第10話 十三股とお尻の大きい彼女

10歳年下の彼女と別れてからしばらく経って、恒例のモテ期がやってきた。


自分はほぼ毎年、初夏から秋にかけてモテ期が来る。


しかしその頃、新しい仕事はまさに始まったばかりで軌道のようなものは見えていなかったため、長期的なパートナーを探すというよりは、とりあえず「来る者拒まず」の姿勢でやってみようと思った。



モテとは、波のようなものだ。その波は最初は常に小さい。


小さな予兆を掴んで、適切なタイミングで適切な相手と関係を持つことで、モテの波の波動は強くなっていく。


モテない人、あるいはモテても変な異性と関係を持ってしまって人生を踏み外す人は、そこが分かっていない。彼ら彼女らは異性の選び方を致命的に間違っているのだ。


溺れる者は藁をも掴むと言うが、自信がなくモテない人はチャンスがあると変な異性でも掴んでしまい、溺れていく。


特に男の場合はこれが顕著だ。


ほとんどの女の子は目の前の男の服装や身だしなみをひと目見ただけで「女性に好かれているか、大切にされているか」という判断ができる。また、「他の女の子が気に入っている異性はいい異性に違いない」という本能的な直観も持っている。


つまり、モテる男はよりモテるようになり、モテない男は誰にも全く相手にされないのだ。これは生涯未婚率や異性経験の調査統計でも明確に表れている。



モテを強くするには、主観的な選り好みを控えて異性と関係を持ち、関係を持ってはいけない相手とは持たないこと。


これは若い頃、出会い系の黎明期に「地雷強度の人格障害」を踏んで散っていった戦士達の姿から学んだことだった。




縁がある女の子は、例えタイプど真ん中でなくても、「セックスしてはいけない相手」でなければ関係を持ってみる。


そして結構な割合で、後にそうした異性が人生において極めて重要な人物であったことに気づく。



子を産む性である女性は、異性の選択に関して男よりも圧倒的にリスクが高い。


だから、恋愛相手の選び方については、女の子の判断のほうが正しいことのほうが多いのだ。



「セックスしてはいけない相手」の見極めは難しいが、相手に「負の動機」を感じたら避けるべきだろう。


相手がどんなに可愛くて受け入れ体制万全でも、自分の人生から逃げるために関係を持とうとしていたら、それに加担してはいけない。


ほとんどの男女のトラブルは、対等な関係ではなく依存的な関係で発生する。


自分の問題から逃避して相手に投影して、人生がうまくいかないことを相手のせいにするから揉めるのだ。



この時期は、モテの波をかなりうまく掴むことができ、来る女の子もいい子ばかりだった。


面白いように新規の子とつながっていったので、どこまで行けるかやってみようと思った。


今後の人生ではフリーでモテ期が訪れる時期はそれほどないだろうと思ったのだ。


数ヶ月で、最終的に13股まで行った。



人妻、彼氏持ち、セックスを学びたい若い女の子、相手もフリーだが付き合うまではいかない子、いろんな子がいた。


彼女たちにはベッドのなかで本当に気持ちがいいセックス、そしてイクことを教えてあげた。


性を踏まえて自分を位置づけたい、しかし安全牌の彼氏や夫は手放したくない女の子にとって、自分は都合がいい相手だったのだろう。


自分も、その時期はそれでいいと思えた。



モテ期は体力も調子がいい時期なので、毎日デートしてセックスしても、さして苦にならなかった。


たくさんの女の子とデートして毎日セックスをし、いろんな女の子の身の上話を聞いた。


デート代とホテル代は馬鹿にならなかったが、貯金があったので短期間なら問題なかった。


3ヶ月ほど経って、そろそろいいかな、と思った頃に本命の子が来た。



その子と初めて会った日は、自分には他に相手がいたこともあり、特にこちらから決定打を打とうとは思わなかったのだが、食事をして、さあ次どうしようか、と思った時に、相手から単刀直入に「あなたとセックスしてみたい」と言われた。



