第44話 アナちゃんの迷いの密林



 私ことアナと、お姉ちゃんのディーナ、メイシアの三人で迷いの密林にやってきてセーフティーエリアを目指している。目的はお兄ちゃんことお姉ちゃんの探索。うん、自分で言ってて混乱しちゃうね!


「ようやく目的に到着しましたが……」

「まさかあのような目に合うとは思いませんでしたね」

「モンスターの大軍に巻き込まれちゃったしね~」


 アナ達が最初に訪れた時は順調にセーフティーエリアの近くまでいけた。でも、セーフティーエリアの前にある川。その前に大軍と呼べそうなほどのモンスターが集まっていた。

 そんな状況の中、手を繋ぎながらお姉ちゃんのステルスやジャミング能力を共有して進んでいった。

 でも、それが間違いだったの。もうちょっとで抜けそうと思ったら、セーフティーエリアの方から複数のドラゴン達からドラゴンブレスを受けて一瞬で消し炭にされちゃった。モンスターに殺されるんじゃなくて、巻き込まれる形でドラゴン達にやられちゃったの。


「あれは仕方ないのかもしれませんが、こちらのことを少しは考えて欲しいですね」

「ですが、セーフティーエリアを壊されるよりはましですよ。それにこれでユーリか、アイちゃんがあそこにいることが証明されました」

「アイもなんだ?」

「アイちゃんの身体はほぼ金竜で構成されていますからね」

「それでダンジョンだといっぱいモンスターが襲ってきたんだね。お兄ちゃんと一緒にいたから、大量に襲ってくるのが普通だと思ってたよ」


 ダンジョンでもすごいエンカウント率で、戦闘が終わって15分もすればもう次のモンスター集団が現れるんだよ。本当に大変だった。これが普通のRPGだったら普通なんだろうけど……実際に身体を動かして戦う上に上からの俯瞰視点じゃないので、正直言って怖いこともある。

 休憩もほのなく襲い掛かってくるので、経験値的には美味しいけどやられた場合のデスペナが痛いんだけど、それ以上に稼げるしあれはあれでよかった。でも、今回の嫌だ。


「私達はユーリやアイになれちゃってますしね」

「そうだね。でも、今回のデスペナは納得できないよ!」

「タイミングがわるかっただけですから、仕方ありません。それよりも問題はこの破壊された場所ですね」


 数日かけて元の位置にたどりついたんだけど、そこはもうクレーターばかりで地下水が溢れたり、大きな川から水が流れ込んだりしていてまともに進めない。


「ディーナちゃん、モンスターはどんな感じですか?」

「相変わらずこちらによってきています」

「そうなると渡れませんね……」


 森の方からモンスターがこちらに向かってくる。お姉ちゃんはガトリングガンを呼び出してそちらの方に掃射する。重低音を響かせながら放たれた弾丸はでてきたアーマードベアに着弾し、金属音を響かせる。アナも鉄製の傘をくるくると回して跳弾してくる銃弾を防ぎつつ、お姉ちゃんが足止めしている間に近付いて触れる。触れると同時に魔法を発動して相手の血液を抜き取っていく。

 そんなアナにアーマードベアが腕を振り下ろしてくるけれど、傘で弾く。後ろから襲い掛かってくるもう一匹の相手はメイシアがやってくれる。メイシアから放たれる槍を使った高速の一撃が、金属化する前のアーマードベアの喉に突き刺ってそのまま貫通した。喉を貫かれたアーマードベアはそのまま地に倒れていくけど、それは私が相手をしていたのと同じタイミング。


「アナちゃん、血抜きをお願いしますね」

「任せて~」


 開いていた傘を閉じて、アーマードベアの死体に触れて魔法で血を引き抜いていく。引き抜いた血は購入しておいたポーション瓶に詰めておけば後で飲んだり、色々とできる。吸血鬼は強いけど、血液を飲まないといけない。他のは正直言って泥を食べているような感じで不味くてバフが一切貰えないんだよね。でも、血液はとっても美味しいの。リアルでもちょっと飲みたくなってしまうぐらいで、とっても危ない。


「回収できましたか?」

「うん。大丈夫だよ」

「だったら、行きましょう」

「手段は決まったの?」

「もちろんです。渡る手段は考えました」

「はい。私達も船を使わせてもらいます」

「そっか。それがいいね」


 見た感じ、橋は全部壊れているし、セーフティーエリアに行くには空を飛ぶか船で川を渡るしかないよね。そして、空を飛ぶ手段なんてアナ達にはない。取れるはずだけど、まだそこまではいってないからね。というわけで船になります。やったね。

