第31話 キリング・マンティスとの死闘
びしゃびしゃな水濡れな状態で身体を冷やしながら移動し、街中に入る。NPCの守衛の前を通り過ぎ、水を滴らせながら銭湯へと向かう。
「ふっ、ふっ、ふっ、やっと脱げるね……」
今回のワーウルフとの戦いで無事に床闇のワンピースからスキルが手に入ったので、服を脱げる。そんな訳で服を脱いで脱衣所に入る。ボク以外人がいないので自由にできる。
服を脱いで裸になる。もちろん、男なので男湯に入ってきている。汚れを落とすだけなのでプレイヤーはいないし、NPCも中にはいない。ここはあくまでもチュートリアルフィールドであり、本格的なAI搭載型NPCは向こう側で実装されているらしいしね。
さて、今は身体を洗って温もらないと風を引いちゃう。引くかどうかはわからないけどね。
まずは桶にお湯を入れて頭から被って石鹸とタオルを擦りつけて泡立たせ、敏感な肌に擦りつけていく。泡で全身をもこもこにしてから頭を洗う。シャンプーはないので仕方ない。
身体を洗い終えればお湯に浸かってゆっくりと疲れを抜いていく。お湯に浸かっているとそれだけで気持ちが良くなってくる。
「あ~」
誰もいないので、身体を湯船に浮かせてそのまま寝転がる。髪の毛を広げさせたままぼ~と天井をみていると、眠たくなってきた。慌てて起きてから身体をもう一度洗い流し、脱衣所に戻る。
濡れた身体を火属性魔法レベル2のドライを自分の身体に発動し、水分を飛ばす。これは調薬などでも使えるのでとっても便利だし、スライムとかを倒す手段にできるかもしれない。
脱いでおいた常闇のワンピースを折りたたんでアイテムストレージに仕舞う。続いてアイテムストレージから出すのは男子用の服だ。白いシャツに皮のジャケット。そしてズボン。髪の毛は今度、ストレートにして進む。設置されている水鏡をみれば男の子に見えないこともない。たぶん、きっと。女性よりの中性的だけどね。
銭湯から出ておばあちゃんのお店に到着したボクは扉を開けて中に入る。扉をあけると本の匂いが漂ってくる。おばあちゃんは相変わらず奥のカウンターの向こう側で安楽椅子に座りながら、パイプ煙草を吸いながら本を読んでいる。
「おや、随分と久しぶりじゃないかい」
「ウルフのボス、ようやく倒せたよ」
「ふむ。ルナティックムーンのワーウルフか。また運がいいもんだね」
パイプを近くに置いてある火鉢で叩く。その火鉢の中には火でできた猫がいる。煙草だと思ったけれど、でているのは魔力のようで火の猫が美味しそうにしている。それにしても運がいいってなんでだろ? 明らかに強いんだけど。
「運がいいってどういうこと?」
「取れる素材がいいさね。それに滅多にでてこないのよ」
「つ、強さは……?」
「ああ、アンタ達にはまだ強かったようだね。もしかして、あの小娘達と一緒に狩ったんじゃないのかい?」
「うん。都合が合わなかったから一人で倒したよ」
「ほほう……どうやら殴り合ったようだね。まったく、野蛮なことだね。まあ、竜族としては間違っていないのかもしれないが、魔法使いとしては失格さね」
「なんでわかるの!?」
「そんなの、ロケーションの魔法で確認ができるからに決まってるだろう。これでクエストを達成できたか確認するんだよ」
現場にいく必要もないってことか。やっぱり、すごい魔法使いなんだ。
「ボクも覚えられる?」
「竜族だとこの魔法を覚えるよりも、遠視の竜眼を覚えたほうが便利さね。そもそも例外を除いて竜族は魔法とか細かいことが苦手だからねえ……」
「ボク、生産職なんだけど……」
「そりゃあ、努力のお蔭だろうね。補正なんてきかないはずだよ。試しにアンタがやったことがないものをやってみな」
「人形はもちろんのこと、服も作れるし、デザインの絵もできる。料理は普通だけど……こっちの世界ではやったことないや」
「確実に失敗するさね。鍛冶もそうだよ。まあ、基本的にその身体が作られた時に持っていた技能の才能はあると思えばいいのさ」
ボクの場合、人形制作や金属操作とかあるし、鍛冶スキルは別にいらないかも。でも、生産系のや生活能力が壊滅しているならどうやって生活するんだろ?
