第3話―山賊としての一日―

「けっ、一昨日の大地震で地崩れが起きてやがる。てめぇら、足元には気をつけとけ!」


 ボルド山。

 木々が緑に染め、幸も多く、魔物が闊歩する、この辺りでは一番規模の大きい山だ。


 そんな山の中腹で、大柄な男は自分へ着いてくる男たちに野太い大声で呼びかけた。


 整備など当然されてない道とは言えぬ道。

 木の根や石が地面から顔を出し、その地面でさえ凹凸が激しいというのに、今はそれ以上の険しさを持っていた。


 倒木に規模は小さいが地崩れ、これも一昨日あった大地震のせいだ。


 山賊に入り、あれから三年が経った。


 今俺は、一番下っ端として、この食料探しの荷物持ちとして同行させてもらっている。


 最初は今までのようにサンドバッグの代わりにしかさせてもらえなかったのだが、何度でも立ち上がり訴えた結果、この地位が得られたのだ。


 三年も掛けて下っ端の荷物持ちの地位とは、なんて思われるかもしれないがこれは大きな進歩だ。


 まず、暴力が減った。

 これは別に山賊達に情が芽生えたわけでもない。こうして俺が面倒な役割を進んで買って出るので、動かせなくさせるより仕事をさせた方が効率が良いからだ。

 その信用を得るのにもえらくかかったが。


 しかし、元々この賊の頭である男の子であり、あの弱虫ライクということが信用を得られ安くなることになった。いくら変わったとは言え、暴力による恐怖は身体に刷り込まれている。あのライクが裏切るはずもないと。


 次に食事だ。

 三年前よりも、俺に与えられる食事の量が増えた。といっても微量だが。少しは戦力……いや、労働力として認められてきたのだろう、と思う。痩せこけていた身体は筋肉もそれなりにつき、荷物持ちや薪割りなどの効率も良くなっている。


 変わらずエイリーネのいる洞穴で寝泊まりし、そこで食事をとっているが、山賊たちは警戒していない。

 それはエイリーネを繋ぐ鎖が頑丈であり、洞穴の外には見張りもいるからだ。


 そして、エイリーネの協力を得るには俺という存在が不可欠だ。

 最近俺が暴力もされず、肉もついてきたことでエイリーネの顔にも笑顔が戻り、山賊を治癒することに抵抗がなくなったのも大きい。


 なんとか俺は、ここでの存在を保てるようになってきていた。




 食糧探しとして山を探索する俺を合わせての六人は、賊の中では下っ端ばかりだ。

 ここの山賊は規模がでかい。二十数人という数がいる。


 当然必要な食糧は多くなるのだが、アジトを構えている山の幸は多い。

 しかし上の奴らは強く、商人などを襲い奪ってくるので金品は増えど食糧は安定しなかった。


 奪った金品は足がつくので、定期的にその手の商人に売ることになっており、得た金で顔バレしていない者へ買い物へ行かせることもある。


 だがやはり、商人も警戒せず何人も現れるわけでもなければ、安定はしない。


 そこで俺たちだ。

 誰かがとってこなければ、食べ物にはありつけない。食べなければ人は死んでしまう……そんな食糧を集めるこの役割に任されたこと。

 他の奴らはめんどくせぇと愚痴を零しているが、俺は少し嬉しかった。




 暫く歩くと、数十メートル先に猪がいた。

 といっても、前世の俺が知っている猪ではない。


 その体高は一メートルはあるだろうか。焦げ茶色の体毛に覆われ、額にはねじれた角が、そして立派な二本の白い牙も持っている。


 どことなく前世の世界にいたコーカサスオオカブトのような猪だ。


 この隊のリーダーである大柄な男が手でメンバーを制すと、皆が物音を建てぬよう、弓や剣を構え始め、そろりそろりと近付いていった。


 あれも、食料だ、もちろん狩る。

 そんな中俺は邪魔にならないよう後方へさがる。一応斧は持ってはいるが、薪割りしかしたことのない俺だ、力任せに振り回すことしかできない。ここからは邪魔になるだけだ。


 猪は俺たちに気付いていない。

 あの大きさでもまだ子どもなのだというのだから驚きだ。警戒心がないわけでもないが、これほど離れているしこちらのほうが実力も上手なのだ。


 リーダーの男が合図をすると、二人の男が矢筒から矢を取り出し、流れるように弓を構え……矢を放った。それを合図に、同時に剣を持った男たちが駆ける。

 放たれた矢は、一本が外れ、一本が命中する。体毛に阻まれることなく腹部辺りに刺さった矢に猪は驚き、混乱している。


 すかさず剣を持った男たちが脚を斬り、頭へ剣を突き刺し、山賊らしからぬチームワークを披露した。

 ここの山賊の武器の質は、そこそこにいい。

 問題なく猪の身体に刃は通り、成すすべもなく猪は命を落とした。


「へへ、今日は猪の肉が食えるな!」


 一人が嬉しそうに言うと、男たちも笑いあった。

 猪が絶命したことを確認して俺も駆け寄る。

 手際よく男たちが猪を解体していき、そのパーツを俺が背負っていた籠に詰め、乗っけるように積んでいき、紐で縛り固定させる。


 片脇には猪の脚を抱え、片手にはここまでで集めた山菜や茸などが入った麻袋を持つ。


 重い。

 重いが、持てないわけでもないし、筋肉痛になるほどでもない。

 13歳といえど、俺にはあの父親譲りの高身長もあり、こうしたことを続けてきたので筋力にも多少なりと自信がある。


 なんとか立ち上がるが、今日はこれで引き上げというリーダーの声も聞き、これ以上持つことはないだろうと安堵する。


 そんな、いつもの一日が終わった。

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