 アナ達が川岸に移動すると、そこには筏が沢山置かれている。船かと思ったら筏だった。筏で川下りとか楽しそうだよね。でも、筏で渡ってきた人や、渡ろうとして順番を待っている人の姿がおかしい。


「近場のモンスターは排除されているようですが……なぜあのような恰好をした人がいっぱいいるんですか?」

「あれ、絶対きぐるみだよね。なんで?」

「決まっているじゃないですか……きぐるみは人形に分類されるんですよ」

「あっ、そっか。これで確定だね」


 アナは両手の指を合わせながらお姉ちゃんがここにいると確信する。だって、こんなのお姉ちゃんしかいないし。


「筏に乗るのは初めてで緊張しますね」

「私達も初めてです」

「楽しみ~」


 並んで待っていると、順番がやってきた。筏は凄く大きくて10人以上、乗れる奴だった。それを水魔法を使う人が操作して対岸まで運んでくれる。北からスタートして南に到着する感じになるけど、モンスターの襲撃もあるみたいで注意事項を教えられた。といっても、モンスターの襲撃を受けて川に流されたら次は優先的に乗せてくれるってだけ。


「アナ、行きますよ」

「は~い」


 筏に乗って作られている手摺に捕まって川を下っていく。ゆらゆらと揺れてものすごく気持ち悪くなってくる。なんでだろ? さっきまで平気だったのに筏に乗ると、もの凄く怖くなる。


「大丈夫ですか? 顔が青白いですけど……」

「わかんない」

「どうしたのでしょうか?」

「おい、どうした?」


 他の乗客の人達がアナ達のところにやってきて、心配そうに聞いてくる。


「おいおい、大丈夫か?」

「嬢ちゃん達、いけそうか?」

「っ!?」

「大丈夫です」


 男の人が手を伸ばしてくる。それが怖くなって身体が震える。するとお姉ちゃんが間に入ってアナを抱き上げてくれる。


「ちっ」

「それでいけそうですか?」

「大丈夫だよ、頑張るから」

「あ~嬢ちゃん達、もしかしてその子って筏に乗ったら気分が悪くなったのか?」


 私をメイシアが見てきたので、頷いて肯定する。


「そうみたいです」

「もしかして、その子の種族は吸血鬼か土の精霊とかじゃないか?」

「そうですが……」

「やっぱりか。吸血鬼って流水は駄目なんだ。種族の弱点だな」

「そういうことなら、地上に戻ったら大丈夫なのですか?」

「そのはずだ」

「くぅ~太陽光の対策だけじゃ駄目なんだ……」

「弱点が多い代わりに強力だからな」


 お姉ちゃんの金竜と同じく、ハイリスクハイリターンなんだよね。最大の敵である太陽光の対策はとったんだけど、流水はどうしようもない。


「アナ、申し訳ございませんが、耐えられますか?」

「いけるよ~2人共、ごめんね?」

「ありがとう。もう大丈夫です。行ってください」

「わかりました」


 筏が出発するとどんどん気持ち悪くなってくる。それにダメージも受けだしているけど、耐えられないこともない。

 そのまま少しの間、お姉ちゃんに抱かれながら耐えていると無事に南に到着できた。筏から降りる時にはお姉ちゃんにお姫様抱っこしてもらって、地面に降ろしてもらえた。


「少し休憩しましょう」

「うん、お願い……気持ち悪くて……」

「なにかして欲しいことはありませんか?」


 お姉ちゃんとメイシアが優しい。このまま甘えてもいいかな。


「血が欲しいの……お願い……」

「わかりました」

「いいんですか?」

「構いませんよ。ユーリほど美味しくないかもしれませんが……」

「私があげられたらいいんですが、機械のこの身では無理なので……」


 メイシアが服を開けてずらし、首元を曝してアナの口元へと運んでくれる。美味しそうに見える首元に汗が流れおちていく。思わず首元に噛みついて血を啜っていく。


「んっ、んんっ……なっ、なんですか、これ……ひぅっ!? やぁっ、まっ、待って、アナちゃんっ!」

「じゅるるるるっ」

「やっ、あっ、あぁぁっ……」

「うわぁ……」

「おい、あれ……」

「エロっ」

「百合だぁぁぁっ」

「キマシタワー」


 お姉ちゃんや外野の人に見られながら、メイシアの血を啜っていく。口の中に広がるとっても甘い果実の味。次第にぐったりしてくる。お姉ちゃんをみると、何かを調べているみたい。


「2人共、大変なことが起きています」

「ふぇ?」

「ろーしたの?」


 お姉ちゃんの様子がちょっと変。


「アイが襲われています」

「「えっ⁉」」


 アイちゃんが襲われてるって、モンスターってことかな? それならまだありえるけど、もしかしてもっとやばいことになってる?


