第25話「異世界にて新たなる仲間達」

「天士殿。クリストとの勝負、我々も全力で協力いたします。もとより我らが領地はすでに天士様達、人族のもの。必要なものは全て私が用意いたします」


「バズダルさん……」


 先程のクリストとの会話を終えて、真っ先にそう言ってくれたのはバズダルさん。

 正直、ミーティア姫がさらわれた今、この人の力を借りられるのはありがたい。それに何より――


「天士」


 声に振り向くと、そこには屈強な体に揺るぎない決意を秘めたセルゲイが立っていた。


「オレも今後はお前のチームとして使ってもらいたい。お前のためならば、オレの持てる力全てを出し切ろう」


「セルゲイ……ああ、こちらこそ。お前が仲間になってくれるなら心強いよ」


 そう言って指し伸ばすセルゲイの手をオレは力強く握る。


「こいつは頼もしいぜ……! ウォーレム族のセルゲイにバズダルさんの地位と財力! 更にはイノやアレーナと言ったエルフ族までいるんだろう! これなら相手がどんなのでも負ける気がしないぜ!」


 そんなオレ達の結束を見ていたリーシャがテンション高く喜ぶ。

 それについてはオレも同じ気持ちであり、先程まで全力でぶつかりあった相手が仲間になったのだ。いくらクリスト側に巨大な敵がいようとも負ける気はしない。


「……そううまくいけばいいのですがね」


 が、バズダルだけはそれに同意することなく視線を外し呟いた。

 何故この時のバズダルがそんなに後ろ向きであったのか。その答えはすぐに明かされることとなる。


◇   ◇   ◇


『お待たせした。天士殿。では試合内容と場所について連絡をする』


「……ああ」


 後日、クリストからの連絡があり、そこでクリストが要求するスポーツの説明がなされた。


『我々と君たちがするスポーツは『鬼ごっこ』だ』


「鬼ごっこ?」


 それはあまりに予想外なスポーツ名であった。

 というよりもオレの世界では、それはスポーツと呼ぶよりも遊びのようなものであり、競技の枠組みには入っていない。

 が、それはあくまでオレのいた世界での話であり、この世界では『鬼ごっこ』も一つの競技なのだろう。そう思っているとクリストから詳しい説明がされる。


『我々が提供する『鬼ごっこ』は普通のものとは少し異なる。我々独自のルールが入ってるため、一から説明させてもらう』


【鬼ごっこ】ルール

・参加人数は三人。それぞれ三対三の試合となる。

・選手はどちらかが『鬼側』『村人側』となる。

・制限時間は三十分。

・『鬼側』となった選手は『村人側』を追いかけて、体の一部に触れれば捕まえたこととなり、触れられた『村人』プレイヤーは『脱落』。その試合から退場となる。

・『鬼側』のプレイヤーは時間内に『全ての村人』を捕まえれば勝利。それ以外は負けとなる(時間内に一人でも村人が残っていれば鬼側の負け)

・『村人側』となったプレイヤーは制限時間内に生き残れば勝ち。この時、一人でも残っていれば、それは村人側の勝利となる。

・ただし、鬼側・村人側それぞれに特殊な役割が一つ存在する。

・『村人側』には『狩人』と呼ばれるものが存在し、この役割となっている者に『鬼』が触れば、その『鬼』は逆に『脱落』。試合から退場となる。

・『鬼側』にも『子鬼』と呼ばれるものが存在し、この役割となっている者だけが『狩人』を捕まえられる。ただし、『子鬼』が『村人』に触れると逆に『脱落』。試合より退場となる。

