第2話 『白の国』

僕の名前は鏡真白かがみましろ、小説家だ。

ありがたいことに今では物書き一本で飯が食えている。

5年前に書いた中高生向けのいわゆるヤングアダルトと呼ばれる層を想定したファンタジー小説、『しろくに』がヒットし売れっ子作家の仲間入りを果たした。


それまでは一般向けの作品を書いていたがいまいちパッとせず、様々な賞に応募しては落選を繰り返していた。図書館へ行っては文学論や有名作家が読んだ本を読み漁り、ふらふらと散歩へ出かけては交差点で一日中人間観察をして街行く人々の背中に隠れた人生を、独断と偏見で紐解いていた。

そんな凝り固まって肥大化した頭を抱えていた僕は、ふと中学生のころ夢中になった本を読み返してみる気になった。その本は外国のファンタジー作家の作品で、魔法使いの物語だ。当時は本の中に広がる見たこともない世界に心躍り、憧れ、自分にもできないかと部屋でこっそり魔法の練習をしていたものだった。ここ数年物事を小難しく考え、ひねくれた小説ばかり書いていたが、あの頃の自分が感じたときめきを今の自分にどれだけ表現できるのかやってみたくなった。

こうしてがむしゃらに書いた『白の国』は中学生を中心に広がっていき、一般の読者も取り込むベストセラーとなった。

その後も僕の筆は進み、「白の国シリーズ」と呼ばれるようになる作品も出していった。来月には4作目となる『だいだいはな』が発売される予定だ。


この作品は雪と氷に覆われた国で暮らす少年・アルと幼馴染の少女・リーヤの物語で、主人公のアルは幼い弟と家を留守にしがちな魔法使いの母と三人家族だ。彼が住んでいる町にはハーティ家というその土地を牛耳っているお金持ちの家があり、彼らは「特別な力」を持っていた。執事がいるような大きなお屋敷で、その家には一人息子がいる。主人公と同じくらいの年頃で何かとちょっかいを出してくるが、幼馴染の少女にいつも言い負かされていた。

そんなある日、リーヤの家に異変が起こる。それまでお金持ちの家が所有していた「特別な力」が彼女の家に移ったのだ。町の権力図が変わり、少女も別人のように変わってしまったのである。

時を同じくして、国中で争いが頻発していた。少年は、自らの故郷と幼馴染を救うべく、旅に出るのだった。

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