秀逸なオムニバス短編集、まさかの2時間半で一作の驚愕の才能を御覧じろ

作者のエッセイのファンで、そこからたまたま見つけた短編を読みに来たらオムニバスになっていた、そして最初から読んでみたら……驚いた。なるほど、あのエッセイはこんな文才を元に書かれていたのか、と納得。なのに、こんなに凄い作品が並んでいるのになぜ☆がこれだけしかないの? どうなってるの? みんな、早くここを見つけて!

「にごたん」というカクヨム仲間の企画だそうだが、こんなすごい才能の持ち主がカクヨムにごろごろ居るなんて、とんでもなく恐ろしいことだ。

普段はあまりオムニバスは読まない、というのは、なんとなく中途半端な気がするからだ。しかし、これは違った。それぞれの話は短編一作として完結していながら、ちょっとずつ触れ合っている――背伸びした若者の心の痛みや、甘酸っぱい失恋の余韻、スクールカーストや世間の上下関係に疲れた傷み、ほのかな恋心。
そして、絶対的な善人も悪人も存在せず、誰もがちょっとズルくて哀しい。そんな人物像への深い愛情が全体を包み込んでいる。

唯一気になったのは、最新話の16歳男子高校生の語彙が、年齢の割には豊富過ぎると感じた点だった。恐らくは作者の豊かな言葉の泉を隠しきれなかったせいと勝手に推測するが、私の中の16歳男子はもっとぶっきら棒で語彙が貧弱なので、お許し頂きたい。

これから毎土曜日の晩の楽しみがひとつ増えた。

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