16.サンタクロ―ス

「わぁ、サンタさんだ!」


 それはクリスマスイブの夜だった。ユイは目の前にいる、赤い服を着て白いひげの白人男性に目を輝かせた。

 ニコニコしながらクリスマスプレゼントをユイに渡すサンタクロース。


「わあ、ありがとう!」


 お礼を言ったユイだったが、ふと、サンタに疑いの目を向けた。


「ねえ、あなた、本物のサンタクロースなの?」


「そですヨ!」


 サンタは答えた。


「フィンランドから着まシタ。ちゃんとサンタの免許も持ってマス」


 サンタは、胸元から一枚の紙を取り出した。外国語で書かれていて読めないが、確かにそれは、何かの資格を表す紙のように思えた。


「免許があるの?」


「そうですヨ! サンタの学校もありマス!」


 サンタは一枚の写真を見せた。そこには若者や年寄り、女性や肌が黒かったり褐色だったり、アジア人の用紙をしたサンタもいた。

 ユイは目を輝かせた。


「女の人でもなれるの?」


「そうデスヨ!」


「じゃあ、ユイも将来、サンタクロースになる!」

 

 サンタクロースは、ホゥホゥホゥ! と笑った。


「なれるといいデスネ! 沢山勉強、必要ですネ! じゃあ、そろそろ他のお家に行きマスネ! お友達には内緒ダヨ!」


 そう言うとサンタは窓を開け、外へ出て行った。

 ユイは慌てて窓の外を見たが、そこにはもうサンタの姿は無かった。


「あ……雪」


 かわりに空からは、真っ白な雪が、天使の羽のようにひらひらと舞い落ちたのだった。



   ◇



「上手くいったわね」


 お母さんは子供部屋をドアの隙間からその様子を見てほほ笑んだ。

 

「そうだね。きみ、もういいよ、寒かったろう。さあ、中に入って温まりなさい」 


 お父さんが玄関を開け手招きすると、サンタクロースが玄関に入ってきた。


「ありがとうございマス」


 先ほどまでサンタクロースだった男性が、帽子と付け髭を取った。

 そこに立っていたのは、金髪で碧眼のまだ20歳くらいの青年だった。


「髭を取ると一気に若く見えるわね」


 お母さんは感心したように頷いた。


 彼の名はヘンリ。フィンランドからの留学生で、お父さんと昨日飲み屋で知り合ったばかりの青年だ。

 ヘンリはお父さんから、娘が幼稚園で「サンタなんていない」と他の子に言われてショックを受けていた、という話を聞き、この「サンタ作戦」に協力することにしたのだ。

「しかし、サンタの資格なんてものがあるなんて、フィンランドはすごいなあ」

「会話のネタになると思ってとったんデス。役に立ってよかったデス」

 ヘンリは笑う。

「さあ、もっと中に入ってゆっくりしていきなさいな」

 お母さんが薦める。しかし、ヘンリは首を振った。

「いえ、ボクはこれで帰りマス。用事ガあるノデ」



 ヘンリはユイちゃん家族に別れを告げると荷物をたくさん積んだ自転車をこぎ、粉雪の降る街へと漕ぎ出した。


 そしてしばらく街灯の薄明りの中を走ると、当たりに人気のないのを確認し指を鳴らした。

すると自転車の前輪はトナカイに後輪はソリに見る見るうちに変化し、若きサンタを乗せたソリは、鈴の音と共に白く染まりゆく空へと消えていったのであった。

 



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