凍るようなMy Spine。

 おい、このままだと地獄さ行ぐんだで。


「ハーイ、オッケー。フフフ」


 そう香也が言ったのを最後に、電話は切れてしまったようだ。


 だが、あとに残されたのは、えらく嬉しそうな妹。

 コレは何かが起こりそうな予感がして、もうたまらないのさ。


「これあかんやつや」


 そんな、僕のこの声も、闇に虚しく吸い込まれた。


「おい、ヒューマン」


 こいつはヘビーになるぞ……。


「どしたのわさわさ」


 これは精一杯の空元気だ。

 これでほんのすこしでも、香也が怯んで硬直時間が発生すれば……逃げられ__


「ヒューマンは、これから……」


 だが、まわりこまれてしまった!


 香也は怯み耐性が高い。

 序盤、中盤、終盤、隙がないよね。


「私と病院に行くことになった」


 ほら来た。

 つみて"す。


 まるで、ブルーピーコックの鶏になったみたいな気分だ。


 死にたくなーい!


 まぁ、PPが0になったつもりで最後まで抵抗するさ。


「こっ、これから学校だゾ。さすがに、今からなんて……」


「馬鹿め。今日は開校記念日ではないか。構わん、行け」


 ガーンだな……出鼻を挫かれた。


 ネクストチャンス。


「ほっ、ほら! 大して腹も痛く無くなって……」


「もう1度殴ればいいのかね?」


 誤魔化すつもりもないんだなぁ。


「あっ、いや、そういうわけじゃ……」


「決断は早くした方がいい。向こうが言うには、早くせねば2度とコーラが飲めなくなると言うはな__」


「なんだって!? それは本当かい?」


 俺は凄まじい勢いで食いついた。

 いや、コーラの話題に食いつくってなんか矛盾してるような……いや、こまけぇこたぁいいんだよ!


「ああ、本当だとも。一刻を争う事態だ。彼の診断は3割当たる」


「えっ、マッ、マジかよ……。そっ、それならば急がねばなるまいよ!」


 俺は、未だ見ぬマッドドクターの脅威すらをも凌駕するコーラ喪失の恐怖に包まれた。


 だって、コーラを飲めない俺なんて、木の実を食べられないフルータリアンみたいなもんだよ。

 もしくは、光合成できない葉緑体だ。


「よし、それなら早速準__」


「うるせぇ!! 行こう!!!!」


「えっ」


 一転攻勢。

 香也に有無を言わせる暇など与えない。


 ビンを持っている香也の腕を無理矢理掴み、玄関に向かって全力競歩。

 俺の歩きは、数秒と経たずに、最高速をマークしていた。

 俺の最高歩行速度はチーターに匹敵するとされる。

 古今和歌集にも書いてある。


「さぁ、急ぐぞ!」


「あっ、えっ!」


 俺の突然の行動に慌てふためく香也。

 そんなものは断固無視だ。


 どこに病院があるのかは知らないが、迷わず行くよ。

 行けば分かるさ。


「ぬぅぅうぉぉぉっっ!! ボンッッバァァーーッッ!!」


 統人ボンバイエ!


「ちょっ、待てい! ヒューマン!」


「待ったねー!!」


 こうして、俺たち兄妹は玄関を飛び出した。


 しかし、俺たちはまだ知らない。


 この、目の前に広がる地平には数々のドラマと、嵐を呼ぶ敵の牙が待ち受けていることを……。



______________


SPECIALTHANKS

・緑髪の野郎様

・魔人探偵様

・ジャケット見て、ピンヘッドとスクリームの中間っぽく思った様

・デクノボウ様

・角勇五郎兄さん

・電人とそのオリジナル様

・森の熊さん様

・ウソつきウ様

・7538315様

・電話待ってます様

・死神の化身様

・ハゲ様

・つなげてみたい様

・羊の鳴き声はまだ聞こえるかね?様

・オレンジって?ああ!それって奇跡?様

・夏の風物詩様

・ブードゥー様

・プ、プ、プロレタリア!様

・たこ焼き様

・8(7)様

・走り出した思い様

・誰がチキンだって?様

・殺して様

・素早さを上げよう

・だけど俺らは負けないよ様

・リスペクト様

・偽者様

・わるあがき様

・歩道が(略)様

・アームロック様

・Φ様

・一億のガラス玉様

・何を好きかで自分を語らない様

・実際ハヤイ様

・熱血乙女様

・アントニオ様

・ズガガンガガンガン様


・ANDYOU

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