だんじょん・くえすと~おんなのこだけでいくとアブないですよ~

ままかり

第1話

 ここは城下町の外れに立つ、古ぼけた一軒家。赤い屋根の、石積み二階建ての民家である。


 このあたりではやや狭小な物件であるものの、改築でネタになるほど手狭でもないのであった。


 そこは、この街の住人ならばだれでも知っている場所。


 設置されたプレートには、こうある。


『勇者の生家』


 まさに、ここが、あの……。


 かつて、この国から世界を救うべく旅立った勇者の家。


 しかし、この家の住人=勇者の娘にとってみれば、となりの大きな建物、


『国立大勇者記念館』


のせいで日当たりが悪いことのほうがよっぽど問題だった。 ……亡くなった父親がうっとうしい……だけだったりするのである。


 仕事もせず、武器や防具に散財して失踪。


 顔すら記憶にない。


 魔王を倒したのか倒さないのかもわからない。


 勇者は、もう十五年以上も消息不明だった。


 そして今日、そんな勇者のせいで、娘に危機が迫っていた。


「あと、もうちょっと寝させて……」


 説明しよう。


 この勇者の娘、十六歳。


 新たに出現したかもしれない魔王。奴の討伐に旅立つため、これから新・勇者として城へ行き、ゲームの進め方……いや失礼した、旅のレクチャーを受ける。


 という命令が下されたのは、昨日の夕方。すぐさま命令書をたずさえて、兵士がやってきたのだった。しかし、当の勇者はそんなことはつゆとも知らず、畑仕事に精を出して不在だった。


 扉に差し込まれた命令書に気づくこともなく、野良着姿の美少女は、カゴいっぱいの野菜をかかえ、鼻唄をうたいながら戻ってきた。


 ……そのまま、朝を迎えた。


 命令違反。


 それは、国家に対する反逆。


「王女のいぢわる~っ。もう遊んであげないんだから」


 さすがは勇者様。絶対王政下ですら暴言……いやいや、勇気ある抵抗を示す勇者様。すげーよ勇者様。さすが勇者様。しかも、オフレコじゃない!


 ……。


「反逆罪で捕らえてもいいんだけどなー」


 枕をかかえて寝言を口走った勇者の首筋に、刃が焼き入れられていない儀礼用の剣の切っ先が突きつけられる。


 勇者として覚醒するのは……いつだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る