いや、そのためのアイリ達、従者か。それ以外の人は普通に他の種族が作ったのを食べればいいんだろうし……って、ドラゴンだから丸かじりとか、生でもいけるのか。うん、基本的に料理する必要すらなかったね。
「といっても、金竜なら努力すればあらかたの事はどうとでもなるさね。全ての竜族の王にして無限の可能性を持つ存在なのだから」
「無限なんだ」
「あくまでも可能性よ。それを可能にするにはとてつもない努力が必要よ」
経験値5倍だもんね。ボクの場合は100倍だけど。うん、金竜はチート種族。ただし、デメリットもでかいというハイリスクハイリターンな存在。ソロだと無茶苦茶苦労してるし、他の人と足並みをあわせられないしね。
「なるほど。努力は大事だね。あっ、そういえば服はどうしよう? もう着る必要もなくなったんだけど……」
「あれはあげたのだから、気にする必要はないさね。それよりもクエストだよ」
「わかった。ありがとう」
メニュー画面のクエスト欄から今受けているクエストの完了報告をするかどうかの確認がきたので、イエスを選択する。すると証拠品の提出を求められた。
「証拠品は死体でもいい?」
「もちろんさね。でも、確認しているのに見せないといけないんだ……」
「形式的なものさね。ロケーションの魔法が使えない場合、品物を持って確認する必要があるからだよ」
そういうことなら納得だね。っと、受けていたクエストはこんな感じだし、報酬の選択に悩むね。
【キャラクターサブクエスト・魔女メアリー④:狩猟を行いつつ迷いの森を突破し、ウルフ達のボスを討伐して証拠品を持ち帰る。達成報酬:魔女メアリーが作成した作品であるステータス増強の指輪or腕輪を1つ。最高難易度攻略時、+EXP10000、CP1000or任意の属性魔法1つ】
この報酬なのでステータス増強の腕輪か指輪。こちらは悩むこともないので腕輪を選択しておく。
「腕輪でお願い」
「ステータスは何をあげるんだい?」
「そうだね……火力、ドラゴンブレスを上げたい」
「それだとATKかMATKになるね。ドラゴンブレスは両方をあわせた一撃になるんだから、どっちでもいいよ。効果量は固定値と%があるよ。固定値は300、%は1%だけさね」
ボクのATKとMATKの合計値は4200なので、1%だと42しか増えないことになる。固定値の方が美味しいけれど、これからのことを考えると全然駄目。
「DEXの方はどうなの?」
「そっちは固定値だと100で%の方は変わらずさね」
「じゃあ、DEXの%でお願い」
「了解だよ。それで特殊個体、つまり最高難易度の成功だ。経験値かCP、任意の属性魔法一つ、どれがいいさね?」
「光属性魔法……いや、選べる属性魔法ってなにがあるのかな?」
ボクは即決しようとして、止めた。任意と書かれているんだから、もっとレアな属性魔法があるかもしれないからだ。
「ちっ、気付いたようだね。光属性魔法と闇属性魔法、この二つは確かに珍しいさね。でも、それ以上に珍しい魔法もあるさね」
「それなら便利な魔法ってない?」
「ふむ。あるといえばあるさね。そうだね……属性魔法とは違うが、とっておきの魔法をくれてやろうかね。ただし、アタシの弟子になることが条件だよ」
「なにをくれるの?」
「空間魔法さね」
「空間魔法っ!?」
「移動にとっても便利な魔法だよ。どうだい?」
「お願いします」
「じゃあ、これだ」
【キャラクターサブクエスト・魔女メアリー⑤:魔女の弟子入り試験。迷いの森にいる密林の死神キリング・マンティスの討伐。
達成報酬:魔女の弟子の称号と空間魔法】
「え”」
倒すつもりだったけど、キャラクタークエストで容赦なくキリング・マンティスの討伐がでてくるんだね。称号はどうでもいいけれど、空間魔法は素晴らしいと思う。
