3回目は全問正解をめざせ! ――「超ズボラ勉強法」の極意・その3の6



「よっしゃ! 終わった!」


 2回目が終わり、俺は思わず声を上げた。うんうん、1問わかんないのがあったけど、それ以外は自力で解けたぜ。


「すごいよ秀ちゃん、12分18秒!」


 タイマーを止めた夏子が叫ぶ。


「わからなかった問題もあったけど、それをのぞいても間違いも1問だけだし、よくできてるよ!」

「そうだろそうだろ、俺だってやればこのくらい……え?」


 若干浮かれてた俺だったが、夏子の言葉に思わず振り向く。


「間違ってる問題あったのか!?」

「うん、1問だけね」

「マジかー!」


 わかんないヤツ以外は全部できたと思ったのに! な、なぜだー!


「ほらここ、(x+3)(x-3)を(x-3)の2乗って書いてるでしょ?」

「ひ、引っかかったー!」

「よくある間違いだからねー。次は気をつけてね」


 頭を抱える俺に、夏子が苦笑する。


「そんなにショックだった? でも、覚えてるつもりでも意外と間違うものでしょ?」

「ああ、確かに……」

「問題を解いた直後でもこれなんだから、時間をおいたらもうボロボロになっちゃうんだよ」

「面目ない……」

「別に秀ちゃんだけじゃないからそんなに落ちこまないで。私もそうだし」

「ウソつけ、お前は一度覚えたら一生忘れないだろ。頭いいんだし」

「だから違うってば。私が覚えていられるのは、こうやってすぐに繰り返しをやってるからだよ」

「ふーん。ま、でも確かにすぐに繰り返さないと、俺みたいに頭が悪いヤツはすぐに忘れそうだな」


 俺がうなずくと、夏子が笑う。


「秀ちゃんは頭悪くなんかないよ。それに、これから私がビシバシ鍛えるもん」

「そりゃ心強いな。ところで、3回目ってのもやっぱすぐにやるのか?」

「その通り。最後は全問正解するつもりで気合を入れて解いてね?」

「おお、1回目の時とはうってかわってハードな注文だな。まあ、でもなんかやれそうな気はするな」

「その調子だよ、秀ちゃん。これが終わったら一休みしようね」

「おう! じゃあ速攻で片づけてやるよ!」


 夏子にビシッと親指を立ててみせると、俺は問題集へと視線を移した。







 いよいよ繰り返しも3回目です。最後は試験本番のつもりで、全問正解を狙って解いていきましょう。取り組み方については、2回目の時と同様に進めてください。

 1回目で問題や解法に目を通し、2回目に自力で解いた状態だと、3回目は相当楽に解くことができるはずです。「さっき2回も解いたんだから、簡単に解けるのは当たり前なのでは?」と思った皆さん、はい、まったくもってその通りです。そして、ほとんどの人はその当たり前のことをやっていないのです。

 何度でも繰り返して言いますが、この3回の繰り返しは無意味な行動ではありません。むしろ、成績が振るわない人にとっては必要不可欠な作業です。


 なぜ3回の繰り返しが必要なのか。理由は大きく2つ、記憶を固定化させるため、そして「解ける感覚」を身につけるためです。


 記憶の固定化については、前回お話した通りです。まずはなるべく時間を置かずに集中的に繰り返すことで、記憶を強固なものにします。このようにして強化された記憶は、そう簡単には忘れません。逆に、1回やったきりで放置すれば、大抵1日どころか1時間とかからずに忘れ去ってしまいます。


 ここではもう1つの理由について説明していきましょう。「解ける感覚」を身につけるとはいったいどういうことか。

 先ほど「やったばかりなのだから簡単に解けるのは当たり前」という話がありました。その通り、それ自体は当たり前のことです。むしろ、当たり前でなければ困ります。

 ですが、おそらく多くの人にとって「問題が簡単に解ける」という感覚は当たり前の感覚ではないはずです。ここでいう「問題が簡単に解ける」というのは、その問題を見た瞬間に解法が頭に浮かび、即座に手が動く状態です。つまり、皆さんはただ単にどうにかこうにか問題を解ける状態を目指すのではなく、「問題が簡単に解ける」状態を作る必要があるのです。


 この「問題が簡単に解ける」状態こそが、いわゆる「勉強ができる人」にとっての当たり前の状態なのです。

 もう少し正確に言うと、別に彼らはなんでもかんでも見た瞬間に解けるわけではないですが、基本とされる解法については本当に見た瞬間にすぐわかります。多少複雑な問題であっても、「ああ、この問題はこことここの交点を求めて、三角形の面積から方程式を立てればいいのか」とか、「まずは余弦定理で辺の条件を求めてからだな」といった具合に、基本的な解法で処理できる部分を即座に見つけてしまうのですね。

 もちろん上のような状態まで至るには相当な訓練が必要なのですが、そのベースとなるのは3回の繰り返しによって感じた「問題が簡単に解ける」状態なのです。まずはこの感覚を知らなければ、スタートラインにすら立てないわけですね。


 ですので、皆さんはしっかりと3回の繰り返しを行い、この「問題が簡単に解ける」感覚を普段から当たり前の状態にすることを目指してください。簡単なことです。皆さんはこの「超ズボラ勉強法」にしたがって勉強するだけで、自動的に「問題が簡単に解ける」状態になっていくのですから。


 さて、3回の繰り返しがこれで終わりました。これで勉強は終わりなのか? いえいえ、いくら記憶を強化したといっても、そのまま放置してしまっては結局忘れてしまいます。次回はそのあたりの対策についてお話します。どうぞお楽しみに。




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