WAVE:02 彼らの日常

「キルサイス・マサカー! こいつでも食らってけ!!」

 

 オレは左右のアームトリガーを素早く二回クリック。ハーヴェスターを前方に突き出したプロフェシーが、その場で高速回転を始める。と、同時にプロフェシーを中心にオレンジ色の竜巻が発生。周囲の敵機エネミーに纏めてダメージを与えていく。


「ヒナ、そっちに何機か抜けたから頼むぜ!」


<かしこまっ!>


 返事がアレなのは若干気になるが、まぁ、大丈夫だろう。


<チェェェンジ! ウルフ・モード! 行くぜっ!!>

 

 ヒナの愛機・M・Mマイケル・マイヤーズは可変型のギアだ。ダークネイビーで塗装された細身の機体が狼をモチーフにした四足獣型に姿を変える。変形を完了させたM・Mは戦場をく駆け、姿勢制御用ウィングに展開したフォトン・セイバーですり抜け様に敵機を斬り倒していく。


<こっちも、弱ったとこから片付けてくよー>

 

 透吾とうごの操るウィッカーマンが右腕装備ライトアームのメガ・ビーム・ガトリングで周囲の敵機を掃討。キルサイス・マサカーで程よく耐久値アーマーゲージを削られた敵機を次々と撃破していく。ウイッカーマンは重装甲と大火力がコンセプトのギアだから、牽制がメインの右腕装備でもかなりの威力があるんだよなぁ。

 こっちも負けてらんねーし!

 オレはプロフェシーを手近な敵機へ加速させる。

 背部のスラスターが機体色と同じ鮮やかなオレンジ色の光を放つ。

 フォトン・マシンガンで牽制射撃をしながらの接近だ。相手も負けじと撃ち返してくるけど、A F Cアンチフォトンコーティングの耐久値がまだ残ってるので問題なし。そのまま一気に間合いを詰めてダブルロックオン。オレは左右のアームトリガーをリズミカルにクリックしてハーヴェスターの連続攻撃を叩き込む。たまらずダウンした相手に起き攻めを仕掛け、そのまま残りの耐久値を全て刈り取ってやる。

 おっしゃ、撃破!


<マトリクス発射するよ。二人ともちゃんと避けてね>

 

 うお、あぶねぇ。

 言うが早いか透吾のウィッカーマンが、両肩に装備された広範囲攻撃用兵器のマトリクス・ミサイル・ランチャーを発射。

 バトルロイヤルモードとチーム戦では、友軍フレンド登録してあるライナーやチームメイトのギアから誤射でダメージを受けることはないけど、のけぞり値やダウン値はしっかりと累積されていく。そこを敵機に狙われるとヤバいので、注意するに越したことはない。


<グランド・ナパームで二度焼きしとこうかー?>


 マトリクスの直撃でダウンを奪われた敵機の一機にウィッカーマンが接近し、そのまま左腕装備レフトアームのグランド・ナパームによる火炎放射(防御力ダウンの効果付き)で、残り耐久値を容赦なく削り取っていく。


<こんがり焼けたよ。やったー>


 うーん、なかなかエグい。透吾は一見すると某ハチミツ好きの黄色いクマみたいに平和そうな雰囲気を漂わせているけど、案外ブッソウなところがある。火炎放射器で楽しそうに敵機を焼き払っていくヤツの声から”圧”を感じないこともない。


<おーい、そっちは何機落とした?>


 ヒナからの通信が入る。


「オレは三機目落としたとこだけど、そっちは?」

<イェーイ、おれは四機落としたぜー。透吾は?>

<僕は六機落としたよ>

「ゲェェッ、オレが一番少ねー!」


 おいおい、こいつは本気で負けてらんねーよ!

 オレは次の獲物を見つけるべく、モニターに全体マップを呼び出し敵機を索敵。そこに、あの名前を見つける。ライナーネーム「cyanシアン」、搭乗ギアはカメラ・オブスクラ!

