第9話 夫婦と夫婦 ふうふとめおと

        夫婦と夫婦

       ふうふとめおと

 「こんにちは~。」

 「いらっしゃいませ。お1人様ですか?どうぞお好きな席へ。」

 「ありがとう。あなた新しい店員さんね。じゃ久しぶりにあの席

に行きます。」

 

 ん?常連さんなのかな。あ~1番テーブルかぁ。あの席のことを

よく知っておられるようだね。


 「あっ。いらっしゃい。久しぶりだな。」

 「うん。久しぶり。オーナーに呼ばれて来ちゃった。どう元気に

やっている?」

 「ああ。俺も晶子も元気よ~。へへへ。」

 「まぁ~、アキちゃんはいいのよ。心配していないし。しっかり

しているものね。あなたはどうなのよ?結構神経質なのだから。見

た目はヤンチャに見えるけれどね。なんか、変わらないね。うふ。」

 「フン。ほっとけ!で何をしに来たんだ?オーナーとも久しぶり

に会うのだろ。」

 「うん。そうね。久しぶりに会うのが楽しみなの。アハ。今年の

“灯パーティー”の件でね。もうそろそろだけど、あなたも準備を

始めているのでしょう?進んでいる?」

 「ああ。まぁ~な。」


 ふ~ん。ニシさんの元奥さんなのかな?綺麗な人だな。アキちゃ

んはハッキリ言ってお母さん似かな?でも、両親共に美男、美女だ

からね。ん?“灯パーティー”って何?もうすぐなの?


