龍神騎士伝説

佐藤 公則

第1話 女神転生

 二十年前、一瞬だが、太陽と月が完全にこの宇宙から、その存在を消滅したことがある。

 消滅と言っても、この星の生物の記憶には残ってはいない。全世界の機械と言う機械に、バグが同時間に起こったくらいの認識しかない。

 そのバグが起こった時間に、何が起きたのか?

 日本の片田舎の産院で、双子の女の子が生まれた。

 この双子の赤ちゃんは、太陽神アマテラスと月神ツキヨミがこの世に転生した姿である。

 女神の転生といっても、ごく普通に庶民的な女性の一生を女神自身が過ごすためだったので、その赤ちゃんたちは、神たちが持ってる超能力は持っていなかった。ごく普通の赤ちゃんだった。神の転生と言うのは、そんなものだ。

 ただ、この赤ちゃんたちに日本神話の絵本を読んであげると、瞳をキラキラと輝かせた。

 双子の両親は、九州高千穂の出身の夫婦だった。日本神話とは、無縁ではなかった。あの聖地である戸隠しを管理していた神官の末裔だった。そのため、ふたりの姓は『高天原』だった。

 ふたりは地元の高校を卒業すると、首都の別々の大学へ進学し、卒業後も、別々の普通の商社に入社した。

 そして、県人会のパーティに出席をし、再会。なんとなく、恋愛関係となり、なんとなく、結婚したのであった。

 両親は、双子の姉の赤ちゃんにあかりと命名し、双子の妹の赤ちゃんにほのかと命名した。

 このふたりの幼子は、普通に人として普通の人生を歩み出したのであるが、七歳の七五三の宮参りの時、陽と月は神殿の前で神官のお祓いを受けた直後、神殿内の祭壇のご神体である銅鏡が、この上ない輝きを放った。一瞬だったが、黄金に輝いた龍(神の転生した姿である陽と月には見えたが、神官やそこに同席した者には見えなかった。) が現れ、長方形の宝石箱くらいの桐の木箱を陽に与え、輝きと共に消えた。

 黄金龍から木箱を受け取った陽と月は、深刻な顔をして、その木箱の蓋を開けた。

 その中には、八色に輝く勾玉が八つ入っていた。

 その八つの勾玉は、八人の龍神騎士の神力が封印をされている。

 陽と月は、自分たちを護るためと、暗黒魔龍神八岐大蛇あんこくまりゅうしんやまたのおろちを再び封印をするために八人の龍神騎士が、この世界に転生をしたことを勾玉の輝きで知った。

 ここの神官(57)は地域の名士だった。が、陰では妖しい物品を高値で取引をする闇のブローカーでもあった。氏子に対して、神社の保全と修理のためと称して、多額の寄付金を要求をしたり、河原で採取した只の石をラッキー・ストーンとして加工をし、高値で提供していた。その他にも、山奥の廃寺に忍び込んでは、名も無い仏師が彫った仏像をさも有名な仏師の作品として、埃にまみえた仏具などをネット・オークションに出品し、荒稼ぎをしていた。神官には、神を神とも思わない邪心があったのだ。

 神官は勾玉の輝きに眼がくらみ、陽の持つ木箱を言葉巧みに取り上げようとするが、木箱に右手の指が触れた瞬間、神官は人体発火を起こし、青い炎に右腕を包まれ、右肩の付け根から失ってしまった。

 右腕を失ってからの神官は、人が変わった。真に欲望を捨て、神に仕える者になった。悩める者の相談に乗ったり、日本神話の神々の言霊を氏子たちに講義したり、政を熱心に行うようになった。

 陽と月は中学校を卒業すると、神社の巫女として、神官の仕事を手伝うようになっていた。土、日の休日は必ず、巫女衣装で境内を掃除したり、社務所で雅楽の舞を練習をしてる。

 あの八つの勾玉は新たなるご神体として、神殿の祭壇に祭られている。

 そして、八つの勾玉の入っている木箱は、陽と月にしか、開くことが出来なかった。

 年月は流れ、陽と月は成人の仲間入りをした。

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