第37話 森のくまりゅうさん1



 アイテムストレージを確認すると、熊の死体以外にもキリング・マンティスの死体と倒した時の報酬もある。初回討伐報酬のワープゲート、MVP討伐報酬の死神の大鎌、ソロ討伐報酬のアイテムガチャチケット。

 正直、忘れていたわけじゃない……ううん、忘れてた。だって、こんな物よりも倒したことの方が大事だしね。さっきの植物に囚われてた時、死神の大鎌を使えばよかったんだよね。その存在を忘れていたからどうしようもないけど。

 とりあえず、アイテムストレージから出してみると柄の部分が120㎝、刃渡り30㎝ぐらいの武器みたい。全体的に黒くて禍々しい感じ。大鎌なのでボクが使うよりもアイリに渡した方がいいと思う。

 ワープゲートはホームに設置できる移動手段みたいで、現状では何の価値もない。リターンとかも使えないと思うし、多分無理。アイテムガチャチケットは何がでるかわからない。とりあえず、使い方がわからないけど、アイテムバックに手を入れて取り出してみる。

 現れたのはお札みたいな奴で、説明文が書かれている。それによると破ると召喚ができるみたい。破く場所によって効果がかわると書かれている。例えば森だと植物や鳥、虫などの素材から召喚石、スキルまで色々とでるみたい。

 早速破ってみると、美味しそうな真っ赤な林檎が現れた。ただ、まだ食べるのは早いと思う。一応、貰ったアイテムストレージの中に食料は少ないけどある。他には最低限、サバイバルに必要な物は用意してもらえている。マントとかね。

 さて、それでも装備はかなり少ないので色々と用意しないといけない。人形師としての戦い方をやるために先程倒した熊さんを取り出す。

 ボクの倍近くある身体を横たえ、行程を考える。今からやることは本来なら布や皮でやることで、ここからの作業は結構大変になる。それでもボクが逃げ切るためには必要なこと。


「ふぅ……よし、やろう」


 両手で頬っぺたを叩いて気合を入れる。工具は用意されているけれど、ナイフじゃきついと思うので、死神の大鎌を使うことにする。熊さんを裏返し、背中から横に開く。できるだけ傷がないようにぐるりと一周して切断する。流石はキリング・マンティスの刃だけあって綺麗に斬れた。

 お腹の部分で両断したら、次は吊るして血抜きをしながら毛皮を傷つけないようにしつつ肉を切り取ってそぎ落としていく。このお肉は焼いて食料にする。

 肩や膝も切断して中身を取り、水も使て綺麗に取る。酸性のイチゴシロップも使って徹底的にそぎ落としてやる。血の匂いは染みつくけれど、これはこれでいいのでそのままにする。

 部分部分で解体したけれどこれらは全部使うので置いておく。特に頭部は脳も含めて全部取り出して頭蓋骨も回収して綺麗に掃除する。

 凄く怖いけど、仕方ない。脳や肝臓はそのまま燃やして処理する。腸も捨てる。


「っ!?」


 作業していると嫌な予感がしてくれるので、急いで荷物を片付けて逃げる。少ししてから振り返ると、さっきまで居たところに沢山の虫型モンスターが殺到してきたのがみえた。巨大なムカデやダンゴムシ、蠅や蚊、蝶など様々で、それらが巻き散らかされた甘いイチゴシロップや熊さんの放置した肉片に貪りついている。

 今の間に逃げさせてもらう。こんなところで派手な戦闘を行うのはいろんな人を集めることになるしね。



 森の中をできる限り音を立てないようにして歩いていく。日が落ちてきて、夕暮れ時となる。木々の隙間から綺麗な赤色の光が降り注いでいるかのように思える。

 そんな深い森の中を荒い呼吸を繰り返しながら道なき道を進んでいく。あるのは獣道ぐらいで、枝を折ったりして進んでいかないといけない。


「っ!?」


 キュピーンという感じで嫌な予感がしてすぐにその場を飛び退る。するとさっきまで居たところに全長約3メートル、高さ50センチメールぐらいのムカデが落ちてきた。

 頭上が暗くなった上に嫌な予感が継続していて上をみると、そこにはとっても大きな口を開いてボクを丸呑みしようとしている全長9メートルはありそうな巨大な大蛇がいた。そいつの身体は何も無い空間から滲みでているような感じで現れていっている。


