Trees and seeds

@shou18

第1話「きっかけは…」

 毎晩のようにその夢を見る。

 オレは、幼少期に爺さんと暮らしていた頃の夢を見ていた。

 爺さんが笑顔で楽しくしている場面。

 でも、夢の終わりには爺さんが悲しそうに何かを話している。

 いつもそこらへんで目が覚めてしまう。


『不思議な夢だね』って、毎回オレの第2の育ての母とも言っていい【フィリア】と話していた。

 何かを知っているような気がするけど、フィリアは何も教えてくれない。


 そして、いつもの朝を迎えた。


「おい、早く起きなさい‼」

「うるさいなぁー、分かってるって!」

「口答えするんじゃないよ!」

 

 毎朝、フィリアとはこんな感じで騒がしい。

 オレが朝なかなか起きないからだけど(笑)


「今日も道場に行くんでしょ」

「もちろん行くよ!」


 オレは毎日のように道場に通っている。ちなみに学校には通っていない。

 なぜならこの国髄一の頭脳を持っているフィリアに教えて貰ってるからだ。

 口うるさいのが難点だけど、教え方は上手い。

 髪が腰ぐらいまであり髪色は緑である。一日中本を読んだり

「7時には帰ってくるんだよ! 最近、子供が襲われる事件が多いからね……」


 オレはもう子供じゃないと言おうとしたけど、神妙な表情をしていたから『うん…』と言って家を出た。

 親友の【ライトニング】が迎えに来ていた。

 ライトとはオレがこの国に来てからの仲である。ライトはこの町では珍しい髪色をしている。天然の金髪で太陽のような色をしている。この国は太陽を神聖化しているからかライトはみんなに特別視されている。

 斯く言うオレも珍しい髪色ではある。なぜかは分からないが白くてちょっと光っている。この髪色と紫色の髪はどうしてか忌み嫌われていた。だからオレは気味悪がられている。ライトと違って…

 でもそんなオレにライトは『そんなの気にしないよ、バカバカしい。それにぼくも嫌なんだよね、自分のこの髪色』と言ってくれた。嬉しかった。

 そんなことを思い出していた。


 道場までは歩いて30分弱。その間、オレはライトとくだらない会話をしながら向かう。


『今日は遅刻をせずにすんで良かったな』と思ったその時——

「そんなものか、お前らの力は!!」

 

 見知らぬ男が道場の前で暴れていて、仲間たちが倒れていた。オレはとっさに

『なんだ、てめぇーは!』と言って殴りかかっていた。

 男はそれをかわした。オレは勢い余って、道端に置いてあった木箱に突っ込んでしまった。


「おい、なにやってんだよホワイト! どんくさいな、おまえらしいけど」

「うるせぇ! 笑うなよ!!」

 オレはライトを睨みつけた。

「お前ら無視するんじゃないよ!」

 男は怒っていた。

「ごめんごめん。おまえに興味がないからぼくはね。そっちのバカは分からないけど。」

 ライトは笑いながら男に言った。オレにも指を指して。


「いい加減にしろ! このガキどもが!!」

「うるせぇ! てめぇーは誰だよ。道場に何の用だよ⁉」

「俺は15年前、この道場にいた門下生だ!」

「門下生だと⁉ てめぇーが?」

「おうよ、今は盗賊団の団長をやってる【ギルダー】だ! 道場には【あるもの】を盗みに来た」

「あるものってなんだよ? 悪いがてめぇーが盗るようなもんはこの道場にはねーよ! なぁ、ライト?」

「う~ん。それらしい物は知らないな~」

「まぁ、お前らは知らなくても仕方ないか……」

「どういうことだよ!!」

「知らないならいいんだよ!! それじゃ盗ませて貰うぜ!」

 

 ギルダーは道場の中に走って行った。オレ達は、ギルダーの後を追った。

 道場の中に入ったらギルダーは見当たらなかった。オレ達は『アイツ、どこ行った? 足めっちゃはえーな……』と言いながら辺りを探したが、どこにもいなかった。


 「どこだよ!」

 「う~ん、これだけ探してもいないとしたら……あ、あそこかもな」

 ライトはそう言いながら道場の奥にある部屋に歩いて行った。

 「おい、どこ行くんだよライト! あそこって?」

 「お前知らないのか? 先生の部屋だよ」

 「え……行った事はあるけど、普通の部屋にしか見えなかったよ」

 「ぼくもそう思うんだけど、昔聞いた事があるんだ。先生の部屋には開かずの間があるって。それと、先生の部屋には勝手に入るなって言われてただろ?」

 「ああ、そうだったな。でも何でそんな事を言ったのか」

 「だから怪しいんだよね」


 オレ達は先生の部屋の前に辿り着いた。部屋のドアは壊されていた。

 部屋に入りくまなく探したが、ギルダーの痕跡は見つけられなかった。 

『なんにもねぇーな』とオレはちょっとイライラしていた。いや、本当は暴れたいほどあの男を、ギルダーをぶん殴りたかった。でも、ライトが冷静だったから落ち着けることが出来た。

 

