第33話 運営サイド



 

 VR内部に設置したコントロールルーム。そこの画面には現在、無数のアラートがでている。まさかこのようなことになるとは驚きだ。金竜の男の娘ユーリにはいろいろとしてやられている。こちらが原因でもあるのだがな。


「竜の姫様が高度35000フィート10000メートルに到達して、岩を取り出しやがった!」

「え? ちょっと待ってください! そこからこの質量を叩き落とされると被害がシャレになってませんよ!」


 普通なら死んでいるし、届かない。そもそもそこまで魔力が持つはずがない。しかし、彼女は自らの死体の竜核を取り込むということで種族の力を解放してやってのけて解決した。これは本来ならまだできない仕様だ。

 竜核は生きた状態で抜かないといけない。いくら死体から採取しても力をろくに発揮で無いはずだった。それがまさか、自ら心臓を抉り取って死ぬなんて普通は考えない。いくら蘇るといっても普通は躊躇し、止まると考えていた。

 人形操作を自らの身体に適応することで躊躇なく引き抜くなんて予想もできなかった。そもそも人形操作を自分の身体にに適応させることも想定外だ。人形操作を適応させるのには自分の身体を人形と定義し、そう思い込まないといけない。彼はちゃんと自分の身体だと認識をしていないのかもしれない。


「というか、誰がこんなことできるようにしやがった!」

「はい!」

「なんでやりやがった!」

「ファンタジーゲームに隕石落としなんて当然じゃないですか! メテオ系統は鉄板ですよぉ!」

「言い合いは後にしろ。今は被害予測を出して迅速にバトルフィ―ルドを展開、被害地域を一部になるように隔離しろ!」

「「はい!」」


 指示を出してでてきた被害予測は普通の威力じゃなかった。それもそのはずで、ドラゴンブレスを使って加速しやがったのだ。


「殺さなくてもいいじゃん! もう進めるんだから進んでよぉっ! イベントやってたんだよぉっ!」

「イベントガン無視でキリング・マンティス殺りにくるとか思わねえよな……」


普通なら美味しいイベントの方を優先してメインフィールドへ移動する。そして、帰ってこれないというはずだった。


「さっさと幽界からでていって欲しかったんだが……」


 幽界は訓練所にそれぞれの種族やクラスの死んだだ元トップ達を教導者として誘致している。彼等にしっかりと教えを受ければチュートリアルフィールドの外でもしっかりと戦えて動くようになる。それに最初のガチャでランクが低く、特殊な力を手に入れられなかった者達には自由に彼等から学ぶことができるようにしてある。加えて習得速度はレア度に比例して短くなっている。高いレアは習熟速度が限りなく遅いし、取れないスキルも多い。

 例えば金竜の男の娘と戦った鬼を呼び出した奴。彼は魔法や生産のスキルが全て消えて物理系のスキルしか取れない。

 魔法図書館というスキルを手に入れた子は物理系のスキルが一切取れない。魔法と本を使うしかない。そして、成長は遅くしてある。

 こんな感じでメリットとデメリットをハッキリと別けてあり、一芸タイプと多芸タイプかの違いにしてバランスは取っている。ただ、それでも種族やスキルの力の使い方を説明しないといけないので、入門は問題ないようにして厳しく鍛えるようにしておいた。普通なら逃げ出すレベルで鍛えるように。

 そもそも幽界はメインフィールドの街で様々な流派に弟子入りし、そのまま修練所関連のクエストを進めていく。すると失われた技術があることを知らされ、調べていくと幽界にいける手段が判明。はれてチュートリアルフィールドに戻ってくるという感じにしてある。

 その際に幽界へ向かう試練としてキリング・マンティスが配置されている。つまり、倒されると困ったことになる。いや、倒せない設定ではないのだが普通は無理だ。

 ヒットポイントゲージが五割を切ると戦闘能力が三倍に強化され、取り巻きまで呼び出すのだ。その取り巻きも初期のキリング・マンティスの10分の1程度だが、如何せん数が多い。広域殲滅が必須で馬鹿みたいな索敵距離、それに加えて一定確率による防御無視の即死攻撃。序盤で勝てる設定じゃない。


