第7話 親と子

         親と子


 「あ~ぁ。この前は何か疲れたね。結局、何も無く解散したけれ

ど、おかげで次の日のお昼まで寝てしまって、半日損しちゃった。

マキちゃんは変わらず朝早くから掃除をしていたようだけど、いい

子だね~。その反面うちの娘は私と一緒になってしっかりお昼まで

寝ていんだから。もう小学校1年生なんだからサッと起きてマキち

ゃんのお手伝いくらいしろよな。」

 「何言ってんの。お母上も一緒になってイビキをかいて寝ていた

でしょ。子供は親の姿を見て育っていくのですよ。親の鏡はその子

供です。」

 「うっ。生意気なガキ。サッサと学校へ行け!」

 「行ってきま~す。滝くんおはよう。」

 「お、おはよう、ミーちゃん。アハハハ。」


 ユミさん親子はいいコンビだとは思うのだけれど、ミーちゃんを

見ているともう親離れしているように感じる。まだ小学校に入学し

たばかりなのに・・・。

この先どうなるのだろうね。


 『そうね、滝くん。ミーちゃんを見ていると昔のコマーシャルの

言葉を思い出しますね。“わんぱくでもいい、たくましく育ってほ

しい。”ってね。アハ、古かったかしら。滝くんは知らないでしょ

うね。でもこの2人にはしっかりした絆はあると思うわよ。』


 「おはよう、滝くん。ユミさん。今日も暑いけどいい天気ですよ。

カフェの窓を全部開けて空気を入れ換えましょう。エアコンはその

あとに入れればいいですね。」

 「ですね、マキさん。この家って風通りがすごくいいから室内の

風の回り方も気持ちがいいですね。」

 「そそ。滝くん、そうなのよ。この家って不思議でしょう。こん

なにうまく通風ができている家ってあまり見かけないと思うのよね。

全部の窓と窓が繋がっているようで、すごく風が通って気持ちいい

んだから。」

 「そうよね。俺たちが住んでいるレンタルルーム側も奥の部屋や

厨房、オーナーの部屋も全部に風が通るようになっているから、嫌

な臭いがあっても早く抜けちゃうしね。」

 「確かに、ユミさんの言う通りかも。これだけ風通しが良ければ

居心地もいいし、冷風や温風が行き渡りやすくて置いてある物や建

物にはいいと思います。もちろん、人間にもいいですね。」

 「アハ。流石建築士の滝くん。あっ、まだ資格は取ってなかった

ね。アハハハ。」

 「マキさん、それはまだ無理です。勉強が全然足りませんから。」


 そう言えば奥の部屋ってほとんど使われていないように見えるけ

れどどんな部屋なんだろう。近いうちに探索してみよう。何か宝探

しをしているような気分。

 ここは本当に面白くって刺激的な家なんだろう。そそ、別棟のレ

ンタルルームも快適に設計されていて居心地がいい。特に設備は充

実しているね。


 『そうなのよ。みんな気持ちよく住んでいると思うけれど、オー

ナーの拘り空間の1つなのです。この“白い家”は和洋両方の要素

が取り入れられた空間になっています。

 ただ、こんなに風通しが良い空間になったのはある偶然からなの

です。ちょっと怖いですが、また機会がありましたらお話しします。

 レンタルルームの1部屋の広さは約40㎡のワンルームになって

いて、天井が高いこともあって意外に広く感じますね。それに各部

屋はメゾネット型になっているのです。また機能的な家具が付いて

いるので、即、住むことができるのよ。ユミさん親子の部屋は2人

なので、上の部屋はミーちゃんが使っているようです。窓も大きい

し小さな天窓も付いているから、そこからの風や光が入って気持ち

が良さそうですね。

 もちろん、バス、トイレ、ミニキッチン付きで、冷蔵庫やレンジ

も付いています。料理をしない滝くんにはもったいないかも。そし

て、テーブルとチェア、ソファにテレビもあって、何も言うことは

ありませんね。うふふ。

 あっ、それから、室内の改装は比較的自由です。資金はオーナー

が援助してくれるからいいですね。私も住もうかしら・・・。

いや、もう住んでいましたね。アハ。』


 「いらっしゃいませ。どうぞ、どの席でもご自由にお座りくださ

い。」


 ん?初めてのお客様ですね。中年のご婦人とその娘さんかな?


