02 襲撃・2

「な……」「何だ……?」「は、はぁ……?」


 とある依頼主から頼まれた麻薬を、絶海の孤島に隠し持っていた荒くれ者の海賊たち。だが、自分たち以外誰も知らないはずこの場所に、見慣れぬ1人の女性が現れた。しかも、堂々と男たちの目の前に。


 癖毛混じりの赤い長髪、男たちを舐めてかかるような釣り目、自信満々に微笑む口、そして右手で支える青い拳銃に、左手に持つ青く澄んだ刃を持つナイフ――ここまでなら彼らもよく見慣れた、ごく普通の海賊の姿であった。

 だが、肉体美に満ちた荒くれ者の男たちが一番目を引いたのは、その女性の体であった。巨大なボールが2つ備わっているかのように大きく膨らんだ胸、引き締まった腹筋を目立たせる腹、筋肉が程良くついた美しい腕、そして体全体を支える滑らかな脚――彼女が体に持つそれらの要素を包み込んでいたのは、赤いサンダルを除けばほんの僅かな布切れだけであった。

 そう、突然現れた彼女の服装は、黄色のビキニたった1枚のみなのだ。


 あまりにも不用心かつ大胆な格好をした美女が、こちらに不敵な笑みを投げかけている――まるで夢を見ているようにも感じられそうな異様な光景に、しばらく男たちは固まってしまった。だが、何とか思考判断を取り戻し始めた1人の男が、恐る恐る目の前の女性に尋ねた。


「お譲ちゃん……何者だい?」


 そんな彼を少し不思議そうに見つめた彼女から戻ってきた返事に、再び男たちは唖然とした。



「え、あたし?リージョンだけど」


「ふーん……は!?」

「り、リージョン……だと!?」



 もしかしたら実在するんじゃないか、いや実在なんてするもんか、ただの糞みたいな教訓だ。海賊たちの間で何度も議論が続けられてきた、正義の女海賊『リージョン』。それと同じ名を、彼女は呆気なく名乗った。冗談は言っちゃいけない、そんなものは実在しない、と海賊の男たちは告げたのだが、ビキニ姿の美女は自らの信念を崩さず、自分自身がその『リージョン』そのものである、と言い続けた。


 いくら否定しても一切自分の考えを曲げない彼女に対して、少しづつ苛立ちが募り始めた海賊の男たちだが、不意に立ち位置を変えた彼女と、それにつられて大きく揺れるむき出しの巨乳に目が行った時、その考えは少し変わった。仮に彼女があの『リージョン』とか言う海賊なら、嵐の如く暴れると言う『無敵』さは単なる伝説に過ぎなかったようだ、と。何せ目の前にいるのは、自分たち海賊、そしてこの広い大海原を舐めてかかっているとしか思えない、たわわな胸を持つ黄色いビキニ姿の美女である。そのような存在を目の前にして、荒くれ男たちが黙っているはずは無かった。


「あんた、本当にリージョンかぁ?」「本当かなぁ~♪」「おっちゃんたち信じられないなぁ~♪」

「だからそうだって言ってるじゃん」


 相変わらず余裕そうな女性に対し、詰め寄る男たちの顔は明らかに先程までとは大きく変わっていた。水着の美女を自らの手で捕らえ、思う存分遊び放題しようと考え、鼻の下を伸ばしている破廉恥なものだ。やがて、口調も完全に目の前の美女を弄ぶかのようなものになっていた。『リージョン』と言う名の伝説を恐れ、他の仲間に警戒を促したはずの海賊の男までも、今や彼女を見つめる邪な集団の中に加わってしまっていた。


 そして、その男がリージョンと名乗る女性に尋ねた。どうしてこんな絶海の孤島に、わざわざ『1人』で来たのか、と。


「決まってるだろ?あんたらの『宝』を奪いに来たんだよ、あたしは」


 さらりと口から出た衝撃の言葉だが、海賊たちはそれを大爆笑で受け止めた。冗談言っちゃいけない、わざわざこんなちんけな島にやって来たのはご苦労な事だが、そのような事は絶対に無理だ、と海賊たちは告げた。いくら鍛えていたとしても、たった1人の女性が、何十人もの屈強な肉体を持つ男に敵うはずが無い、諦めるんだな、と。

 だが、その侮辱や挑発に対しても彼女は不敵な笑みを崩さず、硬い床にサンダルの音を響かせながらゆっくりと男たちの元へと歩き始めた。それを見て、海賊たちはふざけた半分で自分たちの持つ短刀や拳銃を構えたのだが、それすらリージョンの眼には一切入っていない様子であった。何故なら、彼女の目的は、海賊たちのリーダーである『兄貴』の目の前に歩み寄り――。


「……!」

「……♪」


 ――その弛んだ頬を、思いっきり引っぱたく事だったのである。


 突如顔を覆った痛み、そしてよく響く大きな音は、彼女が鍛えた美人では無い事と、海賊の男たちに敵意がある事を嫌でも知らせせるものだった。

 その直後、『兄貴』を含めた男たちの態度は一変した。伝説の女海賊・リージョンを取り囲み、怒りの形相で武器や自らの筋力を見せつけようと動き出したのである。


「このアマ……俺たちを舐めてるな?」

「命奪われたいのか、あぁん?」


 だが、それに対するリージョンの言葉は、さらに彼らを挑発するものであった。


「ふーん。でもペロペロ舐めてるのは、あんたらだろ?」


 そう言いながら体を反らし、彼女は大きく膨らんだ胸元の2つの球体を見せ付けた。だが、今やそのようなお色気は、男たちの怒りをより高めるだけであった。

 いい加減にしろ、と一斉に叫んだ彼らは、とうとう目の前の美女を抹殺する決意を固めた。例えあの無敵の女海賊の噂が現実になったとしても、例えどれほど巨乳のビキニ美女でも、自分たち海賊を侮辱しまくるような奴を活かしておくわけにはいかない。『リージョン』の伝説はここで幕を下ろす事になるのだ。


 殺気を秘めた男たちは、彼らの中心にいる『1人』の水着の美女を血濡れた姿に変えようと動き出そうとした、まさにその直前だった。


「……!!」「……へ……!?」


 突如、海賊の男の1人の動きが止まった。あまりにも突然の事で誰も気づかなかったが、大きな音を立てて男が倒れた事、そしてその意識が完全に失われていた事を汁や否や、海賊の男たちの注目は、目の前のビキニ姿の美女からそちら側に移ってしまった。一体何が起こったのか、突然倒れるなんて、どうしたと言うのか。突然の事態に動揺する彼らの耳に、信じられないような声が響き始めた。



「どうもー♪」



 憎たらしいほど勇ましい声の主に目を向けた男たちの表情は、あっという間に愕然としたものに変わった。黄色のビキニに包まれた巨乳を震わせ、海賊たちに不敵な笑み――。


「あたしもリージョンだぜー♪」


 ――彼女と全く同じ姿形、そして声を持つ女性が、もう1人現れたのだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る