第6話 ラムネとビー玉

 あのオヤジ、気になることを言っていた。

 ジャポンで起きた3大戦争…。

『日清戦争』は聞いた。

 残りの2つっていったい……。


 それはさておき、お昼はカツ丼を食べた、美味かった。

 豚肉の最高峰の料理だと思う。


 軍から支給された板チョコをカキリコキリと食べながら歩いていると、習慣とは恐ろしいもので、目の前には『骨董品グラスホッパー』…。

(ふっ…俺って奴は…)

 自然と視線が上を向く、泣いていたわけではない…太陽を直視したくなっただけだ。

 エドモンド少尉が視線を窓ガラスに移すと、ガラスの向こう側には店主オヤジが手を振っている。

 なんだか2等身の緑色したカエルのような人形、店主オヤジの話によると伝説の軍曹を抽象的にかたどった人形でジャポンでは戦神いくさがみとしてあがめられていたそうだ。

 その戦神いくさがみの向こうで丸メガネが、にこやかに手を振っているのである。

(なんだろう…なんか腹立つ!)

「ダンナ!どうですお茶でも!遺跡市で、いい掘り出し物仕入れたんですよ」

 店主オヤジが店の入り口まで出てきてエドモンド少尉を誘う。


「ダンナ!ダンナ!まぁお茶だけでも!ねっ!」


 ガラスの向こうで緑の伝説の軍曹が語りかけてくる…ような気がする…真夏の暑い午後。

「とりあえず入るのでアリマス!」


 よく冷えた麦茶、浮かぶ氷がグラスでカランと音をたてる。


「掘り出し物…とか言ってたなオヤジ」

「ハイハイハイ…コレです」

 エドモンド少尉は思うのだ、『ハイ』が多い話は信用できない。

『ハイ』×3だった…………怪しいな、だいぶ。


 安っぽい宝箱、ペカペカの赤い色が嘘くささを隠し切れてない。

 仰々しく取り出した、これまた安っぽい金の鍵。

 カチャリと軽い音を立てて箱が開く。


 中には何やら丸いガラス玉にジャポンの文字が1字刻まれている。


「このガラス玉がなんだ?」

「ダンナ!ガラス玉じゃございません」

 なんだか得意気にオヤジが語りだす。


 ……………………

 なんでも、ガラス玉は全部で8つ存在するらしい。

『仁』『義』『礼』『智』『忠』『信』『孝』『悌』の1文字が刻まれている。

 ちなみにエドモンド少尉が手のひらで転がしているのは『考』の玉である。

 これは、世に悪が蔓延はびこるとき、伝説の剣士を産み落とすらしいのだ。


「伝説の剣士…」

「ヘイ…そうでやす」

「強いのか?」

「そりゃあもう…伝説ですから」

「あの軍曹よりもか?」

 エドモンド少尉が指さす先には緑の伝説の軍曹。

「………痛い所を突きますな~」

 自分の額をペシッと叩くオヤジ。

 正直、あれが伝説の軍曹とも思えぬが、ガラス玉から伝説の剣士が産まれるとも思えぬエドモンド少尉。

「オヤジ…このガラス玉から剣士が産まれるのは悪が蔓延はびこるときなんだな」

「ヘイ!」

「それまで、このガラス玉は…なんか役にたつのか?」

「そりゃあもう!家内安全!交通安全!無病息災!恋愛成就!合格祈願!学問成就!安産祈願!…はぁ…はぁ…はぁ」

 息が続かない程にまくし立てるオヤジ。

(なんで…伝説の剣士と安産祈願が結びつくのだ?)

 首を傾げるエドモンド少尉。

「今なら…ジャポンで生まれた爽快飲料『ラ・ムーネ』が3本付いてます」

 エドモンド少尉の眼前にオヤジの3本指が突き出される。

「なんだそのラムーネとは?」

「これです!」

 エドモンド少尉の前に液体の入ったガラス瓶が差し出される。

「これが…ラムーネ」

「そうです!このラムーネは、この宝玉を模した玉で封印されておりまして、これを飲むと数時間の間、怪力が得られるという……どうしやしたか?」

「この前の秘薬の時も、そんなこと言ってなかったか?」

「アレとは別モンですぜ、ダンナ」


 ……………………

「買ってしまった…」

 なんとな~く、押し通されたというか…なんというか…買ってしまった。


 ビニール袋でカチャカチャとラムーネが音を立てる。


 宿舎に戻り、部屋の冷蔵庫でラムーネを冷やす。

 とりあえず風呂上りに1本飲んでみるつもりだ。


 タオルを首にかけてグイッと…グイッと…飲めないではないか。

 そういえば…封印されてるとかナントカ…確かに見てみれば球がはめ込まれている。

(これを落とせばいいのだな…)

 オヤジに教わったとおりにコンッと球を瓶の中に沈める。

 シュワーッと音を立てて球が沈む。

(なんだか神秘的な飲み物だ)

 グイッと一口…球が飲み口を塞ぐ…瓶を立てると球が沈む、そしてまた一口飲む。

 疲れる飲み物だ。

 コーラとはまた違う味わい。


 えらい時間は掛かったが飲み干した、最後はぬるくなったいたが…。

「さて…怪力とは、どの程度のもんか…」


 鍛錬場で試してみる。

「秘剣…雀返し!」

 チンッと涼やかな鍔鳴つばなりが響き、竹が見事に斬られている。

「よし…では本番」

「斬鉄!秘剣…雀返し!」

 カィーン……刀が…折れた…。


 泣いた…ヒックヒックと泣いた。


 翌朝…。

「オヤジ!居るか!」

「どうしやした…ダンナ」

「性懲りもなく…貴様!」

「ダンナ…なんのことです…グェッ」

「これだ!」

 ラムーネの瓶をオヤジの顔にグリグリと押し付けるエドモンド少尉。

「ダンナ…ちゃんと一気飲みしやしたか?」

「一気飲みなんぞできるか!」

「それでさぁ~…短時間で一定量飲まなければ意味が無いんですよ…炭酸が抜けたら手遅れですぜ…」

(なんだと~!先に言えよ…)

「俺は…俺の日本刀はどうなるんだ!おい!」


「刀鍛冶なら知ってやす…腕のいい刀匠です、紹介しましょう」

「本当か?」

「その宝玉に無関係でもありませんし…」

「なんだと」


 続く…。

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