38.エコロジーなロボット《匿名バトルロボ編》

「エコなロボットというのはどうかしら?」


 私が新しいロボットのアイディアについて頭を悩ませていると、妻が提案してきた。


「エコなロボット?」


 訝しがっていると、妻は紅茶を入れながらニコリと笑う。


「そう、今の時代、ロボットだって環境に配慮しなくてはいけないわ。ニュースで見たけど、最近の若い人たちは、新しいロボットが出る度に壊れてもないのに古いロボットを買い換えて、その度にゴミが出てるって」


 妻の言葉に頷く。


「確かに、ロボット技術の進化のスピードは段々早くなってきている。一年前と今のロボットでは技術に天と地との差があるほどだ」


 なるほど地球にやさしいロボット、これは画期的なアイディアかもしれない。


 私は椅子から勢いよく立ち上がると、宣言した。


「時代はエコだ。再生可能な素材を使い、再生可能なエネルギーで動くロボットを作ろう」


 かくして私はエコなロボット作りにとりかかったのであった。


 人間と同じくカルシウムを主成分とした骨格。

 人間と同じように、水分やタンパク質、アミノ酸からなる皮膚や肉や臓器。

 我々の脳そっくりの機能を備えた電子回路。


 開発は見事成功し、私は人間そっくりなロボットを作り上げた。


 外見が人間そっくりなだけではない。ロボットたちは呼吸をし、動物や植物を食べるようになり、生殖もできるようになった。


 だがここで恐れていたことが起こった。

 段々と我々と見分けがつかなくなっていくロボットに、人々は次第に恐怖し始めたのだ。


 そこで私は、彼らの遺伝子を弄り、我々より早く寿命がつきるように調整した。

 我々の脅威とならぬよう脳の容積を小さくし、知能レベルも落とした。


 だがそれが逆効果だったのかもしれない。

 寿命が早まり知能が退化した結果――彼らは爆発的なスピードで繁殖し始めたのだ。



 そして始めてあのエコなロボットを作り出してから随分と年月が経った。


 彼らの繁殖するスピードは我々の想像以上に早く、ロボットたちはもはや地球全土を覆うようになっていた。


 彼らはもはや我々に作り出されたことなど忘れ、独自の文明まで持つようになった。


 ああ、どうしてこうなった?


 ある晴れた昼下がり、私は彼らが「原人」や「旧人」の化石を見つけたという新聞記事を読み、ため息をついた。


 記事は《現在の人類》と「原人」や「旧人」は別系統の人類で、祖先ではないとの研究結果を示し、《我々人類》はどこから来たのかと疑問を呈していた。


 思わず苦笑が漏れる。


 彼らの創造主たる私からして見れば別系統の人類なのは当たり前なのだから。


 だって《彼ら》はロボットで、化石として見つかった彼らは彼らを作る段階で出来たプロトタイプ。


 むしろ彼らが旧人とか原人と呼ぶ人類のほうが遺伝子を色々と弄っていない分、我々元々の人類に近い種なのに。


 だが彼らは数万年を生きる我々とは違い寿命も短いから、そのような短絡的な考え方しかできないのかもしれない。


 だけど――私ははたと考え直す。


 もしかすると、この星の大半をロボットが占めるようになった現在では、人類の定義もそのように変わってしまうのも必然なのかもしれない。


「もしかして、ここにはもう私の居場所はないのかもしれないな」


 私はここ地球から遠く離れた別の惑星に移住することに決めた。

 妻や他の多くの同胞たちがそうしたように。


「さよなら、地球」


 青く輝く故郷を後にして一人呟く。


 いつの日か、彼らが私たちの住む星を見つけるのかもしれない。

 私たちを見つけ、宇宙人呼ばわりするかもしれない。


 そうしたら私は彼らに言ってやるのだ。


 久しぶりだね、我々は人類だ。ようこそ、私に作られたロボットたち。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る