「ひゃぁっ!?」


 蛇から慌てて横に飛ぶと液体が吹きかけられる。避けきれなくて腕に付着すると痛みが走ってきて、そちらを見てみると腕の皮膚が溶けて爛れていく。

 苦痛耐性のお蔭で痛みがないのですぐに逃げる。蛇はそのまま突き進んでいき、ムカデに噛みつくと同時にボクに尻尾を放ってくる。ボクはどう足掻いてもどうしようもなく、両手をクロスせて防ぐ。そのまま吹き飛ばされて後ろの木に激突して、その木を粉砕して先の木に激突して止まる。

 一瞬、目の前が真っ黒になって、目を開くと目の前ではムカデと蛇が木々を圧し折りながら戦いあっている。おそらくだけど、ボクを食べたくて戦っているのだろう。なら、今の間に逃げるが勝ち。まだ方腕は動かないけれど、それでも逃げることができる。




 森の中を進んでいると当然のように襲撃を受ける。ボクは彼等からしたら御馳走なのだから仕方がない。木の上から落ちてくるムカデや姿を消して襲い掛かってくる蛇。彼等はキリング・マンティスよりも弱いけれど、とても強いので戦うのはとても大変だ。だから今も必死に逃走している。

 弱い敵な倒せる。熊がなんとかいける。逆に虫や植物系もいける。ただ蛇は無理。ムカデはギリギリ倒せると思う。それに直感だけで敵の襲撃を予知しているけど、こちらも万全じゃない。万全なら二匹に襲われることは防げたはずだしね。

 腕を庇いながらあてもなく森を彷徨っていく。途中で食料を回収して進んでいく途中でどうにか腕も再生した。


「ん~」


 森の中を彷徨う中、寝床に良さそうな洞があった。とりあず、狭いので穴を掘って拡張する。それにその辺の枝を集めて入口をカモフラージュするものを作る。中に入ってからしっかりと入口を隠し、中で食事を取りながら森で改修した木の実を食べる。

 食事が終われば続きだ狭い中、微かなスペースで頑張る。頭蓋骨はヘルメット代わりに改造し、頭部の中に取り付ける。自分の髪の毛を糸として縫い合わせる。その後、上半身を上にして、中に入れるように下半身を挿入。これで内側の方で縫えば外からわかりにくい。

 腕も同じように処理して身長を低くする。流石にボクじゃこれに合わないから仕方がない。腕にある掌からボクが手を出せるようにしていく。骨も利用して設置して間接部以外の耐久性を確保する。

 基本的に顔は口からでている感じにすればいいので呼吸とかも考えない。

 もう何を作っているかはわかるだろう。そう、きぐるみだ。モンスターからは熊型モンスターとして誤認させ、プレイヤーの来訪者からはきぐるみプレイヤーとして認知させる。その上で自分から金竜を探そうとすれば相手も同業者と思うはず。設定でほぼ全項目を非表示になるはずが、設定の変更でわからないようにしているから大丈夫だ。それにきぐるみなら、中身が竜族になっていても問題なし。


「よし、完成」


 できたリアルな熊さんのきぐるみ。これを装備する。臭いけれど、内部にはイチゴシロップのような甘みもある。色々と混沌としているけれど仕方がないし、臭いを誤魔化すのに丁度いい。

 一応、緩衝材としてマントを使用。他にも途中で採取した綿っぽいので埋める。これで簡単に作ったし、欠陥もあるけれど一応完成。熊さんのきぐるみを身に纏って寝転がる。そろそろ時間なので運営に伝えてからログアウトする。






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