第26話 現実でのお話

 



 キリング・マンティスに殺されたボクは神殿にあるカフェテラスでメロンソーダを飲みながら、これからのことを考える。ボクの目標としてはキリング・マンティスを倒すことと、迷いの森の奥にあるという竜の紋章を取ってくること。紋章はともかく、キリング・マンティスに関しては皆を巻き込むわけにはいかない。 


「ユーリ、これからどうするのですか?」

「ん~ボクはログアウトするよ。流石に仕事が溜まってるしね」


 カフェテラスにあるテーブルの反対側に座っているメイシア。彼女の膝の上にはアイリが座って彼女に撫でられている。


「お仕事、ですか?」

「人形を作ってるからね」

「そういえば、そうおっしゃってましたね。でしたら、しばらくはログインできないのですか?」

「寂しいぞ、です」

「少しはログインするよ。ただ、進捗状況次第かな」

「そうですか……あ、それならメールアドレスを交換しましょうか。それなら、外でも連絡できますから」

「そうだね」


 原初の世界ワールド・オブ・オリジンの内部ならフレンド登録をすれば連絡はできる。現実世界で連絡を取ろうとするのなら、必要なので交換する。仕事や妹達以外で女の子のメールアドレスを手に入れたのは初めてかもしれない。


「お兄様、今日の晩御飯はどうしますか?」

「そうだね。今日はボクが作るよ」

「じゃあ、オムライスが良い!」

「わかった。食料はあったはずだし、いいよ」

「アイも食べたい、です」

「ゲームでも作れるの?」

「料理はバフアイテムですから、作れますよ。そうですね、今度一緒に料理をしてみますか?」

「そうしようか」

「できれば私達も呼んでくださいね」

「だね~」

「二人はパパの料理、向こうの世界で食べられるだろ、です」

「それでもだよ」


 アイリとアナスタシアがいいあっている間にボクはメロンソーダを飲み終えて、ログアウトの準備をするために席を立つ。そろそろご飯の用意をして仕事のチェックをしておかないと駄目だ。足りない素材の発注もしないといけないしね。


「それじゃあ、ボクはログアウトするために宿屋に行くよ。メイシア、アイのことをお願いね」

「任せてください。私がしっかりと育てておきます」

「パパ、いってらっしゃい、です」

「いってきます」


 アナスタシアとディーナはもう少しここで遊ぶつもりのようだ。だから、忠告だけはしておく。


「二人共、ちゃんと宿題は終わらせてから遊ぶんだよ」

「うっ……お兄ちゃんの馬鹿ぁ……」

「私は終わっていますから」

「助けてっ!」

「お断りします」


 皆を置いて宿屋に向かい、そこで部屋を取る。一応、取る部屋は家族用というのがあったので、そちらを選んでおく。これだと皆が使えるからだ。この部屋を取ったことをメッセージで伝えてからログアウトする。




 ※※※





 ログアウトしたボクは身体をベッドから起こして、軽くストレッチをする。それからトイレに行って、手を洗ってアルコールを使って消毒する。

 お米を炊く用意をしてから冷蔵庫の食材を確認して、鶏肉を電子レンジで解凍させる。それが終われば仕事部屋のパソコンを起動してメールをチェックする。向こうの世界で修練をしている時に戻ってきたタイミングできていた仕事も受けている。新しい仕事が数件舞い込んでいるので、スケジュールを調整して納品日を相手に知らせる。

 一応、全部の依頼を受けても大丈夫なように素材を確認してから予備も含めた発注数を注文する。注文を完了したら、人形を作る準備をしながら如何にしてキリング・マンティスを倒すかを考える。

 相手の速度と攻撃力は正直言ってやばい。特にヒットポイントゲージが半分を切ったらもの凄く強くなった。あの威力を考えると逃げ撃ちをするしかないと思う。

 そう考えると、他のゲームならどうなのかと思って調べてみる。すると見つけたら一撃を決めてすぐに転移アイテムで逃げるという戦い方があるのがわかった。これを使えばヒットポイントゲージが減ったままなことを考えたらいけるかもしれない。

 人形を作る準備ができたので、次は料理をする。同時に火力不足を補う方法を考える。9発のドラゴンブレスを連携魔法で収束させて放つが一番高い威力だ。これ以上は今のところは無理だと思う。


「やっぱりぬいぐるみの強化か、それこそ人形を作らないと駄目か。でも、人形の素材はないし……」


 玉葱と人参を適当な大きさに切ってミキサーでみじん切りにする。これをサラダ油をひいたフライパンで炒めていく。そこに解凍していた肉を切ってこちらも炒める。味付けは塩胡椒とトマトケチャップ。トマトケチャップはしっかりと熱して水分を飛ばしていく。ここでちゃんと飛ばしておかないとお米がべちゃつくようになる。


「布と皮で作るぬいぐるみが限界……いや、もう一つあるか」


 ボクは自分の身体を人形として肉体を外部から操作している。それによって人じゃできないようなゲームの動きができている。つまり、ボクは自分を人形だと思いこんで操れる。でも、多分他人にはできない。人形だと思えないからだ。ディーナも無理だと思う。

 じゃあ、どうすればいいかというと……あの原初の世界ワールド・オブ・オリジンのゲームだと死んだ後も死体が残る。それはつまり、ボクの身体が残るということだ。ボクは自分を人形だと思って操作することができるので、死体も使えると思う。でも、これって倫理的にはアウトだよね。

 どう考えても死体を使ってるわけだし。それにキリング・マンティスと戦って食べられたら、それだけでアウトだしね。でも、素材を使うにはいいかな。キリング・マンティスを相手にするんじゃなくて、他の敵を相手には使える。問題は腐敗とかをどうするか……そもそもドラゴンの肉って腐敗するのかな?

 その辺も後で試さないといけないね。


「よし、できた」


 チキンライスができたので、あとは卵だけだ。これで後は問題ない。卵を用意して溶いてオムレツを作る。皿に半熟卵のふわとろオムレツを乗せる。


「ご飯、ご飯」

「はしたないですよ」


 恵那と怜奈もやってきたので、三人でご飯を食べる。ボク達の話は原初の世界ワールド・オブ・オリジンの話になる。


「運営にキリング・マンティスの強さについて質問してもやっぱり仕様だって言われたよ~」

「でしょうね。こうなると、無視していくのがいいと思います」

「あと、地上を通るなら少人数で素早くいかないと駄目だよね」

「おそらく、そうかと思います。他の皆さんもあちらよりも地下の方を優先するようです。お兄様はどうしますか?」

「ボクはお仕事優先だよ。だから、しばらくはパスかな」

「わかりました。恵那も宿題を終わらせるようにお願いしますね」

「は~い。頑張ります」


 食事を終えたら、怜奈に洗い物を任せてシャワーを浴びてからお仕事を始める。

 仕事は集中してやるので、ゲームのことは考えずに全リソースを人形制作にあてていく。




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