第15話 アクアリードの訓練所




 訓練所はアクアリードの街の西にあった。そこは大きな建物が有り、各種族の人が種族特性や各種族にあった戦い方を教えてくれるらしい。他にもそれぞれの武器を使った戦い方を教えてくれる人がいるらしい。建物に入ると中に色々な武器が飾られていて目に入る。


「こっちです」

「ありがとう」


 メイシアに手を握られながら引っ張られて一つの部屋へと入っていく。そこは複数のロッカーが置かれている場所で、入口には下駄箱もあった。なんだか非常にやばい気配がする。


「ここで動きやすい格好……胴着に着替えるんですよ」


 そう言いながら、メイシアは服を脱いで下着姿になっていく。メイシアのその姿が綺麗でつい見惚れてしまう。


「って、待ってっ、待ってっ!」


 ボクは慌てて制止にかかる。このままだと非常にまずい。


「ふぇ? どうしましたか? 早くユーリも脱いでください」


 下着姿のまま、胴着を差し出してくるメイシア。ボクは慌てて視線を逸らす。


「?」

「えっと、ボクは……こんな格好をしているけれど、男なんだ」

「え? いえいえ、有り得ませんよ。ユーリが男だなんて……」

「えっと、それが事実なんだ。この格好だって呪いだしね」


 ボクは自分のステータスをメイシアに見えるように可視化モードにして見せる。そこにはしっかりと男と記されている。それを見たメイシアの顔が青くなり、真っ赤に染まって渡そうとしていた胴着を抱き寄せて必死に身体を隠していく。


「っ~~⁉」

「ごっ、ごめんね。もっと早く伝えておけば……」

「みっ、みましたよね? 私の下着姿……」

「それは……うん、ごめんね」

「あっ、謝っても許しませんっ! 乙女の肌は夫となる殿方以外に見せてはいけないのですから、責任を取ってもらいますっ!」


 確かに女の子にとっては大事なことだろうし、仕方ないよね、うん。


「これはゲームなんだけど……リアル基準で作成しているから関係ないよね……」

「……はい……名前しか変えていません……」

「責任って何をすればいいのかな?」

「それはもちろん……」


 これはある意味で彼女いない歴が年齢と同じボクにとってはチャンスかも知れない。という訳で、あえて自分から近付いて至近距離からメイシアの耳元に囁く。


「結婚を前提としたお付き合い?」

「そう、結婚を前提としたお付き合いで……って、違いますよ!」

「残念」

「残念なんですか……?」

「うん。だって、メイシアは可愛いから」

「っ⁉ 何言ってるんですかっ、怒りますよ! って、そんなことよりも責任です!」


 顔を真っ赤に染めながら怒ってくるけれど、可愛らしくてついつい頭を撫でる。


「撫でないでくださいっ!」

「つい、ね」

「もういいです……それよりもしばらく私の偽の彼氏になってもらいます」

「え?」

「その、実際に肌を見せるのは夫だけだと教えてこられたのもありますが、色々と理由があるのです……」


 ぼふんっ、というような音が聞こえそうなほど顔を赤くして両手で顔を隠しながら、告白してくるメイシア。


「理由?」

「ゲームで声をかけてくる殿方が多いので……彼氏がいるとなれば助かるのです。それに……実際にお付き合いして良ければ、リアルでの鬱陶しいお見合い話しをなくせるかもしれませんし……」


 そんな彼女に対してのボクの返事は決まっている。


「じゃあ、そうしようか。ボクにとってもそれは都合がいいし」


 怜奈と恵那を兄離れさせるには丁度いい機会だろうしね。これでも離れなければその時はその時だ。だけれど、どうしても抗えない問題点がある。


「でも、ボクの格好じゃ男に見られないかも知れないよ?」

「大丈夫です。その時はそういう趣味だとしたらいいんですから。お見合いに関しては現実でちゃんと男性なのですよね?」

「それはもちろん。年齢は17歳だよ」

「それなら年齢も近いので問題ありませんね」

「それは良かった。じゃあ、これからよろしくね」

「はい、こちらこそ……って、それよりも早く出て行ってください!」

「付き合う事になったから、駄目?」

「駄目ですっ! それにあくまでも偽者であって、本当に付き合うわけではありませんっ!」

「残念」

「いいから隣の部屋で着替えてきてくださいっ! 奥の扉から入れば同じところにつきますから!」

「うん、またね」


 近くに置かれていた胴着を投げつけてきたメイシアと別れ、隣の部屋で着替える。それから、奥の扉から出ていく。その先は室内の道場のようで畳みが敷き詰められていた。




 ※※※




 大部屋で訓練している多数の人の視線を感じながら、少し待つと顔を真っ赤にしたメイシアが隣の扉から出てくる。メイシアはこちらを見るなり、そっぽを向いてそのまま進んでいく。たぶん、恥ずかしすぎてどうしたらいいのかわからないのかも知れない。