 「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

 「あっ。メニューをもう少し見せてください。」

 「はい。どうぞ。お決まりになりましたらお呼びください。」


 あっ。マキさんの服装に何も反応しなかった。珍しいお客様だ。

アハ、マキさんなんか残念そう。


 「すみませ~ん。」

 「は~い。お決まりですか?」

 「このホワイトケーキを2つと紅茶を2つください。」

 「はい。かしこまりました。ホワイトケーキを2つに紅茶を2つ

ですね。紅茶はホットかアイスのどちらにされますか?」

 「じゃ、私はホットで。ナオはどっちがいい?」

 「私はアイスでお願いします。ミルクは付けてください。」

 「はい。かしこまりました。ホットとアイスですね。しばらくお

待ちください。」

 「あれ?マキさんはどこへ行ったのかな。俺に任せてしまってい

るじゃないか。」

 「あっ。ほっとけ。マキちゃんは着替え中だ。」

 「ニシさん、マキさんはなんでまた着替えているんですか?」

 「さっきの服を注目されなかったから、他の服にチェンジなんだ

ろ。」


 アハ。別にいいと思うけど。その都度着替えていたら疲れるでし

ょう。それに面倒くさいし。まったく、オタクというのか、変わっ

ているね。


 「はい。お待たせいたしました。ホワイトケーキと紅茶です。ホ

ットはどちら様ですか?・・・はい。どうぞ。ごゆっくりしてくだ

さい。」

 「ありがとう。」

 「あらま。また無視されているね。マキさんかわいそうだね。」

 「いいの。そういうお客様も居るんだから・・・。」

 「でも、今回のは可愛いし、ステキですよ。それって、ウエスタ

ンルックっていうんでしょ。やっぱり、白系が中心でハットも白な

んですね。えっ、拳銃をつけているの?本物じゃないですよね。エ

ヘ。拳銃も白が基調色なんだ。徹底した拘りですね、」

 「当たり前。本物の拳銃だったら逮捕されちゃうでしょ。アハハ

ハ。でもさ、さっきもそうだったけれど、今もほとんどこっちを見

てくれないのよね。なんか2人して難しい顔をしているのよ。滝く

ん、どう思う?」

 「確かに。あまりこちらを見ていないですね。大きな悩みか相談

事があるような・・・

 で。何で、また、1番席なんですか?何かある人はみんなあの席

に座るように思います。」

 「うん。そうだね。あの隅っこの席は、今年からレイアウトを変

えたからね。居心地がいいのかな?ほら、なんか笑顔がでてきてい

るよ。」


 「ね~、ナオちゃん。ここのお庭って綺麗ね。よく手入れされて

葉っぱ一枚も落ちていないし、明るいし、見ているとホッとするわ。

 「うん。お母さん。何故かわからないけど安心するし、落ち着く

よね。」

 「家に居ると余計に気持ちが落ち込んじゃうから、散歩に出て来

てみたけれど、こんなにいいお店があったとは全然気付かなかった

わ。」

 「そうね。いい所を見つけちゃったね。アハ。」

 「さっきの店員さんも楽しくって元気が出る服装だったし、この

カフェは安心で居心地が良いから長居しそうね。元気になれそう。」

 「お母さん、あまり考え込まないほうがいいよ。きっとお父さん

は見つかるし、帰って来るよ。元気に行ってきま~すって言って出

かけて行ったじゃない。みなさんに探していただいているのだから、

きっと大丈夫よ。」

 「そうね。そうよね。・・・あっ、このケーキ美味しい!真っ白

いからすごく甘そうに見えたけどコクや旨みがある。フルーツなの

か心地良い香りがする。それにオレンジの皮がアクセントになって

色味もいいね。楽しい。」

 「紅茶も濃くなく刺激が少し抑えられているので良く合うね。」

 「あっ。そうね。アイスティーもよく合っているし、何か、ホッ

とするね。」


 『どうやら、この母娘の悩みはひとまず落ち着いたようですね。

ちょっとした安心感というのか、幸せ感を味わっていただければう

れしいです。それに、ニシさんもちゃんと気付いていたようです。

よかった。』

 