 「マキさん、“灯パーティー”って何ですか?もうすぐって、い

つやるの?何をやるのですか?」

 「あっ。滝くんは初めてだったね。簡単に言えば“灯”をテーマ

にした夏の夕涼みパーティーだよ。従業員と常連客やその家族、関

係者が集まって夕暮れから夜中までワイワイしちゃうの。

で。それが終わるともうすぐ秋っていうわけ。だから毎年8月の最

終土曜日にやるのよ。滝くんも是非参加してね。というか参加する

のが義務であり準備を手伝うのも義務。」

 「はい。是非!」

 「で。どんな格好で参加すればいいんですか?」

 「基本は浴衣だけれど、和装ならなんでもいいみたいよ。」

 「え~っ。俺、和服なんて持ってないです。買うにしても高そう

だし、どうしよう。」

 「滝くん、俺が貸してやるよ。当日に何着か持ってくるから、そ

の中から選べばいいよ。レンタル料はおまけしておくから。アハハ

ハ。」

 「ありがとうございます。って。お金を取るのですか?」

 「アハ。毎年誰かに貸しているけれど。1回1000円でね。ア

ハ。」

 「えっ。1000円ですか?・・・」

 「コラ!高い!100円にしておきなさいよ。あなた。」

 「ハーイ。アハハハ。」

 「よし。あと1週間しか無いから準備を急ごう。元妻の愛子はも

う準備は始めているのか?」

 「何よ!元妻って。なんとなく別れただけで、今も夫婦のような

ものでしょ。フン。

 準備は去年からやっています。オーナーとは今年の初めに打ち合

わせをして着々と進んでおります。今日も最終確認のために来たの。

あなたはどうなのよ?神経質のわりにのんびりしているでしょ。ア

ハハハ。」


 『そうそう。この2人、別れたと言っているけれど、その理由を

話せば長くなるので短くまとめると、互いに忙しすぎて何日も顔を

合わさないことが多くなったらしいのです。その時にアキちゃんが

面倒くさいから、別々に住もうって言っちゃったものだから、こう

なったわけです。アキちゃんはお父さんが気になるので今はくっ付

いていますが、これもお母さんである愛子さんからのお願いだった

らしいのです。

 愛子さんの仕事はコーディネーターだそうです。どんな依頼に対

しても上手くコーディネートするそうよ。今年も何かをやってくれ

そうですね。楽しみ。

 あっ、そうそう。この2人、離婚届は出しておりません。よって、

ニシさんはバツイチじゃないのかな?うふふ。』


 「ふ~ん。そっか。で何をやんの?去年と同じキャンドルショー

か?あれはよかったけど、なんか、キャンドルショーって聞くとち

ょっといやらしいことを想像しちゃう。アハハハ。ごめん・・・。」

 「バカ・・・。」

 「あれはすごく綺麗で神秘的でした。皆さん見惚れていたし、来

る人来る人は黙り込んじゃってとても静かでした。」

 「マキちゃん、ありがとう。バカな男はあっちに置いといて、・

・・でも静かなのは最初だけだったけれどね。アハ。

 確かにあの演出は私も気に入っていたし、庭全体を使ったのがよ

かったのよね。それまで庭にはスポットライトだけで、ちょっと光

にやさしい色を付けたくらいだったでしょ。あの蝋燭にしたらまっ

たく雰囲気が変わったのよね。」

 「そうですよ。蝋燭の炎がゆれているのがまるで庭が生きている

ようで、静かに見ていたら涙が出てきちゃった。今年も同じように

やるのでしょ?」

 「まっ。お楽しみにね。」

 「こんにちは~、愛子さん。」

 「あら。由美さん。あっ。その子が小悪魔ミーちゃんね。

 可愛い~。しっかりしていそうね。

 こんにちは、愛子です。よろしくね。」

 「こんにちは、美羽です。母、由美がお世話になっています。」

 「うん。しっかりしている。7歳には見えないわ。」


 ん?母がお世話になっています。ということは愛子さんとユミさ

んは一緒に何かやっているのかなぁ。久しぶりという感じじゃない

みたい。


 「そうそう。由美さん、良い人を紹介してくれてありがとう。こ

れで今年の“灯パーティー”はグッと盛り上がるし楽しくなりそう

よ。

 「アハ。そうですか。良かった。あの職人さんは気難しいところ

があって、物への拘りが半端じゃないので、ちょっと心配をしてい

ました。流石、名コーディネーター。」

 「あっ!ところで由美さん。今年もご主人は来られるでしょ?」

「アハ。主人じゃありません。元主人です。一応来い!とは言って

おきましたが、今、どこに居るのやら、日本に居ないかも・・・。」

 「そうね。神出鬼没のアーティストだからね。セイさんは今、ど

こで音楽をやっているのだろう。今年も来て盛り上げてほしいね。

頼みたいこともあるしね。」

 「ん?頼みたいことって何ですか?あいつはみんなを盛り上げる

より1人で騒いでいるだけですから。」

 「アハ。それはないでしょ。うふ。」


 『ユミさんの元ご主人はミュージシャンだったわね。すごくギタ

ーが上手くて、歌わなくてもギターだけで十分雰囲気が良かったも

のね。アラ、失礼。歌手でもあったのね。ごめんなさい。

でもとてもいい夫婦のように感じたのだけど、何で別れたのでしょ

う。ユミさんに言わせるとセイさんが原因のようですね。夫婦とい

うのは難しいですね。』


 へぇ~。ユミさんの元ご主人はミュージシャンなんだ。その神出

鬼没って今のミーちゃんのような気がします。やっぱり悪魔っぽい

人なのかな。あまり会いたくないような・・・。


 「アラ。愛子さん、いらっしゃい。来ていたのね。あの人も待っ

ていますよ。行ってあげて。」

 「あっ。奥様。じゃなかった元奥様。美咲さん、お久しぶりです。

来ていらしたのですね。」

 「アレ。美咲さん、来ていたの。いつの間に奥へ入ったのですか

?それに、オーナーもいたのですか?」

 「アハ。ニシさん、こんにちは。いつも大変でしょうけれどよろ

しくお願いしますね。あの人、1人では何もできないし、一つやり

だすと他が見えなくなるから。ご飯も1日食べなかったようだし、

あれじゃまた、病気が再発しそうだわね。みなさんも時々彼のこと

を思い出してくださいね。アハ。」

 「はい。」


 この人がオーナーの奥様。じゃなかった元奥様かぁ~。この家に

関わる人たちはみんな美人だし美男、イケメンだよね。でも何で別

れたのだろう。ユミさんやニシさんところもいい夫婦のように感じ

るのだけどね。まっ、夫婦間のことだから俺にはわからないけれど

いろいろあるんだね。

 でも、この家に関わる夫婦ってみんな別れているんだよね。これ

もこの“白い家”の影響かな。


 『いいえ。違います!オーナー夫婦以外の2組は別れてからここ

に来たのですよ。でも、確かに別れなければここには来ていないよ

うな気がしますが。アハハ。

 それに、ここに来てからは少しずつ仲が良くなっているし、2組

とも定期的に会っていたり連絡を取り合っているようですよ。滝く

ん、何でも私のせいにしないでね。

 でも確かにみんな美女で美男なのよね。私も美女ですのでお忘れ

なく。うふ。これは、私の影響でいい男といい女が集まったのです。

アハ。

 それとオーナー夫婦はね、本当は別れなくてもよかったのよ。互

いに大切に思っていたしいい夫婦だったのです。あのコトがなけれ

ばね。でも、この“白い家”ができたのもそれがあったからなのか

もわかりません。人生って、夫婦ってなかなか見えませんね。

 まっ、これ以上はオーナーのお話はやめておきましょう。またの

機会があればお聞きください。

 そうそう。夫婦と書いて“めおと”って呼ぶ人がいるでしょ。あ

れって、“ふうふ”はまだ日が浅く、まだまだわかり合えるのに時

間が必要に思うけれど、“めおと”となると、もう全てがわかり合

えていて互いに空気なような存在であり、居ても邪魔にならないし、

居なくては困る。でも、そんなに気を遣うこともない。同じ風景を

見ながら共に生きているという感じですよね。

 上手く言えませんが、“めおと”になるのが“ふうふ”の目標の

ような気がします。私は夫婦じゃありませんが大家族を持っていま

す。うふふ。それじゃ“灯パーティー”をお楽しみに。』


 「よ~し。みんな準備を始めよう。1週間後には楽しいパーティ

ーだ。アハハハ。」

 「は~い。」


 どうも一番ニシさんが楽しみにしているような気がする。だけど

どんなパーティーでどんな人たちが来るんだろう。ちょっと不安で

すが楽しみ、俺もね。アハ。

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