「こっちです。早く来てください」

「うん」


 ボクは直ぐに追いついて隣につく。


「そっ、そのっ、さっきのことは忘れてください。冷静に考えたら私が確認しなかったのが悪いですし、私の事情に巻き込むのは迷惑でしょうし……」

「いや、見ちゃったことは事実だし。それに忘れられないよ」

「忘れてくださいっ!」

「ごめん、焼き付いた」

「うぅ……」


 恥ずかしそうに顔を隠すメイシア。こんな姿も可愛く思える。恵那や怜奈も可愛いけど、あの子達は積極的すぎるしね。


「だから、ちゃんと協力するよ。それさっきのことが無くても、ボクにとってメイシアは大切な人だから」

「っ⁉」

「ちなみに間違ってないよ」


 そう、友達のいないボクにとってメイシアは大切な友達だ。このゲームをやりだして始めてできた友達で、一緒に遊んで楽しいと思える大切な人だからね。ボクを虐めてお小遣いを巻き上げていった“自称友達”とは違う。


「もっ、もうっ、何を言っているんですか!」

「事実だよ」

「うっ、嘘はなさそうです……あんな恥ずかしい言葉をあっさりと……」

「どうしたの?」


 小首を傾げて聞いてみる。


「うぅ……女としても負けそうです……」

「いや、ボクは男なんだけど……」

「信じられません……いえ、ステータスには確かに男だったのですけど……まあ、いいです。それよりもこちらです」

「うん。お願いします」


 恥ずかしそうにしながらボクの手を握って先導してくれるメイシア。ボクはそのまま案内され、大部屋の端にある色々な種類の武器や種族の絵柄が書かれた扉の一つへと多数の人に見られながら入っていく。



 ※※※



 入った部屋は教官室のようで、金糸のような綺麗な長い髪の毛に碧色の瞳をしたこの世のものとは思えない美しい女性がいた。彼女は鎧姿で背中には純白の翼があり、まるで天使や女神様のように思える。彼女からは光のオーラみたいなものが立ち上がっており、神聖な気配がする。それは壁に飾られている槍や剣などの武器からもしている。


「メイシア、来ましたか」

「はい、師匠……ブリュンヒルデ様」


 ブリュンヒルデ……つまり、彼女はワルキューレやヴァルキリーと呼ばれる半神の人ということになる。違うかも知れないけれど、メイシアの持つ戦乙女のスキルから考えるとあっていると思う。


「それで、そちらの方はどなたですか?」

「彼はユーリと言って、その私の……」

「まあ、いいでしょう。それで目的は訓練ですか?」


 答えに困っているメイシアに師匠と呼ばれたブリュンヒルデはボクに質問してくる。


「はい。ボクは誰にも虐げられない力が欲しいんです」

「得た力でどうしますか?」

「守りたいものを守ります。後は倒したい奴がいます」

「それは誰ですか?」


 ボクは妹達のことも含めて彼女に森で出会ったキリング・マンティスについて話していく。


「なるほど、わかりました」

「お願いします、鍛えてください」


 ボクは頭を下げてお願いする。


「駄目です」

「師匠?」

「なんでですか?」

「簡単なことです。竜族の王たる系譜の者を私が教えるわけにはいきません。私では成長を妨げることになりますから。ですので、同じ竜族の者に頼むとしましょう」


 確かに種族が違うと習得するスキルとかも違うのだろうし、色々と問題があるのだろう。


「あっ、ありがとうございます」

「良かったですね」

「うん。メイシアもありがとう」

「いえ、私は紹介しただけですから」

「では、こちらに来てください」

「はい!」

「そうですね、メイシアも付いて来なさい」


 それからボク達は転移魔法陣みたいなのに乗ると、何処かわからない山にいた。そこには滝があり、その近くに小屋があった。小屋の前にある切り株に座っている和服姿の老人が居る。






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