「今すぐお兄様と合流しますよ」

「わかりました。詳しいことはその時にですね」

「そうです。アナもいいですか? 無理そうならおんぶしますが……」

「大丈夫、いけるよ」


 まだだるいけれど、アイちゃんのためなら頑張れる。ふらふらのメイシアも立ち上がって、ポーションを飲みながら歩いていく。

 すぐにセーフティーエリアにあるキャンプ場に到着したけれど、ここからどうするかはわからない。中に入ってみると露店がいっぱいあるし、きぐるみの人も凄く多い。


「イベント限定装備いかがですか! イベント限定武器です!」

「普通のイベント防具もあるよぉ!」

「クレープはいかがですか!」

「串焼きもあるよ!」

「素材買取販売をやってます!」

「皮と布、糸とかあったらお願いします」


 活気があるようで、なによりだね。イベント限定装備ってのは気になるけど、どんな感じなのかな?


「ディーナちゃん、きぐるみの販売場所はわかりますか?」

「掲示板で乗っていました。熊さんと猫さんのお店らしいですよ」

「よ~し、行ってみよう……う?」

「どうし……あっ!」

「みつけましたね」


 歩いていこうとしたら、買い物をしている猫耳のフードを被った可愛い金髪の美少女がいた。黒いワンピースローブにズボンといった男女どちらともいえる感じ。

 彼女の手に素材がいっぱい入った紙袋っぽい革袋を持ち、もう片方の手にクレープを持って食べている。


「あっ、いる?」

「いる~」


 差し出されたクレープをパクつく。美味しいと思うけれど、今のアナには美味しいと思わない。


「あ、ずるいです!」

「ふふん。お姉ちゃんは食べられないしね」

「くっ……」

「メイシアはいる?」

「えっ、えっと……」

「メイシア、まさかお兄ちゃんのを食べられないとか言わないよね? よね?」


 メイシアに抱き着いてお兄ちゃんの前に差し出す。アナは美味しく食べられないけど、メイシアなら大丈夫だしね。優先すべきはお兄ちゃんが悲しまないことだし。


「いらないなら別にいいよ? ボクのお昼ご飯だし」

「あ、あの……それならちょっとだけ頂きますね。あ~ん」

「あ、あ~ん」


 二人が恥ずかしがりながら食べている間にアナもクレープを売ってる店を覗いてみる。


「吸血鬼用ってある?」

「ありますよ~」

「あるの!?」

「吸血鬼用っていっても、血液を混ぜたらいいだけですしね」

「じゃあ、それで」

「まいどあり~」


 お金を支払って受け取る。クレープの生地や材料まで全部血液が練り込まれている。使われている血液次第で美味しいと思う。クレープは生地もクリームも具材も真っ赤な物でとっても良い感じ。パクリと食べてみると、なんとも微妙な感じがする。美味しいとも不味いともいえない。


「これ、いろんな血液を入っているから、味が邪魔しあってるよ」

「まあ、吸血鬼じゃないから味がわかんないしね」

「ん~これならと統一した方がいいかな」


 って、こんなことをしている場合じゃないよね。後ろを振り返ると、お兄ちゃんとお姉ちゃんが互いに近況報告をしていた。皆、真面目な雰囲気になってきたので、アナも参加する。