・『狩人』『子鬼』は一人しか選択出来ない。

・また試合開始前、それぞれのプレイヤーは『十個』のスキルの内『一つ』を選択し、そのスキルを試合中に使用可能となる。

試合中に使用できるのは選択したスキルだけであり、それ以外のスキルは使用できず、元々自分が持っているスキルも使用出来ない。

・試合開始前に選べる『十個』のスキルは以下の通り。

『剛力』:対象のパワーを強化させる。

『加速』:対象のスピードを加速させる。

『感覚強化』:対象の五感を強化させる。

『敵者生存』:状況に応じた強化を与える。

『看破』:対象のデータや役割、持っているスキルなどを見抜く。

『隠蔽』:対象の姿を消す。ただし、人間の場合は数分間しかもたない。

『調査』:敵・味方の位置を把握する。隠蔽された敵なども映る。

『変化』:自身の役割を変化させる。

『偽装』:姿形、データなどを偽装する。看破スキルにも偽装のデータが映る。

『無効』:対象にかけられたスキルを打ち消す


『――以上が、我々と君たちが行う競技のルールとなる。何か質問があれば、今のうちにしてくれたまえ』


「……これは」


「なんか思ったよりも複雑そうなルールだなぁ」


 クリストからの試合のルールに対し、リーシャはやや面倒くさそうに呟いていたが、オレはそれ以上のものを感じ取っていた。

 なぜならそれはオレが知る鬼ごっこ以上の複雑さと奥深さがあり、ただのスポーツの枠組みを超えたゲームであったためである。


「……それじゃあ、質問だ。この『狩人』と『子鬼』なんだが、それぞれのプレイヤーは絶対に一人はこれを選ばないとダメなのか?」


『いいや、必要がないと思えば選ぶ必要はない。例えば鬼側の選手が三人共全員『鬼』を選んでも全く問題ない。ただし、この特殊な役割を選べるのはゲーム開始前では一人だけだ。つまり『村人』側が『狩人』を二人選択して試合を開始することは出来ない』


「……なるほど」


 そのクリストの説明に対し、オレはこのゲームの裏に仕掛けられたある戦略に気づきつつあった。


「もう一つ。試合前に選ぶ十個のスキルなんだが、これはそのスキルを持たないプレイヤーでもそのスキルを選択すれば、試合中に使えるようになるのか?」


『それは無論。そうでなければ平等な試合にはならないだろう。これはスキルに特化した我々エルフ族が他の種族と試合をする際にお互い平等にするための処置なのだから』


 そう言って通信石の向こうから微笑むクリストの声が聞こえるが、オレは素直には受け取れなかった。なぜなら、これはそうした平等感溢れるルールなどではなく、狡猾な狙いが秘められたものだと見抜いていたのだから。


「……スキルに関しての質問だ。この『変化』の役割を変化させるっていうのはどういう意味だ?」


 オレのその質問に対し、通信石の向こうにいたクリストが僅かに沈黙するのが聞こえた。


『そのままの意味ですね。たとえば『鬼』のプレイヤーを『子鬼』に変化させたりとかです』



『ええ、その通りです』


 それはまるで面倒なところに気がついたなと言わんばかりのクリストの鬱陶しそうな声であった。


「じゃあ、それで『村人』を『鬼』とかに出来るのか?」


 不意に疑問を感じたリーシャがそう問いかけるが、それに対しクリストは鼻で笑うように答える。


『いいえ、それは無理です。変えられるのはあくまでも自分達の陣営の役割だけですので』


「そ、そうか……」


 唇に手を当てながら考えるように頷くリーシャ。

 それに対し、オレはある確認を行うべくクリストに問いかける。


「……最後に。選んだスキルは何回でも使用出来るのか?」


『そうですね……。可能と言えば可能ですが、たとえば『変化』などのスキルは魔力を大きく使用するので、一試合で使えるのはせいぜい二、三回と考えた方がよろしいでしょう』


 なるほど。それならば十分作戦の立てようもある。

 恐らくは向こうも、そのつもりなのだろう。

 オレはそれに頷き、通信石の向こうにいるクリストに呼びかける。


「分かった。それじゃあ、場所はどこだ?」


『エルフ族の辺境領地。フォレスト神殿で行いましょう。日時は三日後の昼。案内はそちらのバズダル卿がご存知ですから、彼に案内してもらうといいでしょう。それと先に伝えておきますが、試合の際は我々が『村人側』、天士殿達が『鬼側』で試合を開始してもらいます』


「え、こっちが鬼側でいいのか?」


 クリストからの要求に対し、隣で聞いていたリーシャが嬉しそうに声をあげ、それに対し、クリストが満足げに頷く。


『ええ、我々は『村人側』で構いません』


 そのクリストの返答に対し、リーシャは「やった!」みたいな顔をしていたが、オレは素直に喜べずにいた。

 なぜならこのゲーム、鬼が有利とは限らないからだ。


『では天士様。試合のほう、楽しみにしています』


 そんなこちらの心境に気づいているのかいないのかクリストはそのまま通信を切った。

 それと同時にオレの隣にいたリーシャがため息をつくが、その顔を笑顔を浮かべていた。


「ふぅー、なんだか随分複雑なルールの鬼ごっこだなー。けどまっ、オレらが鬼ってことは連中を捕まえればそれでオッケーってことだし。何よりもこっちには天士とセルゲイがいるからな。こっちが負けるなんてことはまずありえな……」


「いや、そうとも言い切れない」


 リーシャの楽観的発言に対し、オレはすぐさま否定する。

 それに対しリーシャは不思議そうな顔を浮かべるが、バズダルはすでに気づいているのか苦々しい表情で頷く。


「これはただの鬼ごっこじゃない。こいつは……鬼ごっこという名を冠した心理戦だ」

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