第2話 ADHD報告
「というわけで、私はADHDであり、アスペルガー症候群ではありませんでした」
と人事とマネージャーと部長の前での報告を終えた。
「ちなみにADHDですが、薬で症状を抑える事が出来ますので、業務への支障は最小限に抑える事が出来ます」
と、きちんと問題ない事をアピールする。その報告により、人事と部長は納得したような顔をしているが、マネージャーだけがどうも腑に落ちない顔をしている。
「本当にADHDだけ?」
「えぇ、ADHDだけと言われました」
「本当に?」
しつこいなぁ……。と思いながら、張り付いた笑顔で返す俺。確かにウェクスラー成人知能検査ではアスペでは無かったのだ。ちなみに別の検査で鬱でも無い事も判明している。
「ちょっともう一度お医者さんに聞いてみてくれない?」
「えぇ、分かりました。来週に詳しい結果を貰いに行くので、その時に聞いてみます」
と一応了承する。なんでそんなにしつこく食い下がるのか分からなかったが、アスペでは無いと云う太鼓判を貰ったのだ。その結果は覆らないだろう。
「ちょっと話変わるけど、仕事楽しい?」
と部長。当時俺はマネージャー直々の命令により、とある部品を設計していた業務から外され、過去に作成されたアナログの図面がきちんとデジタル化されているかどうかをチェックする仕事をしていた。当然、デジタル化されていない図面があれば、俺がデジタル化(スキャン)すると云うものだった。
「そうですね。過去の図面に触れる事によって、色々な知識が吸収出来ますし、非常に為になってます。また、マネージャーが直々に教育してくれたおかげで取得できた、製図検定2級の実力も発揮できてとても満足しています」
とマネージャーに媚を売るのも忘れない。ちなみに実力と云うのは図面を読み取る能力の事だ。書く方では無い。
「――ただ、1つだけ不満点を述べるとしたら、自分で考えながら思考錯誤してやる仕事がやりたいですね。今現状は……言い方が悪いですけど、右から左に流すような作業だけです。その中でも何か吸収出来ないかと思って、過去の図面の書き方や特徴を学んでいるのですが、もうちょっと何か……難しい仕事がやりたいですね」
と向上心もあることをアピールし、
「あ、でも、今の仕事も知識や理解を深める事ができるので、不満ではないんですけどね!」
と最後にきちんとフォローを入れる。あまりにも自分らしくない発言に吐き気を覚えながらも、顔に張り付いた笑顔は最後まで絶えることは無かった。
「そうか……だったらいいんだ。今日はごめんな、わざわざ時間を取らせて……」
「いえいえこちらこそ、わざわざ時間を取って頂き、本当にありがとうございました」
と最後に深々と頭を下げながらお礼を言うのも忘れない。これできっと彼らの目には俺の事を明るい好青年だと認識するだろう。
「では次回の面談ですが……」
と人事の人。しかし、それを遮るようにマネージャーが、
「あ、次は私1人でも大丈夫です。それに遠い所から来るのも面倒臭いでしょうし。後でメールで展開しますんで……」
と言う。まぁ確かに部長も忙しいだろうし、人事も新入社員の事で忙しいだろうから、納得出来る提案だった。
「あ、でしたらよろしくお願いします」
と言う人事と部長。その言葉を皮切りに、この報告の場はお開きとなった。
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