「親方、空から星が降って来たよ」

「遊んでないで演算が終わったのなら、バトルフィールドを展開して森の一部を隔離しろ。このまま幽界が壊れたシャレにならん」

「イエッサー、ボス! はい、バトルフィールド展開完了。念の為に森も含んだよ。気付かれたら困るしね」

「HPロックします?」

「却下だ。倒せるようには一応は設定しているんだ。絶対に勝てないボスなんか配置は許されない」


 キリング・マンティスだって百人ぐらいでダメージを積み重ね続ければ死ぬ。ゾンビアタック前提で作ったボスだからな。


「あ、金竜の姫様離脱しました」

「それでも埋め込んだぬいぐるみで着弾を操作か」

「た~ま~や~」

「嘘っ!?」


 着弾する直前、キリング・マンティスが岩を切断して受けるダメージを削減した。これで即死はしなかったが、他の取り巻きは全滅だ。もみくちゃになって倒れたが、これでまだキリング・マンティスが勝てる可能性がでてきた。


「あ、網に油?」

「羽にかけたな。これじゃあ飛ぶことはできない」


 油のせいで滑って飛ぶ力が上手く伝わらない。少しは飛べても網によって邪魔される。


「うわ、竜眼をとっちゃった。流れるよどみのない行程。プロだね」

「自分の心臓を引き抜いてやがるからなぁ……自らの死体を素材にするのはなしにしないとやばいよなあ……」

「でも、裏をつかれたからって修正するのは負けた気がします」

「素材のランクを落とすか……いや、彼の性格だったらいけるか。少し介入になるが、娘のアイリを使って母親から説得させろ。それとアイリにも最悪自傷行為に走らせればいい。これで止めるだろう」

「了解。受け入れるかどうかはアイリ次第ですが、やってみましょう」


 卑怯な手段ではあるが、仕方あるまい。PVPは考えていたが、自傷行為は想定外だしな。


「燃える燃える……私が8日、時間を5倍に加速させて作った森がぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「落ち着け。まだ戻せる。こっちならな」

「メインフィールドじゃもどりませんよぉっ!」

「とりあえず、土魔法に修正突っ込むか。一定時間で消えるようにするか、耐久値を設定するようにして……」

「頑張れキリング・マンティス! 負けるなキリング・マンティス! まだだ! まだいける!」


 必死に燃やされながらも立ち上がろうとするが、そこに金竜の姫様は容赦なくもえている木の杭を打ち込んで身体を固定していく。串刺しにされて内側からも焼かれるキリング・マンティスは応援虚しく倒された。


「さ~て、皆さん。残業のお時間です。プレイヤーを迷いの森から排除。迷いの密林に切り替えてください。代わりに序盤のフィールドにポップ数を変更。アントとウルフの巣を追加。それにともないフィールドの一部を作り変えますよ」

「「ジーザスっ!」」


 迷いの森は迷いの密林となることでメインフィールドと繋がる。逆に言えばその分、敵が強くなるのだ。そのため、初心者用の一部を変更しないといけない。


「もう、この子ってメインフィールドに送っておきます?」

「報酬の受け渡しもあるから駄目だ」

「ちっ」

「なあ、ウルフとアントの実装遅らせて、森も次のメンテナンスまで焼かれた状態でおかない? そうすればメインフィールドの方に行ってくれるだろ。そうじゃないと……アントの巣も攻略に乗り出さない?」

「あははは、ありえそう」

「配置替えだけしておきましょうか。その方が作業時間を取れますし。どちらにしろ、メインフィールドの修正が必要ですので、緊急メンテナンスは行います」

「いいもん、どうせ次のロットができるまで遊べないし……」

「自業自得だな。よりによって姫スキルを与えたんだし」


 緊急メンテナンスでログアウトしてもらってから修正だ。イベントが無事に終わったと思ったらこれだし、やってられない。


「じゃあ、全員がログアウトを確認したら我々も一旦ログアウトして、食事とトイレを済ませておくように。次の加速時間はマージンの限界まであげます。皆も早く帰りたいですよね? 私は子供と触れ合うのでさっさと帰りたい」

「りょーかい」

「おうちかえるー」


 加速のお蔭で残業はなく、定時帰宅できるのはありがたいが……どう考えてもやってる時間はながい。一応、一定時間を越えたら時間給ではなくて歩合なのでましですけどね。


「休憩時間なにしようかな。南国リゾートもいいなあ」

「俺はスノーボードだ」


 まあ、みんな自分の作業部屋をリゾートにしたり、色々とやって適度に休憩をこなしているので過労は大丈夫だとは思う。






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