第28話

 夕方帯の、佐々木先輩が大好きな『マジカルこねこちゃん』は、もう何年もオンエアしている人気シリーズらしい。ただし小学生向け、だが。子供を卒業できないのかな、先輩は。

「莉紗おねーちゃんはアニメなんて見るの?」

「アニメーション、なんて見たことない。そもそも、フィクションなんて嫌いだ。興味ない」

「恋について、アニメとかドラマとか映画とかで学ばないと急な感情の変化に戸惑うぞ」

 金平先輩の言うことももっともだ。

「私は、ニュースとかドキュメンタリーのほうがいい」

 莉紗は反論する。

「莉紗殿、『ツンデレ』は御存知でありますか?」

「何よ、それ」

 まさにツンツンという感じで、莉紗が問いかける。

「ツンツンと嫌っていた相手が実は好きで、些細なきっかけでラブ全開、デレデレしまくるという、今や十年以上ブームの続く最強の萌えトレンドであります」

 佐々木先輩は得意げに解説する。

「そんなものがあるの?」

「そうであります。七星殿はツンデレであります。嫌い嫌いと言いながら、萌えに対する行為を言い出せないだけであります」

「違うわ」

 莉紗は拳を振り下ろし、机を叩く。

「おい、どうした、莉紗」

「なんでも、ない」

「七星殿をツンデレに例えたところ、急に怒り出したであります」

「佐々木先輩、みんなオタクじゃないんだから、あまり価値観を無理やり当てはめるのはよくないと思うよ」

 俺は、諭すように言う。先輩の尊厳も立てなきゃならないし、大変だよ。

「今日は苦手なアニメをわざわざ見て貰ったんだ、珠姫、それで充分だろ」

「我が輩は七星殿に来てもらうコスプレ衣装まで用意してたのに」

 そういって、茶色の大きな手提げ袋の方に目をやる。

「あまり悪のりしてると、珠姫、追い出すぞ」

「自重するであります」

 先輩はもの惜しそうに袋と莉紗のほうを見比べる。

「先輩、その、惜しそうな表情はやめましょうよ」

 といって、俺は包みを出すと、先輩の目の前を塞ぐように掲げた。その視線の先には莉紗がいた。

「これで着たことにしましょう」

「こーいち、顔がエロい」

「だって、なんなんですか、コレ。殆どヒモじゃないですか」

「サキュバスをイメージしたこねこのライバルキャラ、サキちゃんの衣装であります。それを着れば浩一殿はメロメロですぞ」

「いや、俺はそんなことは」

 か、勝手に俺の変態趣向を捏造しないでくれ。

「こ、こーいちが着て欲しい、っていうならまんざらでもないけど」

 莉紗が俺のためにコレを着るってか、冗談じゃない。そんなことをすると……。

「お願いします」

 俺、自分の妄想に負けました。

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