「つまり、アイがボクの代わりに迷いの密林で襲われてるってことだよね? 早く助けに行かないと……」

「助けにいくにしても、準備を整えてからです。それにお兄様。ここでは不味いです」

「あっ、そうだよね。うん、こっちに来て。ボクのテントに案内するよ」

「「「はい」」」


 お兄ちゃんのテントに移動して、これからのことを話し合う。といっても、アイちゃんを助けにいくのでそれは確定事項。


「それとアイちゃんは金竜を殺した邪竜と認定されたようです」

「なんでっ!?」

「えっと、アイちゃんがパパを探すための戦いで金竜としての力も使ったからですね。むしろ、アイちゃんは身体のほとんどが金竜ですから……」

「金竜を探している方からしたら、仕方ないのかもしれませんが……」

「そんなの許せない。というか、勝手に人を探しておいて娘を殺害しようなんて……ドウシテクレヨウカ?」


 あれ? お兄ちゃんからドス黒いオーラがでてる。金色の粒子じゃなくて真っ黒な奴。


「ユーリ、ストップです! 落ち着いてください! ユーリまで邪竜になっちゃいます!」

「アイの竜としての素材は全てお兄様ですから、お兄様も邪竜化することが可能なのですね」

「むぅ。とりあえず、運営に聞いてみようかな……」

「ろくな回答がくるとは思えませんが……」

「えっと、多分……仕様と言われるだけかと」

「それでも一応ね。連絡している間に皆の装備を整えてよ。何着か作ったし」

「お兄ちゃんと一緒のがいいかな~」


 色々とあるみたいで、きぐるみから普通の服まで沢山ある。その中から使えそうなのを選んでいく。

 しばらくしてお兄ちゃんと一緒の恰好にすることにした。お揃いの猫さんきぐるみ。にゃ~。


「ちっ」

「あの、ユーリ?」

「運営が情報を開示してきた」

「おや、珍しい」

「今回、ボクは運営サイドみたいなものだしね」

「どんなことですか?」

「1.このまま放置してアイが完全に邪竜化させる。これはワールドエネミー、世界を破壊する存在になるんだって」

「なにそれ、強そう!」

「負ければ地形とか街とかほぼなくなって、隠れて開拓したり、資源を集めたりするゲームに早変わり。2.はワールドエネミーになる前にアイを殺すこと。以上、運営から提示された内容だよ」


 1も2もふざけているとしかいいようがない内容だよね。一つもアイに救いがない。こんなの許せない。でも、これってあれだよね?


「ど、どうするんですか!? アイちゃんが死んだり、そのワールドエネミーとかいうのになっちゃうのは嫌ですよ!」

「うん。ボクも嫌だよ」

「お兄様……」

「大丈夫だよ。これ、あくまでも運営が提示した簡単な解決策ってだけだから」

「どういうこと?」

「みんな忘れてるけど、このゲームはアナ達プレイヤーの行動でも変化するゲームだよ。それってつまり、1も2も無視して、第3の選択肢を自分で作り出せって言っているんだよ」


 強請るな勝ち取れ、さすれば与えられん。誰かが言ってた。アイちゃんを救いたければ、あらゆる手を尽くせってことだよね。


「そうですね。このゲームはワールドシミュレーションみたいな物ですし」

「なら、アイちゃんを助けられるんですか?」

「助けられるよ。頑張ればだけど、それにこの金竜争奪戦ってイベントからしてどう考えてもアイちゃんも含まれてるよ」

「なら、頑張るしかないね」

「でも、相手は私達以外の全てですよ……ぜつ――」

「大丈夫だよ、メイシア。ボクに考えがある」


 お兄ちゃんがメイシアのネガティブ発現を唇に人差し指を押し付けて黙らせた。


「助けるために竜族、乗っ取っちゃおうか。運営のお望み通りに、滅茶苦茶のぐちゃぐちゃにしてやる」


 うん、お兄ちゃん怒ってる。黒いオーラがいっぱいでてるよ。どうするつもりかはわからないけれど、まずは竜族を乗っ取ることから始めるんだね。


「ディーナ、まずは掲示板に情報を流してアイを攻撃せずに逃げるように伝えて。ワールドエネミーのことも包み隠さずに。プレイヤーを味方につけた方がいいし」

「……駄目です。ワールドエネミーに関することどころか、アイちゃんに関することは全て書き込み不可です。赤黒い髪の少女として私達以外は書けるようですが……」

「対策はされてるってことですね」

「フレンドを通して連絡してみて。それで駄目なら、多分だけど、この情報を知った時点でブロック対象になってるんだと思う」

「どうしますか?」

「ディーナは情報収集と情報操作。アイの出現位置を出鱈目にしてどれが本当か絞らせないようにお願い。それとメイシアとアナのサポートをお願い。二人は夜になったら、アイを探して。フレンドの人にも協力を頼んでね」

「お任せください、マスター」

「アナも頑張る」

「アイちゃんを必ず助けます。でも、ユーリはどうするのですか?」

「ボクはね、竜族に落とし前をつけさせてくる。言う事聞いてくれるよね?」


 ニッコリと笑いながら人差し指を顎にあてて小首をかしげるお兄ちゃん。とっても可愛いけど、言ってる内容が物騒だよ。


「た、確かにそうなると思いますが……ユーリ、それってつまり……」

「ボクが金竜争奪戦の勝利者になる。景品は金竜なんだし、ボクが金竜を奪ってもなんら、問題はないよね。全部、イベント通りの内容だし、世界の為だよ♪」


 お兄ちゃんが邪竜の本体だって言われても全然納得できるくらい黒い。世界のためとか言ってるけど、確かにワールドエネミーが生まれるよりはそっちの方がいいよね、うん。






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