 お誂え向けの相手がいやがったぜ。

 まぁ、この時間帯にバトルロイヤルモードで遊べば、大体、遭遇するんだけどな。今は、夕方の四時を過ぎたところだ。シアンもオレ達と同じ学生なのかもしれないな。

 それはさておき。

 オレは迷うことなくプロフェシーをカメラ・オブスクラに向かわせる。


<お、シアンのとこ行くのか? 援護どーすんよ?>

「いらねー。タイマンだタイマン」

<オケ。じゃあ、おれと透吾は邪魔が入らないように他の敵機を引き付けておくから、お前は好きにやればいいんじゃね?>

「サンキュー、そうさせて貰うわ」

<カッコいいとこ、ちゃんと見せてよ?>

「分かってるよ。いっちょブチかましてやっから」

<おれは後でドクペでもおごってくれれば文句はないぞ?>

<じゃあ、僕はとりあえず午後ティーでー>

「ここぞとばかりにたかるなぁ!?」

<<ゴチになりまーす>>


 二人の声が見事にハモった。

 まったく、コイツらときたら……。

 まぁ、バトルロイヤルモードは擬似タイマンに持ち込みたくても、他のライナーに割り込まれることが多いからな。周りの敵機を引き付けてくれるのはマジで助かるわ。

 モニターの中。カメラ・オブスクラが近づいてきた。

 ベース機のピーピング・トムを肉抜きした、細身と言うよりかは痩せ細ったようなボディライン。それを守るように両肩から長く伸びたマント状の装甲。そして、三本目の脚を思わせる腰部後方のロング・テール・スタビライザー。

 頭部バイザーには狙撃能力を向上させるためのカメラとセンサーを備えている。

 生半可なハッキングをすると見つかるけど、ギア名の元ネタになったカメラ的なモノ(でいいんだよな、アレ?)そっくりのデザインだ。カラーリングはライナーと同じ暗い青シアン一色。少し変わってるけど、嫌いなセンスじゃない。

 まぁ、プロフェシーの方がイケてるけど。

 おっと。

 向こうもこちらに気が付いたのか、ロング・フォトン・ライフルを撃ってくる。素で食らえば相当ヤバいが、この距離ならまだAFCで防御可能。オレはかまわずプロフェシーをカメラ・オブスクラ目がけて最短コースで突っ込ませる。

 ロング・フォトン・ライフルの光弾がプロフェシーに直撃する。今の一発でAFCの耐久値がごっそりと持っていかれた。次、アレを食らったら、AFCを突き破って本体がダメージを受ける番だ。標準サイズのギアより小型で、装甲も薄目のプロフェシーじゃ数発でジ・エンドだ。


「これはおつりだ、貰ってけ!」


 フォトン・マシンガンでは射程が足りない。ここはハーヴェスターの衝撃斬波カッター・ウエイブで攻撃。水平に振り抜かれたハーヴェスターから、オレンジ色の衝撃波が発射される。

 ……あ、こりゃ駄目だ。かわされたわ。


「もいっちょだ!」


 気を取り直して、二発目の衝撃斬波を発射。今度はヒット! この距離からでは大したダメージにはならないけど、細かい積み重ねが大事なので気にしない。

 さらに、三発、四発と衝撃斬波を連続発射。三発目は掠ったけど、四発目はブーストダッシュでまたしても回避された。

 遠距離攻撃で有効打は与えられなかったけど、弾を撃ちながら距離はしっかり詰めておいた。ロング・フォトン・ライフルは射程、威力ともに馬鹿に出来ないけど、長距離武器の御多分に漏れず、近づかれると途端に取り回しが悪くなる。

 これで、相手の主力装備メインアームは封じた。

 オレは右スティックのアームトリガーを押し込み、フォトン・マシンガンの連射で牽制。そのまま一気にダブルロックオン圏内まで近づこうとするが、流石にシアンの方もオレの行動パターンを分かってるんだろう、近距離戦を拒否って、素早く後退していく。

 カメラ・オブスクラは近距離戦も案外イケるのに慎重な判断だ。

 いいぜ、そうゆうの。でも、逃がさねーからな!


「ドレッド・スパイカー、当たれっ!!」

 

 オレは左スティックのアームトリガーをクリック。

 プロフェシーが巨大な釘打ち銃ネイル・ガン型の左腕装備ドレッド・スパイカーを構える。

 左腕装備は威力よりも特殊効果に重きを置いた装備だ。ドレッド・スパイカーもダメージソースとしては全くアテにならないけど、機動性低下の特殊効果を付与してある。一発ヒットするごとに一段階相手の機動性を下げ、最大で五回まで効果を重ねることが出来る。接近戦を身上とするプロフェシーとは相性抜群の左腕装備だし、プロフェシーの機動性とあわせれば鬼に金棒ならぬ、鬼に釘撃ち銃だ。もっとも、プロフェシーのデザインは鬼とは似ても似つないけど。どちらかと言えば、鬼を退治する一寸法師の方が近いかも。

 ドレッド・スパイカーから発射された釘型の弾がカメラ・オブスクラの装甲に食い込み、機動性を低下させる。そう思った瞬間……、

 

<すまねぇ、伊吹いぶき! そっちに二機抜けた!>


 マジかよ!

