終わらない中学受験

one minute life

第1話 二月三日 日曜日

 その日は正則と京也が私立英朋学園へ出向き、妙子と真澄は家で吉報を待つこととなった。合格発表は午前九時だったが、正則は十分ばかり遅れるように京也を連れて家を出た。

 二人は茗荷谷の駅を出て程なく、発表を見終えたらしい親子とすれ違い始めた。前日の正則は逆だった。学園の名称が印刷された封筒を手にしている者は殆どいない。

 正門を抜けると、中庭の奥には人だかりができていた。中等部の掲示板がそこにあるのは一目瞭然だった。

「京也、行って見てこい」

 京也は頷くが早いか走って行った。

 今日は大丈夫だ――左足の悪い正則は、ゆっくり後を進みながら、送り出した息子の笑顔で走って来る姿を思い描いていた。

 ところが、京也は人だかりの中に消えたきり、なかなか戻って来ない。正則は嫌な予感がした。昨日妙子から聞いた面接試験の話が頭をよぎった。

「面接が終わって教室から出る時、振り返ってお辞儀をしたのに、先生は真澄のことを見てなかったんだって……」

 正則は早足になった。駅からの道程ですれ違った親子と違って人だかりをつくる親子の大半が笑顔である。笑顔の波をかき分け、体を左右に揺らしながら中に入って行った。ようやく掲示板が近づいて来たその時、視界に割り込んだのは京也の横顔だった。「1314」とスタンプされた受験票を拝むように持ち、微動だにせず一点を見つめていた。正則は吸い寄せられるように息子の視線の先を追った。

 ――一三〇八、一三〇九、一三二〇、一三二二、……そこに一三一四はなかった。(つづく)

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