第5話




「クラブ倶楽部、しゅっぱぁーつ!」


青空を切る様に元気の良い声が[ゼリアスロード]の岩場から響き渡る。[ゼリアスの森]方向を指差し言ったのは杖装備の女性プレイヤー[パンミミ]。キャラネームがユーモラスさを越えたネタネームだが、キャラメイクが可愛らしく、名前も可愛く思えてくる様な人間性プロパティを持つプレイヤー。


大剣持ちと斧持ちは男性プレイヤーで、恐らく斧持ちプレイヤーはタンクだろうか。盾無しタンクのビルドを選ぶとは中々個性的。有り金をほぼ注ぎ込んでクエスト報酬の[クラブクロス]の防御力を強化したのだろう。


防具強化は二種類、DEF、MEFをあげる[防御強化]とSPDと回避をあげる[速度強化]がある。どちらかを選び強化すれば、その防御はもう二度と別の強化ルートを辿れない。

[防御強化]を選べば今の防具グラフィックにプラスで鉄系パーツなどを付ける事ができる。

[速度強化]を選べば今の防具グラフィックから鉄系パーツなどを外す事ができる。

防具グラフィックを変更してもしなくても強化値や性能は変わらないし、変更せずノーマルグラフィックのまま強化を続ける事も、途中でノーマルグラフィックに戻す事も可能だ。見た目を重視したオシャレプレイヤー達が素晴らしい団結力を見せ、β期間に運営チームへ「防具強化時の変化や遊びが欲しい」と要望メッセージを送ってくれたので採用、実装されたシステム。

ステータスや効率重視のプレイヤー達もこの強化変化システムによってオシャレ度が増した。

クラブクロス防化の斧使いはベルトポーチのポーション数を確認し、岩から腰をあげわたしへ質問する。


「レインさん範囲攻撃とってる?」


キャラネームが[国士無双]という強そうな名前のわりに、どこか幼いフェイスアバターがわたしを見る。


「ごめん、ないや」


短く答えるとキッズフェイスの国士無双は「了解!」と笑顔で言い、背から斧を取り作戦を言う雰囲気に。パーティリーダーである斧壁は言わばパーティメンバーの命を管理する立場。適当な進みをしてlstでもすれば野良じゃなくても文句の一つ二つは飛び交うだろう。それほどlstは怖く、最悪なシステムの一つで、パーティリーダーはただメンバーを集めるだけではなく、そのパーティの責任者や仕切りといった立場になる。


「ヨシとパンミミは範囲攻撃メインで、レインさんはパンミミがタゲティしてるモブを狙って。焦らず落ち着けばアクティブも怖くない!」


大剣使いの[ヨシ]はコクリと頷き、杖使いの[パンミミ]は「おー!」と片腕を上げ、範囲なし無能片手使いのわたしは「了解」と答え、各々武器を手に。


斧と大剣が前、片手のわたしが中、杖が後の2-1-1で[ゼリアスロード]を進む。

安置 ーー岩場から数十秒でアクティブ蠢く一本道に到着し、顔を合わせ一歩二歩とゼリアスロード攻略を開始する。

攻略と言っても一本道。抜ける事が出来ればそれで終わりだが、この道はそう甘くない。


青緑の亜人モンスターの黄色い瞳がわたし達を捉えた瞬間、喉から声を上げ周囲の同モンスターへ知らせる。

斧を構え、国士無双はパーティメンバーへモンスター情報を言い、戦闘開始する。


「ノーゴブは雑魚い!ただ鉈投げにだけ気を付けて!」


そう言い、国士無双はわたし達より一歩前に出て斧で地面を強く叩いた。周囲のヘイトを自分へ引き付けるタンカーの必須スキルでノーゴブ ーーノーマルゴブリン達の敵意を自分へ向ける。


ヨシは大剣を横に構え、無色光を纏わせる。この無色光がスキル起動合図。タイミングを見て大剣をなぎ払う様に振り回しノーゴブを数匹叩く。

直後、背後から詠唱ボイスが聞こえたわたしはノーゴブの集団へ突撃するべく、体勢を低くする。魔法はMP消費量増加&威力低下するも、ほぼ全ての魔法が範囲対象になる。初期スキルの[ファイアボール]を範囲で放った瞬間、火球が飛ぶ方向へわたしも走り、魔法攻撃で半分まで減ったノーゴブのHPバーを綺麗にする。