 モニターを確認すると、どこかで見たことのあるようなサスペリアのカスタム機がプロフェシーに急接近しているところだった。カスタムサスペリアはそのままプロフェシーをダブルロックオンして、格闘兵装のヒート・マチェットで斬り掛かってくる。カスタムサスペリアの格闘攻撃を食らいプロフェシーがダウンを奪われた。

 

「うわらば!?」


 思わず変な声が出た。

 こ、こいつ、折角のチャンスを見事に潰しやがって!!

 思わぬ闖入者に助けられたカメラ・オブスクラが、どうしたものかと、様子を伺っている。


<伊吹、気を付けて。上から来るよー>


 透吾からの通信とほぼ同時だった。

 空戦型ギアのドリームキャッチャーをカスタムしたと思しき敵機が、ダウンを奪われたプロフェシーに対地爆雷の雨を降らせてきたのは。

 ゲェェェッ、この状況でそんなもんかわせるかー!!


「うわっ、何それ! ヤバいから! 本気でヤメて! 死ぬ―!!!」


 オレは堪らず叫び声を上げる。


<スマン、やらかしたンゴ。許すやで>

<成仏してねー? 骨は拾うから>


 ちょ、おま!


「テメェら、勝手に葬式ムード漂わせんな! あとそこのサスペリア、どさくさ紛れに何してやがる!?」


 ドリームキャッチャーからの非道極まりないダウン追撃で耐久値がほとんどないプロフェシーの起き上がりに、カスタムサスペリアがメガ・フォトンキャノンを重ねてきやがった。


「お前、やっぱりこの前のカスタムサスペリアだろ!? リベンジか? 仲間と一緒にリベンジなのか!? そうゆう卑怯なのは良くないと思うぞっ!?」


 だが現実はどこまで厳しい。オレの非難の声も空しく、カスタムサスペリアから発射された極太ビームが、プロフェシーに突き刺さった。僅かに残っていた耐久値が一瞬で溶ける。

 哀れ、プロフェシーは復讐に燃えるカスタムサスペリアと仲間のドリームキャッチャーによる邪悪な連携プレイの前に敗れ去ったのであった。

 モニターには派手に爆発四散、炎上するプロフェシーのグラフィックスと「YOU LOSE」の文字がデカデカと……って、これ前にもやったパティーンじゃねーかぁぁぁっっっ!!





「うぇーい、お疲れちゃんでーす」

「お疲れちゃーん」

「……お疲れー」


 バトロ終了後の休憩スペース。

 ヒナと透吾がドクペと午後ティー(レモン)で乾杯をしている。

 おう、お前らは最後まで生き残ったし、ポイントも稼げたから祝杯ムードだろうよ。負けたうえにジュースをおごらされたオレは心と財布が寂しいぜ。

 はぁー、アレはショックがデカいよ。オレにはやらなきゃいけないことがるのに、こんな負け方するなんて……。

 結局、シアンのヤツは最後までバトロで生き残ったし。

 そういや、アイツ、オレがカスタムサスペリアたちにやられてる間、何も手を出してこなかったな……。

 この前は、残り少ないプロフェシーの耐久値を見事な狙撃で持っていったのに。

 