「空間魔法はこのクエストになるんだよね?」
「そうさね。光属性魔法は別にあげるから、それにしておきな」
「うん、それでいくよ。最初から欲しかったしね」
「ああ、それとアタシの力で森までの移動方法をあげるよ」
おばあちゃんは懐から綺麗な水晶を4つ取り出してカウンターの上に置いた。
「それは?」
「空間転移のアイテムさね。コイツは対になっているんだよ。一つはこの街を登録しておくといい。もう一つは森の中を登録するんだ。それでさっさと移動できるさね」
「そんな便利な奴なんだ……」
「そうだよ。ただ、片方は登録する場所に置いてこないといけないから、その点は気をつけるんだよ」
「わかったよ」
「それとそいつは5回も使えば魔力がなくなるから、ここに持ってくるさね」
5回だけなんだね。これは仕方ないのかもしれない。とっても便利なアイテムだしね。
「こいつは空間魔法を使う感覚を覚えるのにちょうどいい。毎回、しっかりと覚えておくんだよ。それとあくまでも迷いの森に転移するのしか許さないからね」
「うん、それは大丈夫。ボクの目標はあくまでもキリング・マンティスの討伐だからね」
「ソロじゃ大変だと思うんだけどねえ……」
「無限に復活できるんだし、ダメージは蓄積できるんだから何回も挑んだら倒せるよ」
「まあ、頑張るといいさね」
「うん、頑張ってくるよ」
空間魔法を覚える教材にもなるみたいだし、頑張らないとね。まずはポーションを補充してからキリング・マンティスの寝床まで進むとしようかな。
※※※
4日ほど頑張って戦って移動し、キリング・マンティスの寝床に向かう。その場所へと向かう地上へと上がる坂。そこの壁に転移用のアイテム、水晶を埋め込む。これで何回かは移動が楽になる。
地上に頭を出して時間を確認する。昼間の間に少し外にでてキリング・マンティスの寝床である花畑。そこの周りに複数のぬいぐるみを隠して配置する。
配置が終われば地下に戻り、アラームをセットしてから夜に備えて軽く休む。一人なので少し寂しいし、寒く感じる。ぬいぐるみを取り出して抱きしめながら目を瞑る。
アラームが鳴り、目を開ける。メニュー画面にある2つの時刻を確認するとゲーム内の時間はしっかりと夜になっている。
「よし、行こう」
両手で頬っぺたを叩いて気合いを入れてからぬいぐるに魔力の糸を繋げる。それからボクの身体にロープを巻いて彼等にも同じようにする。その状態で、匍匐前進しながら外に顔を出す。
木の洞から顔を出してキリング・マンティスの寝床を確認してみる。相手は花畑で寝転がりながら眠っているみたいだ。しかも、寝ているせいかだんだんとヒットポイントゲージが回復していっている。このままじゃせっかく与えたダメージが無駄になってしまう。
焦る中、魔力の糸を放って反対側に仕込んでおいたぬいぐるまで届ける。しっかりと接続が確認できたので、ボクは立ち上がらせて何時でもドラゴンブレスを撃てる準備をする。
全部で操れる8体のうち2体は後ろに置いているので残り6体で連携魔法を発動させる。キリング・マンティスを挟んで反対側に置いてある6体のウルフのぬいぐるみは口を大きく開け、金色の光を収束さていく。チャージが完了次第、寝ているキリング・マンティスの大鎌の付け根にドラゴンブレスを放つ。
「「「「「「「「Laaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」」」」」」」」
