そうだ、冒険の旅に出よう(遠い目) ――ママっていうか魔法使いですけど何か?

 すみません、この辺りからだんだんと香ばしくなっていきますデス……(苦笑)


 さて、困りました。もうすぐ妊娠中期に入ろうとしているのに、母性なるものが発動する気配がいっこうにありません(汗)まあ、想定内といえば想定内でしたけど。


ただ、一縷の期待がなかったわけでもないのです。母性って、いきなりドカンと発動するタイプだけでなく、小出しにジワジワ沸いてくるタイプもあるって聞いたことがあったので。ま、結果はぜんぜんでしたが……。


 そんなわけで、そもそもあるかないかも定かでない母性の動向については「変化なし」と。ですが、それ以外については少し変化がありました。まずひとつは、受診先がE先生のクリニックから大学病院に変ったことです。


 大学病院の産科というと、ハイリスクの妊産婦さんが行くところというイメージがありますよね。実際、そうあるべきだど思います。ところが当時の状況は少し違ったのです。


 私が妊娠していた頃は、救急搬送が必要な妊婦さんが受け入れを拒否され続けて、たらいまわしにされたという事件が、マスコミで大きく取り上げられていました。当時、産科不足は本当に深刻でした。


 かく言う私も、産むところがなくて「どうしようっっ」と困った妊婦の一人です。

里帰り出産を考えたのですが、私の実家のほうでも、夫の実家のほうでも、受け入れてくれそうな産院がまったくなくて。


夫が生まれた病院などは、医師が高齢になり後継者もなく廃業したとのことでした。廃業ではなくても医師不足により休止中という産科もあり、地元の妊婦さんの対応だけで手いっぱいというわけです。


 そうなると、里帰り出産はあきらめてこちらで探すほかないわけです。でも、それもまた簡単ではありません。婦人科のみのクリニックはあっても、分娩施設のある産婦人科は少なくて。そういった状況の中でE先生が紹介状を書いてくれたのが大学病院でした。


 当時、その大学病院は地域の産科不足を補うようなかたちで、ハイリスクの妊婦さんだけでなく、普通の妊婦さんや他府県からの里帰り出産を受け入れていたんですね。私の場合は、妊娠の経過はとりあえず良好だけれど「既往歴を考慮して」というのもあって、E先生が紹介状を書いてくれました。


 もうひとつの変化は、悪阻がおさまってきたということです。体調が楽になることで、精神的にちょっとばかり落ち着きを取り戻すことができました。たまたま、妊娠初期を問題なく過ごせたというのも大きかったと思います。これがもし、出血や切迫流産の危機などに直面していたら、パニックでも起こしていたのではないでしょうか……(汗)


 さて、自称“冷静になった私”が考えたのは「中の人との関係性について」です。自分、無駄に理屈っぽいんで……(苦笑)この頃にはもうあきらめていたんですよね。「私の可愛い赤ちゃん」みたいな母性的な感覚は自分には訪れまい、と。


 そこで浮かんだイメージが、他ならぬ「ドラクエ」ですよ(は?)。私の頭の中に広がったのは、お花畑ではなく冒険の世界(へ?)。マップですよ、マップ(あ?)。そんでもって、パーティを組むわけですよ(……)。


・夫(戦士)――体を張って金を稼いでパーティを支える(剣は使えるか?)。


・私(魔法使い)――屁理屈という呪文を駆使して難局を乗り切ろうとする危うい奴。


・子(勇者)――重要な役どころではあるが、最初は非力で守られてばかりで戦力にならないという……。


・猫(仲間になりたそうにこちらを見ていた獣)――ザ・癒し系。


 私、本当に冷静だったんですかね……(苦笑)「私はママじゃなくて魔法使いよ。そう、そうよ、そうなのよ!」なーんて、完全にメンタルどうかしちゃった人ですな(汗)


ただ、こういうくっだらねぇ妄想をすることで、けっこう気が楽になったんです。今思うと、自分なりに状況を楽しむ方法を模索していたのでしょうね。


 私、本当に往生際が悪くて。おまけに、臆病で意気地が無くて。「何があってもママがあなたを守るからね(キリッ)」みたいに、カッコよくなれなくて。いつもいつも自分に自信がなくて。


世の中には「私をママにしてくれてありがとう」なんて感謝されている御子もおられるというのに。なんだか中の人にも申し訳なくて……。


 でもですね、「私の赤ちゃん」という呪縛(?)から逃れて自分なりの関係性を考えることで、ちょっと気持ちが変ったのです。私は中の人の「筆頭協力者」である。そう思うと、なぜかその状況を受け入れられたのです。


 縁があって中の人の筆頭協力者となった私は、環境の貸与、栄養の提供、安全の確保などの仕事にあたります。あと、脳内で対話することで(?)ちょっとした情報提供も行います。


 なぜそのような妄想をすることで楽になれたのか。ひとつは「母性」というイメージから少し離れることができたから。もうひとつは「自分は中の人にとって一番近い存在ではあるけれど、多くの協力者の中の一人である」という認識だと思います。


 とにかく気負っていたんですよね。「赤ちゃん可愛い。幸せ」という感覚になれない自分に罪悪感がありましたし。そんな自分だからこそ、きちきちちゃんと怠りなくやっていく責務ある、と。


 でも、中の人を「子」というより個人としての「個」と捉えることで、楽になれた気がします。それに、パーティは二人きりじゃありませんしね(笑)


 ほんっと、理屈っぽくて自分でも嫌になっちゃうのですが……(苦笑)そうして、魔法使いは理屈という名の呪文を唱えながら、その後のクエストもどうにかこうにかクリアしていくのでした。

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