ヤンデレ

 小説に出てくるキャラクターというのは、大概根底にある個性が決められている。

 現実の人間や映像のあるものならともかく、文字だけで表現する小説の場合、登場人物がふらふらと思考や行動を変えていたら、読者が混乱してしまうからだ。

 もちろん現実でだって、昨日まで「A」と言っていたのが翌日「B」に変わっていたら困ってしまうだろうが。


 以前、B型はツンデレであると書かせてもらった。

 だがB型はそれだけではとどまらない。そんな一つの器に留まるような小さな人間ではないのだ。


 前回登場した相方とは、ネット上でお付き合いをすることになった。

 もちろん会おうねとは言い合っていたが、実現はしていなかった。

 毎日他愛のないことを延々と話し、「好きだよ」とか「愛してるよ」なんて歯の浮くような台詞を吐きまくる生活。

 刺激的で楽しい反面、画面越しでどんな表情をしているかもわからない相方に不安ばかりがつのる。

 じっと朝から待っていても現れなかったり、チャットをしていても返事が遅かったりすると、頭がおかしくなってしまいそうだった。


 相方は、心の弱い人だった。結婚はしていなくて、都会での生活が嫌になって実家へ逃げ帰って家業を手伝っていた。

 自分のことを私と言い、いつでも優しい中世的な人だった。話し方だけなら女のキャラを使っていなくても性別を間違えるのも無理はない。

 でも、いつでも優しいと思っていたその行動は、争い事を極端に嫌がる単なる臆病者だった。

 私が理不尽な不満をぶちまけても、絶対に怒ったりはせず、ただひたすらに謝り、沈黙する。その繰り返しだった。

 単に私は、好きだという気持ちを言葉以外のところで見つけたかっただけなのだ。ちょっとだけ無理して時間をとってくれたり、俺についてこいと頼れる姿を見せてほしかった。

 けれど彼は、衝突するたびに、私の前から消えた。

 私はありとあらゆる手段をとって、彼と連絡するよう必死になった。

 ゲームをうろついたり、メールを送りまくったり、電話もかけ続けた。

 完全に私は彼に依存していた。

 後に聞いた話だが、何度もかかってくる電話にうんざりし、電話ごと冷蔵庫に放り込んだそうだ。

 これですんなり終わればよかったものの、彼もまた私に依存し、放置することが出来ず、泣きながら電話をとった。


 ヤンデレというのは、一方的な支配だ。相手を気遣う気持ちは既にない。

 本当は、わかっているのだ。想いが実らないことを。願いが叶わないことを。でも、どうしても手に入れたいというジレンマで、どんどんと狂っていく。

 性格的にも、立場的にも、距離的にも、私たちが結ばれることはない。彼には生活を壊す度胸などない。私に踏み込む勇気もない。その事実が私を壊していった。


 軽率な行動や言動には、自分のことながら情けないと思う。

 抑えられない自分の血を呪いたい半面、今でも好きになったことを後悔したことはない。

 痛みを伴わない罪は罪ではないと思う。誰かのせいにはしない。罪は罪として、この先もずっと背負っていく。

 こういうところはB型でよかったと思う。

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