まったく同じタイミングで放たれたドラゴンブレスは着弾のタイミングが微妙にずれたことで連携魔法の威力が少し下がったのが感覚でわかる。それでも黄金の光に飲み込まれたキリング・マンティスに十分な効果を発揮したようで、ヒットポイントゲージが一本削れた。ログを確認すると、不意打ちボーナスとクリティカルなどが入っていたからだ。
「■■■■■■■■■■■■■■■ッ!?」
キリング・マンティスが悲鳴をあげながら、大鎌を振るう。金竜光が霧散すると同時に崩壊しだしているぬいぐるみが斬り払われる。無残に切断されたぬいぐるはそのまま消えていった。
相手の確認をしながら、次は右側に配置したぬいぐるみ達に魔法の糸を繋げる。キリング・マンティスはすぐこちらを振り向く。同時に右側からドラゴンブレスを放つ。キリング・マンティスはこちらに突撃せず、攻撃された方へと向く。こちらもリンクを切って次は左側に繋げる。即座にこちらもドラゴンブレスを放つ。
MPがどんどん減っていき、すぐに枯渇するけれど
昼間のダメージも合わせてヒットポイントゲージが3本削れている。それに右腕の方の大鎌の付け根は赤くなっていて変な方向に曲がっている。こんなにドラゴンブレスを放てるのもMPがかなりあがったお蔭だ。
ただ、これでこちらもこれで手詰まりだ。ドラゴンブレス6発が3回で18発。18000のMPが消し飛んでる。足りない6000分はMPPをがぶ飲みで対応したのでお腹がたぷたぷしてる。
「キシャァアアアアアアアアアアアアアアァァァッ!!!」
こちらに気付いたキリング・マンティスが突撃してくるので、両手にチャージしさせたドラゴンのぬいぐるみからドラゴンブレスを放つと同時に後ろに待機させた2体のぬいぐるみに引っ張らせる。ボクはドラゴンブレスの反動とぬいぐるに後ろに引きずられる力で洞の中へと戻っていく。
全身擦り傷だらけだけど、洞窟の奥に逃げられた。外からは怒り狂ったキリング・マンティスの絶叫が聞こえる。とりあえず、中に入ってこれないようだから落ち着こう。気持ち悪くて戻しそうだし。
地面に座り込みながら次の手を考える。今のでヒットポイントゲージが3本まで減ったことを考えると、多分倒せると思う。いや、前の時も半分までは全力だったけど一気に削れたんだ。そのあと、赤くなって手が付けられなくなった。そもそも、前の時はボクが食べられて強化されてたしね。そう考えると勝負は5割を切ってからになる。
カリカリと野菜スティックを食べながら目を瞑って回復を意識する。龍脈から自然の力を集めて身体に取り込み、魔竜の心臓に集めて魔力の回復を促進させる。ただ、MPはかなりの量があるので時間がかかる。そのため、攻略法を考える。
考えていたら70分が経ち、MPが全回復した。これはMP回復系のスキルがもっと必要なのかもしれない。100分の1でこれだしね。宿屋とか安全な場所で寝ると回復速度はもっと早いけど外だとこれが限界。ドラゴンのぬいぐるみにもチャージしたので合計で14000だからかもしれない。
どちらにせよ、こそっと行動を開始する。匍匐前進で外にでると……嫌な予感がしてすぐにぬいぐるに身体を引っ張らせる。その瞬間、視界がぐるぐると回った。
※※※
気付いたら神殿の広場にいた。思わず微かな痛みが走って首を撫でる。身体にはうっすらと線があるような感じがする。慌ててログを確認していく。
【戦闘ログ:キリング・マンティスからの奇襲攻撃。不意打ち、致死の一撃、首狩りが発動。即死】
確認してみると、致死の一撃は次に発動されるスキルの効果がクリティカルの場合、必ず発動させる。首狩りは首に攻撃を入れると一定確率で即死するとのこと。ちなみに奇襲攻撃は強制的にクリティカルダメージになる。もはや逃げられない即死コンボが発動したみたい。
五人の家族人形があれば防げたかもしれないけれど、今は外しているから即死は防げない。防げても助かったかどうかなんてわからないけどね。
