第4話 ひとつぶ300m

 300m長いか短いか。

 どうやら、たった一粒で300m全力でダッシュしても疲れなくなる秘薬が存在したらしいのだ。

『一粒で300m』なにやら屈強な男が両手を掲げて勝ち誇るイラストが描かれた携帯食が発見されたのだが、中身は腐敗しており、食すには無理があり、その真偽は不明であった。


 軍部上層部で、この携帯食の有用性を語った将校がおり、携帯食の復元、および量産が命令として言い渡されたのである。


「探せと言われてもな~」

 そう、こういう命令は『食糧調達部隊 特殊素材調理斑 X-1』に回ってくるのである。

 エドモンド少尉にも当然、捜索命令が届くわけだが、どこをどう探せばいいのやら皆目見当がつかない。

 いや、ラーメンを食いながら頭の片隅をチラチラ過る男がいるのだが…。

 旧世界…ジャポン…遺物…、いやいや頭を横に激しく振るエドモンド少尉。

 頭から追い出そうとしても、あのオヤジの顔が少しずつ頭の中心に寄ってくる、少しずつ、より鮮明になっていく、この不愉快感は例えようもない。


 だが、あの店の前に立っている自分がいる。

(夢であってほしい)

 エドモンド少尉の願望は脆くも打ち砕かれる

「おや、ダンナ~、どうしました?店の前に突っ立って、どうぞお入りください」

 ドアから顔を出したオヤジと目が合ったのだ…。


「今日は何をお探しで?」

 ここまで来たら、悩む必要はない。

「オヤジ、1粒で300m全力で走れる秘薬を探している」

 オヤジの丸メガネがキラーンと光る。


「ありますぜ…旦那!」

「ホントか親父!」

「ヘイ!毎度あり!」

「……いや待て、まだ買うとは…言ってない」

「旦那~、後悔しますよ~、コレ、あたしも使ってます、昨夜なんかもねぇ」

 ベラベラしゃべる親父の話は右から左に受け流し、エドモンド少尉は考えていた。

(このまま探し続けてもな~なにしろアテが無いしな)

「どうしやす~?ダ・ン・ナ」

 真剣に悩んでいた……この街に派遣されてから散財著しい昨今の財布事情…。

(経費で落ちるのか…あるいは探索費に含まれているのか…)

「生まれ変わりますぜ~、一粒で…保障しますぜ~」

 と意味ありげに指を3本立ててくる親父……その笑みが妙な説得力を秘めている。

「親父!領収書を頼む!」

「ヘイ!毎度あり!」


 紙袋に入れて渡された手のひらサイズのプラスチック容器。

(どうしよう…報告する前に、1度自分で試してみようか)

 過去の経緯いきさつもあり、いまひとつ信用してないのだ。

(昨晩、親父も使った…と言ってたが…どういうことだ?)

 エドモンド少尉、どうしても親父と300mが結びつかない。

 考え事をして歩いていると、ひったくりに紙袋を奪われた。

「あっ!」

 エドモンド少尉、普段ならこんな失態はしない。

 というより、軍服着て日本刀を腰に携えた男である、絡むやからなんかいないのである。

 一瞬呆気にとられたが、そこは軍人である。

「貴様!」

 と追いかけだす。

 反応も、足も早い!エドモンド少尉だが相手もプロのヒッタクリストである、足には自信がある。

 それでも、距離は縮まっていく…

「おい!貴様!その秘薬を返せ!それは軍の機密物だ!」

 ひったくりは思った

(軍の機密…秘薬?)

「えぇーいままよ!」

 ひったくりは錠剤を1粒取り出してゴクッと飲み込んだ。

 その後…数分でひったくりは足を止めた。


 とりあえず警察に突き出して宿舎へ帰る。


 翌朝

 あの秘薬を提出したエドモンド少尉。

 とりあえず任務は達成された。

 その他にも、何種かコレでは?という秘薬は提出された。


 実験といっても結局人体投与しか方法は無く、その役目は遠征中の最前線で戦う小隊に届けられたのである。


 その結果…

 下痢・嘔吐、幸運な小隊では特に変化なしであった。

 さてエドモンド少尉が持ち帰った秘薬の結果は…投与された兵の下腹部に集中的に強壮の効果が認められたそうだ。


 旧文明ジャポンのカタカナで書かれていた。

『バイアグラ』の文字。


 責めてはいけない…エドモンド少尉だけが悪いわけではない…ジャポンの文字は解読が難しい、ましてや商品名から中身を推測することは不可能なのである。


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