タゲられたノーゴブを処理し、進めばまたタゲられ、同じ様に対応、処理。これを繰り返しゼリアスロードを進む。

中間地点にある安置へ到着する頃には全員のアバターには傷や汚れが所々にあり、HPも微量だが減っていた。

しかしタンクがいた事でHPは二割以上減る事もなく、安全に進む事ができた。

安置に倒れる様に座るキッズフェイスのタンカーへ、わたしはHP回復ポーションを差し出す。


「おつあり」


定番ワードでお疲れとお礼を言うと、国士無双は少し笑って回復ポーションへのお礼を言い一気に飲み干した。


アクティブ数に少々やり過ぎ感はあるものの、パーティで進めば中間地点の安置までは進む事が出来た。壁なしでも一匹一匹確実に対応すれば不可能ではない。が、問題はこの先にいるLv13の番人ゴブリンだ。ゼリアスロードの先を見つめていると、大剣使いのヨシが言った。


「レインってβ経験者?動きが固くないと言うか、他ゲーじゃミスる動きもここじゃ出来る事もあって、さっきノーゴブを殴ったじゃん?」


見られていたか!と心で言い、恥ずかしい気持ちを笑いで隠し、わたしは頷いた。


「戦闘中は体術スキルがなきゃダメージもヘイトも何も発生しないけど、このゲームではモンスターへの殴る蹴るが可能なんだ。鉈投げをギリ回避した時殴ってたし、βの時ストレスマッハになるとみんなやってたんだよね」


β時代の記憶を思い出したヨシは笑い言った。ヨシの言った事は正解で “戦闘中は” と言った辺り、テスト期間に色々と試したクチだろうか。

わたしは頷きβ経験者である事を伝え、他の二人はどうなのかを聞いてみた所、このパーティはβ経験者が集まるパーティだった。アクティブが大量徘徊する初心者lstのマップでの戦闘だったが、焦りなどはなく妙に慣れた対応だったのも納得がいく。


「それじゃ、そろそろ森まで行こうか」


HPバーが端まで緑に染まった国士無双が勢いよく立ち上がり、ゼリアスの森まで進むべく、わたし達も武器を取り安置を出た瞬間、それは起こった。


マップ移動先の状況は移動してみなければわからない。景色に壁などはないが、移動しなければ何も起こっていない静かなマップに見える。

気がゆるんでいたのか、βテスターパーティなので余裕に乗っていたのか、マップ移動をtankが先にではなく、DPS ーーアタッカー、火力のヨシが先に移動してしまっていた。


わたし達の移動が済んだ瞬間、目の前でヨシをターゲットに大斧を振り降ろす番人ゴブリン。予想外の現象にわたし達四人の情報処理も追い付かないまま、ヨシのHPゲージは端から端まで一撃で消し飛んだ。

ダメージ増加ポイントである頭に大斧の攻撃がクリティカルヒットするというBadLUKに見舞われ、ヨシのアバターは強く地面に叩きつけられ、動きを止めた。フリーズ国士無双とパンミミの手を掴み、わたしは前のマップへ飛び込み安置へ逆戻りした。


「なんだよ今の」


国士無双が地面を見つめポツリと呟く。


「ボスモンスター?それよりヨシは大丈夫かな?」


パンミミはフォンを操作し、フレンドリストの確認を急ぐ。lstしていればフレンドリストのキャラネームは赤く染まる。

死亡時アバターが爆散するではなく、死体アバターがその場に一分間残り、lstならば一分後、赤色の炎がアバターを焼き尽くす。

この一分間で死体からアイテムをスナッチ ーー奪う事が可能になるが、あのマップには他のプレイヤーの姿はなかったのでlstさえしていなければ、とりあえずは安心だろう。

一分間沈黙し、そしてパンミミが声を出す。


「名前大丈夫、lstしてないよ!」


この声にわたしと国士無双が溜めていた息をホッと吐き出し、心に浮遊していた曇空が晴れる。


街に戻りヨシを向かえに行く事にしたわたし達はワープアイテムがまだ入手出来ないので、再びアクティブ徘徊する道を通り、スタートルの街へ戻った。プレイヤーがログインした時のポップスポット付近のベンチにヨシは座っていた。


「ヨシー!」


パンミミが元気よく手を振り、ヨシの元へ駆け寄る。わたし達も後を追いベンチに到着すると、ヨシはパーティメンバーを見る事もせず、フォン睨み何度もスクロールさせている。