ただ、これで相手はボクを食べて強化されたことになる。これはまずい。もっと徹底的に火力をあげないと。でも、どうすることもできないよね。
ポーションを補充してからインターネットで奇襲攻撃を回避する方法を調べて、ついでに討伐方法も掲示板で聞いてみた。そこでは鏡を使って通路の先を調べる方法が載っていた。なので鏡を購入して転移アイテムを手に持ってどうするのか悩む。
転移したいと思ったら、足元に渦みたいなのが出現する。そのまま身体が飲み込まれて視界が捻じ曲がり、気が付いたら地下にいた。くらくらする中、深呼吸をして落ち着いてから外の出口に向かう。
鏡を持つ腕をそ~と出したら、嫌な予感がして引っ込める。今度は間に合って傷がなかった。試しにぬいぐるみに持たせていくと、どうやら周りの木々が倒れており、洞の部分が剥き出しにされていた。
その洞の上にキリング・マンティスが陣取っている。ぬいぐるみもみつかって、すぐに斬り殺される。
「にゃろ」
ドラゴンブレスをチャージした状態で外にだして同時に放つ。それでもろくに見えない状態で放つと、軽く避けられる。しかも、ぬいぐるみをバクバクと食べていっている。
どうするか悩んでいると、出口から小さなキリング・マンティスがわらわらと進み出てきた。
「にゃんとっ!?」
しかも、そいつらは背後からもやってきた。何が言いたいかというと、ここからくることがばれていた。結果? そのまま美味しく食べられそうになったので、突撃して外にでた瞬間、自爆してやりました。
※※※
昼夜問わずキリング・マンティスに挑むけれど、昼間は襲い掛かってきたタイミングで全力のドラゴンブレスを放ってダメージを積み重ねる。でも、それからは逃走しても追いつかれて殺されるので自爆してダメージを追加する。
夜は襲撃してリトルキリング・マンティスが邪魔をするのでこちらも自爆特攻しかダメージを積み重ねられない。ちなみに14回も殺されているので、その分相手は強化されている。5割をきらせたキリング・マンティスは赤色だったはずが、黒色になっている。額には新しく第三の目として竜眼が出現してしまっている。
おそらく、今は邪竜の心臓にによって黒く染まっているけれど、これ以上にボクを食べ続けたら金色になるかも。
「これ、詰んでるよねー」
インターネットで聞いてみた。前に相談していたサイトで、リトルキリング・マンティスまででてきたのでソロだときつい。でも良い感じの情報がでてこない。
そんな時、リアルでテレビをみたらアニメがやっていた。そのアニメは小さな女の子が空を飛びながら、銃で魔法を使って戦争相手を攻撃していくアニメだった。その女の子は一発で大爆発を起こして敵を滅ぼしていく。
地下を通って地上への攻撃が駄目なら、空から砲撃すればいい。相手も飛べるけれど、まずは飛行できないようにすればいい。そのアニメをしっかりとみて空の戦いかたも学んでみる。他に森にいる敵を滅ぼす方法を色々と考えたら、うん。あった。死ぬ可能性はかなりあるけれど、絶対的な火力を手に入れる方法が。
※※※
ログインしたボクは考えた二つの方法を実行するために道具屋と鍛冶屋に移動し、注文しておく。流石に必要な量をすぐに用意できないみたい。それにウルフとアントの素材を売ったお金も拭きとんじゃった。
でも、その間にやることはある。飛行訓練だ。一応、訓練所で行う。
「竜翼の使い方、教えてもらっていい?」
部分竜化を行われているけど、飛び方なんてわからない。なのでおじいちゃんに聞きにきたのだ。
「よいぞ。どのレベルまでやりたいのじゃ?」
「自由に空を駆けられるようになりたい」
「
「うん。空で戦う予定だから」