「はい、わかりました」ということで、すぐにホテルまで行き、次の日の朝までセックスした。


会うまでのコミュニケーションや会った時の会話でいい子だというのが確認できたので、次に会ったときに、この子と付き合おうと思い、それを伝えた。


相手も了承した。


そして、12人の子には「もう会えないんだ」と伝えることにした。



ただ、何かの気配を感じたのか、自分からフェードアウトしていった子もいたので、12人のうち、ちゃんと伝えられたのは半分ほどだったが、お互いカジュアルな関係だと理解していたこともあり、多股はすんなり終えることができた。



付き合った相手は2歳ほど歳下で、とてもいいスタイルをしていた。


自分は女の子のお尻を重視するが、この子の下半身は完璧だった。


おっぱいはCカップで、胸から腰のくびれ、大きなお尻へと流れる曲線のラインはとても綺麗だった。



自分が女の子のお尻を重視するのには、ちゃんと理由がある。


見た目が「女!」という感じがして好きというのもあるが、自分はかなりセックスが強いので、骨盤が華奢な子は勢いを受け止め切れず、常に手加減をすることになる。


それ自体はあまり気にならないのだが、長期的な関係となると、こうした手加減が重なって我慢にならないほうがいい。


そんなわけで、自分には思い切りセックスができるお尻の大きい女の子が合うのだった。


その子は骨盤が大きくまた体幹も強かったので、全力でセックスをしても受け止められるほとんど初めての女の子だった。



相手にとってもそんなセックスは初めてだったようだが、彼女の膣もすぐに馴染んで「秘密の部屋」に入れてくれるようになった。


お互い自営業だったので、予定が合う日は昼過ぎのサービスタイムにラブホに入って、夜まで延長してセックスしているのがお決まりのパターンだった。


ある日、お互いの調子がいい日に回数を重ねたら、9回に達した。


終電があったために2桁に行けなかったのが残念だった。



デートも楽しく、ちょっとしたご飯をするのも楽しかった。


お互いまだ仕事は軌道が見える状態ではなかったが、落ち着けば子を持つことを考えてもいいな、と思ったりもしていた。


排卵日前後を避けて、中出しをさせてくれるようにもなっていた。



しかし、付き合って半年もしないうちに、彼女の様子が変わった。


東日本大震災の余波が彼女に伝わっていたのだった。



あの震災は日本を変えた。


あの悲劇をどう捉えるかで人々は分断され、それまではなかった溝で人を「交われる人」と「交われない人」に分けた。


彼女と出会った時は既に震災からしばらく経っていたが、彼女は時間をかけてあの悲劇を自分なりに理解し、「交われない人々」の方に入っていこうとしていたのだった。


正確な知識もないのに放射能をやたらと気にするようになり、まだモノになっていない自分の仕事を放って怪しげな団体のボランティア活動にかまけるようになった。


自分は研究で海外の貧困社会を見てきた経験から、「社会を良くするには自分のベストを尽くし、公私を含めて周りの人を助けることが大切だ」と考えていたので、目先の自己満足な支援にこだわる彼女とは意見は合わなかった。


次第に彼女は自分との恋愛よりもボランティア活動を重視するようになり、ついに関係は破綻した。



ただ、彼女が選んだ道は彼女のものだ。


自分が伝える「正しい理屈の世界」は、彼女には受け入れられないものだったのだ。



震災以外のことについてはよく話が合い、身体の相性も最高だっただけに、こうした世界観の違いが関係性に影を落としたことは辛い経験だった。


多くの候補から選んだ相手だけにこの結末は痛く、男女の長期的な関係には世界観の一致も重要なのだ、と悟らされた。


別れた後も、「震災が世界を分けなかったら、今頃はこんな家族を築いているだろうな」と思うこともあったが、そのイメージは次第に霧の中の残像のように霞んでいった。

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