「どうしたの?」


わたしが質問してみると、数秒後スクロールさせていた指を止め、言った。


「ないんだよ... “ツーハンドクラブソード” が装備枠にもフォンポーチにも」


「装備...武具lst?」


ヨシの言葉を聞いたパンミミが呟くも、そんなシステム スインベルン・オンラインには存在しない。

死亡し、最後に寄った街で蘇生したプレイヤーの装備が無くなる現象は一つしか考えられない。しかしそれはまだ先になる事だと思っていたし、今も正直ヨシの見間違いではないのか?と思ってしまう。


「ヨシ、もう一度落ち着いて確認してみてよ」


わたしがヨシへ落ち着いて再確認を頼むと、一つ一つアイテムをタップし、説明文を表示させる様に指を動かすも...


「やっぱりない...ツーハンドクラブソードと回復ポーションが数個消えてる」


わたしはフォンを取り出し、ゲーム内から運営チームへメッセージを送ろうとするも、これはまだ確定した現象ではないうえ、システムが許しているプレイスタイルなので運営チームの力を使うのは違う...そっとフォンをベルトポーチへ収納し、わたしは他に原因はないのかを考える。


「装備中の武具が全部無くなったわけじゃないし、不具合にしてはピンポイントすぎるな...それにポーションまでって」


国士無双は今の状況を整理する様に言い、パンミミがヨシを元気つけるために言った。


「また武器クエしようよ!ちょうど街にわたし達もいるんだし!」


それがいい。と二人の男性プレイヤーが言い、切り替えようとするが、わたしは三人を止める様に言った。


「残念だけど、それは出来ないんだよね。装備系アイテムが報酬のクエは一人一回までなんだ。何度も武具をゲットし、溶かして強化鉱石を生産するプレイヤーがβの時にいてさ...それで一回きりになったんだ」


冷たい様なわたしの言葉に三人は顔を下げベンチで黙る。

武器を失ったのは痛い。しかしその原因が謎なのはもっと痛い...と言っても恐らく原因は一つしかない。

武器だけではなくポーションまで数個失っている事から、[ゾンビ狩り]をして移動して来たプレイヤーを狙わせ死亡させてから[スナッチ]する作戦だ。マップ移動先に番人ゴブリンがいた時点で普通ではない。そして番人ゴブリンのHPバーに減りは見てとれなかっ事から、相手は[ハイディング特化]のビルドだろう。

ヨシはスナッチされた事にも気付けていないし[ハイディングスナッチャー]がもう現れた事に、わたしは驚いた。


「一旦落ちるわ」


ヨシはそう呟き、ログアウトしてしまった。メイン武器が原因不明の消失を遂げれば誰だってテンション下がる。


「わたし達も一旦落ちるね、ごめんねレインちゃん」


パンミミが野良で出会ったわたしに気を使い、一言謝り、国士無双も同様にログアウトしていった。


「...とりあえず掲示板に貼茶しておこう」


わたしは街の掲示板に「ゼリアスロード中間安置の先で番人ゴブリンがマップ移動した瞬間目の前にいた。攻略するプレイヤーは気を付けて」と、紙に文字を打ち込み掲示板へ貼る 貼茶を済ませ、何か情報が転がっていないか掲示板の貼り紙を確認するも、やはりコレ系の情報はない。


たまたまスナッチされたなら、仕方ない。しかし狙ってスナッチされたのならば、早いうちにプレイヤー達にもこの情報を広めなければスナッチャー達が強くなり、ルールを決められるステータスと立場までを得ればPKがルールになりかねない。


「...とは言ったものの、なんにも情報ないしなぁー」


あっさり手詰まりしたわたしはログアウトするため、フォンをスクロールさせ、ログアウトボタンをタップしようとした時、街でshout ーーシステムが許す範囲の大声を出すプレイヤーが現れた。

普通の大声よりも大きく叫べるshoutシステムは停止し、空気を吸い込み、一気に吐き出す様に叫ばなければならないので中々お目にかかれない。


「俺の防具をパクった**プレイヤー出てこいよ!」


**の部分はフィルター補正で声が消されてしまったが、恐らく、クズ だろう。

スナッチの二人目の被害者は血の気が多いプレイヤーなのか、被害者を装っているのか、少し観察して見る事にした。

質素で薄い布の装備 ーーと言っても装備なし状態で表示される個有名[普段着]の男は獣の様な瞳で周囲のプレイヤーを見渡す。ちなみにこの[普段着]も好きなモノに設定できるが、今は初期設定されているモノしか入手出来ない。