「了解した。スパルタでいくとするかの」
「はい。でも、あまり時間がないけれど……」
「なに、大丈夫じゃよ」
「え?」
翼を広げておじいちゃんがボクを捕えて空へと飛び上がる。空気が薄くなるまで飛び上がり、山が点になるまで上がってしまった。
「じゃ、頑張るのじゃ。魔力を使って飛ぶ意識をするのじゃぞ」
「ちょっ!?」
そのまま大空に放りだされた。みるみるうちに身体が降下して地面が近付いていく。恐怖に漏らしそうになる。ううん、漏らした。そして、そのまま地上に激突して死亡。復活したらおじいちゃんに即座に捕まって大空へと運ばれて落とされる。空を飛ばないと死ぬ。そんな馬鹿みたいな地獄訓練を時間を伸ばした場所で行っていく。
98回目でようやく飛行できた。翼と皮膜に力を集めても自分の重さを支えきれない。魔力でより大きな翼を作ることも可能みたいだけど、おじいちゃんには駄目だしされた。その後も別の方法を探す。
「ユーリは忘れておるようじゃが、我等竜族は自然を自らの意思で操れるのじゃ」
「自らの意思で……でも、物理法則とか……」
「物理法則など、我等の力でどうとでもできるのじゃ。そもそも魔法とは自然を改変し、世界を思う通りに扱う技術じゃぞ」
翼はあくまでも操作ということみたい。自然の力だと風とかで浮かぶのかな?
いや、それよりもいい物がある。アレにしよう。空中戦なら航空力学を無視する方がいい。身体全体を包むように球体を生成する。イメージするのは重力を制御する方法。重力をかける力によって方向性を操作する。重力もまた自然の法則だ。それを操作することはおじいちゃんが言っている通りならばできる。ベクトルの操作ともいえるね。
47回の死亡実験を行った中、ボクは忘れていた。スキルチケットがあることを。使ってみてリストを確認したらあったので、重力操作を習得することにする。人化を取ってないけど、翼を出しっぱなしでも大丈夫だと思う。
習得してから数回飛行し、今度はおじいちゃんと91回ほどドックファイトを行う。うん、一切の容赦なく溶かされたり爪で裂かれたり、食べられたした。
竜麟を球体状にして飛び回り、被弾を避けながら相手を撃滅するために近接戦闘や魔法を使っての戦い。明らかに勝てる相手じゃない。それでもやるしかない。例え相手がブレスで山を消し飛ばすような相手でも、死なないのだから。
訓練が終わり、なんとかおじいちゃんから合格ラインをもらえたので道具屋と鍛冶屋で注文していた物を受け取り、転移する。
今度やることは簡単だよ。ボクの素材を使わないぬいぐるみを作り、壺をもっていかせる。ただキリング・マンティスは寝床を変えていた。それぐらいの知能はあるみたいだ。ぬいぐるみが壊され、何度死んでもいいから突撃してキリング・マンティスの巣に確認する。
「これでよし。残りはアレだね」
土属性魔法で大きな大きな岩を作り上げる。全魔力を使って作り上げた直径50メートルを超える巨大な岩。そこに無数のぬいぐるみを埋め込む。それをアイテムストレージに入れてから空を移動し、目的地に到着する。そこは空高く、奴の探知範囲外のはず。高度
正直、ここから地上は見えない。それでもやれる。なにせ相手は寝ているのだから。
「それじゃあ、行ってみようか」
重力操作による高高度飛行。当然、限界がくる。というか、魔力が持たない。なので巨大な岩をアイテムストレージから取り出して、その上に乗りながらMPPを飲みつつ待機。
そのまま落下していく中、背中を岩に預けてチャージしておいた両手のドラゴンのぬいぐるみからドラゴンブレスを後方に向けて放つ。これで更に加速する。後は回復した魔力を使って重力を操作。軌道修正を使いながら突撃する。