「伊吹、辛気臭い顔するなって。アイドルは笑顔が大事だぞ。それと力」

「誰がアイドルだよ。あと力の意味が分からねーよ」

「ほら、麻雀でも交通事故みたいな放銃あるよね? 気にしないでいこ?」

「誰も麻雀の話してねーし」

『オラクル・ギアって楽しいよね、一緒に楽しもうよ!』

「意味もなくハモんな! そりゃ、勝てたお前らは楽しいだろうな!?」

「まぁまぁ、お前もそのコン太パッションフルーツで乾杯しようぜ?」

「コン太はゴールデンアップル派なんだよ! 売り切れてたからって、勝手に自販機のボタン押すな!」

「パッションフルーツも美味しいよ? ゴールデンアップルよりもイケるから。僕は飲んだことないけどねー」

「じゃあ、テキトウなこと言うなよ!? そもそも勝手に押したの透吾だろ!」

「そういや、さっきのバトロ、シアンも最後まで生き残ってたな?」

「うるせー! アホヒナ! 死ね!」

「うわーん、透吾ー、伊吹がおれのことアホって言ったー!」

「うーん、強引に話題を変えたうえに、不用意に地雷を踏み抜いたヒナが悪いと思うよ」

「ヒデェ、二人揃って! おれのガラス細工のハートがブロークンだ!」

「何もヒドくねー! 死ね! アホは死ねっ!!」 

「うるせー、アホっていうヤツの方がアホなんだぞー!!」

「あはは、低レベルな争いだねー」

「……ちょっと三人とも、他のお客さんに迷惑だから、もう少し静かにできない?」


 休憩スペースで騒いでいたオレたちに声をかけてきたのは、主戦場ホームにしているゲーセン「アクト・オブ・ゲーミング」の店長、美佳ねぇ、こと、皆上美佳みなかみみかさんだった。

 明るめのブラウンに髪の毛を染めた、ちょっとクールな雰囲気のおねーさんで、先代の店長の娘さんらしい。(フロニキ情報)


「す、すんまんせん、オレたち声、デカ過ぎでしたか?」

「大き過ぎるってことはないけど、気にする人もいるから、ほどほどにね?」

『すみませんでしたー』

 

 三人で声を揃えて謝る。


「ははは、大丈夫だよ」

「漫才面白かったぞー」

「つーか、お前らが静かだと、調子が狂う」


 休憩スペースにいた顔見知りの常連さん達が声を掛けてくれる。

 まぁ、オラクル・ギアは動物園みたいなノリのゲームだからな。皆、騒々しいのには慣れてるんだろう。

 だからと言って、休憩スペースで大声出してバカ騒ぎしてもいいことにはならない。気を付けないとな……。反省。


「そういえば、美佳ちゃん、ここはオラクル・ギアの新作稼働に合わせて、何かイベントとかするの?」

  

 常連さんの一人、アロハシャツ姿がトレードマークになっている眼鏡の男性が、美佳ねぇに質問する。


「そうねぇ、ないこともないんだけど……」

「何か問題でも?」

「問題と言うか……」


 そう答える美佳ねぇの表情は何故か微妙な感じだ。


「おっ、ミカ。浮かない顔してどうしたんだ?」


 そう言いながら休憩スペースにやってきたのは、フロニキこと風狼田ふろだアキラさんだった。相変わらずクソでけぇアフロのヅラとグラサンが壮絶に怪しい。


「例のイベントの件よ。アンタさぁ、アレ本当にやるの?」

「もち、その気だけど? 今日だってその話するためにきたワケだし」

「……アンタ、普段はそんなキテレツな格好してるけど、一応プロでしょ? 自分で言うのもなんだけど、こんな個人経営の零細ゲーセンよりも、もっとメーカー直営の大型店とかでイベントやった方がいいんじゃない?」

「一応はヒドイなー。これでも世界大会で準優勝した男なのに」

「プロになるとき『俺は世界一になるぜっ!』って豪語したでしょ? 認めて欲しかったら自分の発言に対してしっかり責任を取りなさい」

「かー、ミカは手厳しいなぁ。そうゆうとこ、おやっさんソックリだぜ。それはともかく、俺の方はここでイベントすることに何の問題もないから。スポンサーもしっかりホームに恩返してこいってさ」

「……あの人はそんなこと別に望んじゃいないと思うけどねー」

「まぁまぁ、そう言うなって。俺がやりたくてやらせて貰うんだし」

「まぁ、そうゆうことなら、派手に盛り上げて貰おうかしら……」


 美佳ねぇが、諦めたような、けれども、どこか嬉しそうな表情で言う。

 フロニキは美佳ねぇのその表情を確かめると、皆の方に向き直って言った。

 

「よっしゃあ! 皆、聞いてくれ! 来月のオラクル・ギア新作稼動の話はもう知ってるよな? それを記念して、このゲーセンでちょっとしたイベントを開こうと思う。細かいところはこれから店長と考えるけど、ざっくりと言えば、大バトルロイヤル大会だ! 俺も、もちろん参加する! 皆でワイワイはしゃごーぜっ!!」



【To Be Continued……】

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