プレイヤー名などを知りたいが、下手に話しかけると当たられそうなのでもう少し観察を続ける事にしたが、あと二回、shoutした時点で誰もクチを挟まなかったら、わたしがshoutを止めさせる様に会話相手をしなければならない。shout連発は控えてください。と公式HPでも書かれているが、今のshoutはまぁ...仕方ないとしよう。


男はヘイトを周囲に撒き散らしつつ、掲示板の貼茶を確認し、そして止まった。

気になる貼茶でも見つけたのか?


「おい!レインってヤツ!掲示板まで来い!」


え?


「俺はゴミ服で掲示板横の芝生エリアに座ってるから、今すぐ来い!」


死んだ。

あの男が見た貼茶はわたしがさっき貼った番人ゴブリンの件だろう。あの言い方的に男が装備を失ったエリアはヨシと同じでゼリアスロード中間安置から移動してすぐのマップで間違いないだろうけど...正式サービス二日目の賑わう日曜昼前にshoutで名前を叫ばれるとは思わなかった。

しかも相手怒ってる...。


スルースキル全開で回避したいが、レインという名を叫ばれ続けるのは勘弁してもらいたい。これ以上プレイヤー達が集まる前に行こう。

深い溜め息を吐き出し、男の前まで進み言った。


「わたしがレインだよ、shoutは迷惑だからもうやめて」


「お前がレインか、ちょっと来いよ」


鋭さ+10の瞳をわたしに向け、男は立ち上がりプレイヤーが少ない雑貨屋裏まで移動する。

街中はプレイヤーを攻撃してもHPは減らず、PKとしても扱われない。そうわかっていてもやはり、怖い。

不良に呼ばれてお金を奪われる人はみんなこの恐怖を味わっているんだろうな。と考えていると男は足を止めた。


「お前が俺の装備をパクったんだろ?今すぐ返せよゴミプレイヤーが!」


返せと言われるのは覚悟していたが、ゴミプレイヤーの付け合わせまで添えられるとは...


「わたしパクってないし」


「お前以外ありえねーだろ!じゃあ何だあの貼茶は!あれでプレイヤーを誘ってパクる作戦だろ!」


このプレイヤー...いや、こいつバカか?


「もう一度貼茶よく読んでよ。誘ってるなら番ゴブが即居る事なんて書かないでしょ。さっきパテした人もそこで武器を無くしたんだ」


「...そいつは死んだのか?」


「うん。中安置から移動した瞬間、番ゴブがいてCDで死んでlstはしなかったけどクエ報酬の武器とポーションが数個なくなってた」


ここまで話していいものなのか少々迷ったが、男を落ち着かせるには仕方ない。プレイヤー名やアバター情報は伏せ、何処で何があったのかを伝えると、男は黙った。

人違いだったから黙ったわけではなく、何かを考える様に黙っていると、背後から足音と声がわたし達に届く。


「ちょっといいかな?」


振り向くとそこには白染めしたクラブクロスを装備する剣盾使いと、色染めなしのクラブクロスを装備する男性プレイヤーが数名、わたし達の会話へ乱入してきた。


「会話中失礼、俺はメルセデス。こっちは俺のギルメン達...と言ってもまだギルド設立は無理なんだけどね」


白髪に白装備とどこか高級感漂うプレイヤーネームの[メルセデス]。色染めアイテムを既にドロップし、色染めに成功している事から間違いなくβテスト経験者だろう。

相当なヴァンズを使って染めあげたであろう白いクラブクロスがよく似合う。


「わたしはレイン...ってあのshout聞いてたら知ってるよね」


「俺はリバー。何を隠そうβ経験者だ」


抽選でも何でもないβテストを経験した事をそこまで強く言える[リバー]さんは中々の性格だ。


「リバーさんはβ出身だったのか。それで装備をパクられた...と発言したんだね」


ここだ。

正式サービスからプレイを始めたユーザーはスナッチの存在よりlstを怖がってしまい、頭の中では “HPがゼロになればキャラデータ消滅” が強く残っているだろう。正式から参加のプレイヤー達は死体から装備やアイテムを盗むスナッチの存在に気付かされ、注意するのまだ先の話だ...とずっと思っていたが、ここでスナッチが発生した時点で、全プレイヤーはさらに死 ーーと言えば重いが、HPがゼロになる事を嫌がる様になる。