空気の摩擦で赤く染まる大岩。ボクは途中で飛び上がって翼を展開。風を受けて吹きあがり、滑空しながら降下していく。
岩はそのまま落ちてキリング・マンティスの寝床に着弾する。多少はずれたけれど、重さ×速さ=威力なのでその破壊力は絶大だ。
「……メテオストライク……森と共に沈んでよ……」
着弾前に金色に変化しているキリング・マンティスは気づいて逃げようとする。でも、その前に魔力の糸を通して繋がっていたぬいぐるみに指示をだして重力操作でさらに重さを上げて加速させる。
キリング・マンティスは両手をクロスさせて大岩を切断する。けれど、そのまま切られた岩が着弾してクレーターを作りあげてキリング・マンティスをもみくちゃに吹き飛ばす。そこに空中から接近して鍛冶屋に作ってもらった鉄の網を取り出して放ち、キリング・マンティスを地面に固定する。このままじゃすぐに起きてくるだろうから、道具屋で手に入れた油を盛大でまき散らかす。特に羽に油をぶっかける。壺はそのまま廃棄し、周りにも沢山の壺をなげる。
「焼け死ぬといい」
起き上がろうとしているキリング・マンティスの額にある竜眼に腕を突っ込んで引き抜く。引き抜いた場所に新たにアイテムストレージから取り出したチャージ済みのドラゴンのぬいぐるみを突き入れる。火属性魔法とドラゴンブレスを同時に使って放つ。
内部から焼かれて壊され、こちらは吹き飛ばされる。そんな状態で当然、火は周りの油に着火していく。ボクはすぐに飛び上がり、高度をあげていく。
森は燃え盛り、キリング・マンティスは立ち上がるけれども網の重さで動くこともできない。ましてや油で現在燃えている羽では飛ぶこともできないし、ウインドカッターも放てない。
「さあ、今日はパーティーだよ。今まで殺された分も含めて、しっかりとおかえししてあげるよ。なに、油はたっぷりとあるからね」
どんどん追加し、森ごと焼き払う。それに目にも油をかけたらもうのたうち回るしかない。ボクの眼下では綺麗に赤い世界が広がっている。
キリング・マンティスのヒットポイントゲージもどんどん減っていく。黄金の蟷螂は抵抗しようとするので、その辺の燃えている木技を回収し、上昇してから落下させる。その後に降下して木々を叩き込む。自らの身体をハンマーとして何度も何度も執拗に木々を打ち込み、周りに油をまく。木々と一緒に内部から燃やしてくれる。
「火計こそがもっとも簡単に戦力差を覆す手段だって偉い人がいってたし、大丈夫大丈夫。それにここにはプレイヤーがいないしね」
ソロだからこそできる破壊攻撃。ただ、森全体を焼くのはさすがにまずいと思うのでちょっと離れた位置の場所を伐採してくべる程度にしていく。
しばらく戦っていると無事にキリング・マンティスの討伐は完了した。どうやら竜族特攻もちゃんと効いたようだ。
【密林の死神キリング・マンティス(竜化)を討伐しました。
初回討伐報酬:ワープゲート
MVP討伐報酬:死神の大鎌
ソロ討伐報酬:アイテムガチャチケット】
レイドボスなだけあって経験値もかなり入ったようだ。周りはどう考えても大規模破壊が行われた惨状だけど、問題ないよね。
【ワールドアナウンス:アクアリード(幽界)にて密林の死神キリング・マンティスが倒されました。幽世の門を解放致します。幽界の門はアクアリードで一定のイベントを終えた人のみ向かえます】
【ワールドアナウンス:これより緊急メンテナンスを行います。誠に申し訳ございませんが、ログアウトの方をよろしくお願いいたします。強制ログアウトは10分後となります。繰り返します……】
あれ、やらかしちゃった?
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