2代目 幼児編
はじめまして。
私のお腹は、順調に大きくなり、お腹の中の子は元気いっぱいに自分の部屋の壁を蹴るようになった。
咲夜はその度に喜び、私のお腹を撫でた。
初夏のある日、私はいつも通り家で過ごしていた。
すると、突然激痛が体を駆け巡った。
直感ですぐにわかった。
ー生まれるー
急いでタクシーを呼んだ。
急いで病院に向かい、急いで咲夜に電話をした。
激痛が私の体を苦しめる。
立っていられない。
助けて…
そこへ看護師さん達が集まってきて、私を車椅子に乗せた。
それからどのくらい時間が経ったのだろう。痛みに打ち勝つ為に必死だったから、子供が無事に産まれることを考えるのに必死だったから、時間なんてわからない。
突然、部屋中に可愛い泣き声が響き渡った。
「はじめまして」
私は我が子を抱き、声をかけた。
産まれたのは女の子。
咲夜に似てるから美人になるだろう。
咲夜は我が子を抱き、泣いていた。
どっちが子供なんだか…。
咲夜は涙を拭うと、こう言った。
「紗雪、名前決めたよ。」
「本当?」
「…。音華。この子の産ぶ声が、この世のどんな音よりも美しく聞こえたし、華のように可愛らしく育って欲しいって事で音華。どう?」
「音華…。いいと思う。これからよろしくね。音華」
音華の手は、小さいのに、命というエネルギーに満ち溢れていた。
それから、私と音華は無事退院。
音華は、初めて我が家を目の前にする。
音華をベビーベッドに寝かせて、その枕元にシルクを置いた。
「シルク、音華よ。よろしくね」
私は咲夜に聞こえないように小声で言った。その時、シルクの口元が緩んだように見えた。
その日の夜、咲夜が入浴している隙を見て、シルクが話しかけてきた。
「この子が音華ちゃんね…。女の子か。大事にするね。」
「音華はシルクにはあげられないかなぁ〜」
「…チッ」
「チッて何よ⁉︎あなたはぬいぐるみなんだから。人間と結ばれるのは…」
「さっきから1人で何話してんだ?」
咲夜が風呂から出てきた。
「ううん。音華に話しかけてただけ」
「ふーん」
あ。絶対引かれた。
ドン引きしてるよね。その顔は!
「紗雪、そのぬいぐるみ…」
咲夜はシルクを見て言った。
「ずっと思ってたんだけどさ、俺が紗雪の家まで行って告白した時にいた、いとこの知り合いとか言ってた奴?に似てるよね…。」
…⁉︎よくそこまで覚えてたな…。そういえば、いとこの知り合いとか訳のわからない言い訳してたっけ。
「そーかなぁ?似てる?」
私は咲夜に1つ嘘をつく。
「うん、似てる。もしかしたら、紗雪、そいつの事が忘れられないからそのぬいぐるみ買ったのかな?とか思った。」
「いや、あの人には恋愛感情抱いてないよ。単なるルームメイトってカンジかな?」
また1つ嘘をつく。
「あ…そう。…よかった。もしそうだとしたら、どうしようかと思った。」
咲夜はため息混じりにそう言って私を抱きしめた。
その時、音華は眠っていたのに急に泣き始めた。
「あぁ〜音華ちゃん…お腹減っちゃったのかな?」
私は音華を抱き上げた。
咲夜は興味津々で音華と私の様子を見ている。
「…ちょっと。あんまりこっち見ないでよ。今おっぱいあげるんだから。」
私のその言葉に咲夜はハッとして、ごめん、と言って目を逸らした。
その日の夜中、私は目が覚めた。
今日は寝心地がいい夜なのに…なんで起きたんだろう…。
私はそのまま寝ようとしたが、音華の様子が少し気になって、ベビーベッドのあるリビングに出た。
すると、影が見えた。
その影は、人間の姿のシルクで、シルクは音華を抱いて何かをしている。
目を凝らして見ると、シルクは音華の額に指をゆっくりと走らせ、何かを書きながらブツブツと何かをつぶやいている。
そして、フッと息を吹きかけた。
そしてシルクはベビーベッドに音華を戻した。
私はなんだか怖くなってベッドに戻ってしまった。
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