今起こった、ヨシの大剣消失とリバーの防具消失はもう間違いなくプレイヤーによるスナッチ。現時点でスナッチャーモンスターは存在しない。


「リバーさん、レインさん。この話をまだ他のプレイヤーへはあまり話さないでほしい。もちろん隠してくれってわけじゃない。そのスナッチャーを捕まえてスナッチの存在を100%にしてから公開した方がいいんじゃないかなって思うんだ」


突然会話へ乱入してきた時は犯人か?と思ったが...白装備のメルセデス。わたしはこのプレイヤーを知っている。

βでギルドを立ち上げ、β最後インスタンスダンジョンの番人、ボスの黒竜戦で一緒に戦ったレイドメンバーにいたタンカー、壁の旧キャラネームは[ベンツ]で間違いない。


「捕まえるって、どうやるんだ?恥ずかしい話、俺はスナッチャーの姿を見てないんだぜ?」


リバーの言う通り、捕まえるにしてもハイディングとスナッチのゲスコンボでヨシもスナッチャーの姿を見ていない。

現場にいるプレイヤーに「スキルスロット見せてくれ」なんて言えば喧嘩一直線だ。


「スナッチへの対応は対スナッチアイテムを持ち歩く以外今の所不可能だ。でもハイディングに対しては一つあるだろ?スキルツリーがハイディングに派生した時、同時に派生する対策スキル」


「...リビール」


ポツリと言葉を溢したわたしへ、メルセデスは頷いた。

ハイディングとリビール ーー隠蔽と看破はサバイバルスキルのツリーで、同時派生する。しかし隠蔽は理解できるが看破を取っているプレイヤーは現時点ではかなりレアな存在ではないのか?


「実は俺達がフテクロのHPに[ゼリアスの森]のスクショを送ったんだ。ゼリアスの森にはハイドレートが高い植物系モンスターが沢山いた。攻略するにもハイドレートが高すぎてノースキのリビは不可能。そこでパテメンの一人がリビールスキルを取ったんだ」


そう言いメルセデスはリビールスキル持ちのメンバーの胸をトンと叩いた。

ヨシの失った大剣と同じ、大剣と言うと細すぎる気もする鞘ありのツーハンドクラブソードを背負っているプレイヤー。


「リビールでハイディングスナッチャーの姿を看破し、その場で捕らえる。もちろん逃げられた場合も想定してスクショ撮影もする。それで...」


ここでメルセデスは言葉を止めた。

そこまで言えばわたしもリバーも察する。メルセデスが言うに言えない言葉。それは...誰が死ぬか。


HPがゼロに、戦闘不能になればスナッチャーが現れるかもしれない。しかしスナッチャーが現れずlstなんてすれば文字通り無駄死に。lstし新たにキャラデータを作ってもクラブ武具のクエストは受注出来ない。確率は1/5だったとしても一発lstする時もある。


メルセデス達はこの先の攻略には必要な存在になるだろうし、メルセデスのリーダーシップ感は強制や命令感がないので従うと言うより、一緒にやる感覚に近い。このプレイヤーステータスは大きい。

そしてリバーは一度死んでいるのでlst確率はわたし達より高まっているうえ、自分がやる!なんて言う性格ではない。


仕方ないか。


「おっけー。わたしが死ぬからリビールorスクショよろしくね」


わたしは通常のプレイヤーとして今は楽しんでいるが、運営チームのプレイヤーだ。こんな危険な仕事をプレイヤーに押し付ける運営プレイヤーが存在している事を知れば、わたしならPK対象にするだろう。


「いいのか?lstすればその武具は二度と手に入らないんだぞ?」


意外にもわたしへそう言ったのはリバーだった。

死ぬのはいい。ただlstするのは誰だって嫌だ。でも、だからこそ、わたしがやらなければならない。


「100パーlstするってわけじゃないし、貴族勢はクラブ武具を高く売り出すだろうし、lstしてもまだ取り戻せるレベルだよ」


と、言ったものの...やっぱ怖いし嫌だ。


プレイヤー達のトラブルの火種を極力消す事がわたしの仕事の一つ。

スナッチャーがいなかった。lstした。ふざけんな!なんて事になる確率もゼロではない以上、死体役はわたしが引き受けるしかない。




まったく、運営チームも楽じゃない。




ほんと、怖い。






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