 「お母さん。」

 「ん?」

 「たとえお父さんが見つからなくても、帰って来なくても、私た

ちの心の中に居るし、親子であり、夫婦だからね・・・。」

 「うん。そうだね・・・。」

 「そうよ、お母さん。」

 「でも、本当にここのカフェに来てよかったね。“白い家”って

いうのかしら。また来ようね。今度はお父さんも連れてね。」

 「そうだね。お母さん。」


 「なんか、あの2人だんだんと明るくなってきたね。何の話をし

ているのでしょうか。でも、気分がよくなったようで安心しました。

 「そうね。親子って感じでいいね。私もお母さんに会いたくなっ

ちゃった。」

 「マキちゃん、親と子は離れていてもどこかで繋がっているもの

だよ。どこかでね。それが絆というものなのかもわからないね。」

 「うん、ニシさんの言う通りだね。」

 「は~い。ただいま~。オヤジ、さっき呼んだ?」

 「アハ、お帰り。って。ここは晶子の家じゃないし、お店ではオ

ヤジって呼ぶなって言っただろ。店長だ、店長。それに、俺は呼ん

でないぞ。空耳でしょ。」


 『うふ。そうですか?ニシさん。さっき心の中でアキちゃんのこ

とを呼んでいませんでしたか?もうそろそろ帰って来るかなって。

アハハハ。』


 「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです。ねっ、お母さ

ん。」

 「うん。美味しかった。それにあのお庭も店内の雰囲気もいいか

らホッとしました。あっ、さっきの店員さんのファッションもよか

ったわ。着替える前も両方ともにね。元気づけられました。ありが

とう。きっと、また来ます。がんばってね。」

 「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています。」


 「アハ。やった~。やっぱりあの2人とも私のファッションをし

っかり見ていたんだ。何か悩みがあったのね。でも元気になられて

よかった。」


 そうか。マキさんがワザワザ着替えたのは、あの2人が何か元気

がないことに気付いたからだね。


 「よかったですね、マキさん。あんなに明るくなって帰られた。」

 「うんうん。でもね、本当の元気の素は、この“白い家”なのよ。

実は、私も初めてここに来た時は、母と喧嘩をして家を飛び出した

からすごく落ち込んでいてね、ニシさんがこの子自殺するんじゃな

いかと心配したくらいだった。

 でも、あの隅っこの席に座ってこの家や庭、そして、店員さんた

ちや小物たちとふれあうとすごく元気になっちゃった。だからここ

で働かせてもらっているの。

 朝の掃除も、そのお礼と恩返しのようなもの。うふふ。」

 「あ~、そうなんだ。」

 「そうしたら、すぐに母が私を見つけて、ここにやって来たの。

母もこの家や庭に接して、ここなら娘が居ても安心だと思ったよう

で、そっと帰って行ったの。何か嬉しかった。

 どこかで喧嘩しても親子はわかり合えるというか、ちゃんと絆が

あるのを実感しちゃった。この“白い家”って何か不思議で心地良

くなるのよね。」


 『ありがとう。マキちゃん。そして、さっきの親子さん。そう感

じていただいて大変うれしいです。この“白い家”にはいろいろな

気が集まっていますが決して悪は居ません。今はね・・・。

 むしろ、たくさんの人たちにお世話になったモノたちばかりです。

だから、ほんの少しでもお礼ができればとみんな考えております。

親と子はどこかで繋がっているように、この“白い家”も様々なモ

ノやヒトと、そして自然と繋がっています。

 まだまだいろんな人たちを元気付けないとね。うふふ。」

 

 「お~い。夕方からの準備を始めるぞ~。整え直してね~。」


 『あっ。そうそう。この家の庭にも親子がたくさん居ますよ。

 以前紹介をした大小の桜の木もそうです。いつも寄り添って仲の

いい桜親子です。たまには喧嘩をして花や葉をたくさん落としてい

ますが、それでも朝になると朝日を浴びて美しく静かに立っていま

す。それを見ると、あ~、仲直りをしたんだなと思ってしまいます。

親と子は不思議なくらい似ているものだと私は思います。そして、

しっかりとした絆があるのだと・・・。

 だって、親子だもん。うふ。』

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