幽けき月の光のもとで

楠秋生

プロローグ

 俺は一人で幽月邸を目指していた。月明かりもない真っ暗闇の中を懐中電灯の明かりだけをたよりに進んでいく。下草に覆われて道がわかりにくい。


「全くなんで俺がこんな目に・・・!」


 つい愚痴をこぼしてしまう。


 それというのも肝試しで出かけたサークルの仲間三人が、三時間も経つのに帰ってこないからだ。それを心配した女子どもが俺に探して来いと言ったのだ。


 俺は心配じゃないのか。

 あいつらは三人だっていうのに。


「えー、だってかおるは殺しても死にそうにないもん」


 なんてひどい言い草だ。


「でも、馨はそういうの信じてないんでしょ? だったら怖くないよね?」


 確かに別に怖くはないけどさ。



 事の発端は会談話だった。

 誰かが百物語をしようと言い出し、順番に話をしていった。女子連中はきゃーきゃー言う割に怖い話が好きらしい。

 そして何番目の話だったか、誰かが幽月邸の話をしたのだ。


 「知ってる知ってる。幽月邸の話でしょ。聞いたことあるよ。満月の夜に音楽が鳴り響くんだよね。その音を聞いたら祟られるっていうの」

「えー!違うでしょ、あたしが聞いたのは、亡くなった奥さんが恋しくてピアノを弾いている旦那さんが、訪れた女の人を連れて行ってしまうって話だよ」

「そんな話だったか~? 黒髪の女の人が窓辺でヴァイオリンを弾いてるんじゃなかったか?」


 散々幽月邸の話で盛り上がって、百物語より肝試しの方が面白そうだ。今からみんなで行ってみようということになったのだ。

 だけどいざとなったら女子どもは尻込みして、結局野郎三人で出かけていった。


「住んでるのは絶世の美女って話もあるぞ」

「そんな美人なら祟られてぇ」


 とかなんとか言いながら。全く世話のやける奴らだ。





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