 「おい、ホワイト。あそこおかしくないか? 歴代の先生達の肖像画が飾ってある所。ちょっとずれてる気がする」


 ライトの言う通り肖像画はずれていた。おかしいなと思った。先生は超がつくほどの几帳面だ。ちょっとでもずれていたら嫌なはず。オレはいつも雑だと怒られていた。


 「そうだな。外してみようか」

 オレは肖像画を外した。何も起きなかったが、ライトは肖像画の裏を見て『なるほどね』と呟いていた。オレは何がなるほどなんだと思ったが言えなかった。それはライトの表情がいつもと違って真剣だったから。

 「これは複雑な術がかけてあるみたいだ」

 「術だって? それは禁忌じゃなかったっけ!」

 「まぁね、表向きは。ぼくはちょっと術について勉強してたから解いてみるよ」

 「大丈夫かよ?」

 「大丈夫だよ! ホワイトらしくないな、ビビってるのか」

 「ビビッてねーよ!」

 「じゃあ解きますか……」

 ライトはぶつぶつと呟きながら手をかざしていた。そして肖像画が光り輝き出した。それは初めて見る輝きだった。オレの心が何故かうずいた。


 「ふぅーこれでどうかな」

 肖像画の光はなくなり、部屋の奥にある椅子が動いて地下へとつづく階段が現れた。オレ達は階段を降りることにした。

 「こんな所に地下への階段があったとはな」

 「まぁ驚いたね。でも、面白そうではあるけど。この先どうなるか分からないから気を付けろよホワイト!」

 「それはお前もだろ?」

 「まぁね…」

 オレはライトの言動に違和感を感じたが、いつものことだろうと思うようにした。

 

 そして、地下に着いた。階段を降りた先に厳重な扉があったがすでに壊されていた。オレ達は部屋に入って周りを見渡した。誰もいないと思った、その時。大きな音とともに爆発が起きた。オレは爆風で吹き飛ばされそうになったけど、なんとか膝をついて耐えた。

 「なんなんだよ、今の爆発は⁉」

 オレは爆発音で耳を痛めたから耳を抑えていたが、横目でライトを見たら平然と立っていた。

 「ビックリしたな!」

 ライトはそう言ったけど、そうは見えなかった。

 「驚いてるような感じには見えないけど…」

 「え、ビックリはしたよ。もしそう見えるんなら、慣れてるからかな…」

 「それってどういう意味…」

 「そんなことより、ギルダーがあそこで倒れてるぞ!」

 オレは聞こうとしたが、話を変えられた。ライトとは長い付き合いだがよく分からないことが多い。

 でも、今はそれどころではない。ギルダーをなんとかしないと。

 オレたちはギルダーのもとへ駆け寄った。

 「おい、大丈夫かよ! なんで人の道場に盗みにきて倒れてるんだよ!」

 「ああ、そうだな。お前らに心配されるとは情けねーぜ」

 「なにがあったんだ? ホワイトなんて腰抜けてたぞ!」

 「抜けてねぇーよ!」

 「ハハハ、お前ら面白れぇーな。あの頃を思い出すぜ。まぁそれより、そこにある剣を抜こうとしたら爆発したんだよ!」

 「そうなのか。でも、なんでこんな所に剣が?」

 部屋の奥に刺さっている剣は樹に巻きつかれていた。幹が太そうな感じがした。でも、剣はごく普通のものだった。

 「どう見ても普通の剣だけど、あれを盗みにきたんだろ?」

 「そうだぜ! ああ見えて価値があるらしいぜ」

 「らしいって知らないのかよ!」

 「頼まれただけだからよー、詳しくは知らないんだよなぁ」

 「普通聞くだろうし前にこの道場にいたなら、断るだろ? どうしようもないおっさんだな! じゃぁどうしようか、ライト」

 「とりあえず先生が帰ってくるまで、どっかに縛っておこうか。あんまり先生も信用出来ないけどね」

 「おい、それはないだろ!」

 オレは声を荒げた。

 「ごめんごめん。でもね…」


 その時、部屋の入口から女の声がした。

 「やっぱりギルダー、あんたじゃあダメだったわね」

 「あ、姐さん。どうしてここにいるんです?」

 ギルダーは驚いた表情で言った。

 「そりゃあね、あんたはどうしようもないクズだからだよ!!」

 女はそう言いながら、ギルダーの背後に周った。

 オレは驚いて「なんてスピードだよ…」とつぶやくしかなかった。一歩も動くことが出来なかった。

 「あんたはもう用済みだよ!」

 女はどこに持っていたか分からないが、刀を取り出してギルダーの両腕を切った。

 「くああああぁぁぁ…くぅぅ…ううううう」

 ギルダーは叫んだ。

 「なにしてるんだ⁉ 仲間じゃないのかよ!」

 「はぁ、こんな奴仲間じゃないわよ!」

 「なんだと⁉」

 「まぁいいじゃないかホワイト。こんなオッサンどうなろうがさ」

 「そうだけどさ」

 「十分と落ち着いてるわね、髪が金髪の方」

 「まぁね。ホワイトは猪突猛進だから、ぼくが止めないとイケないからね」

 「あっそう。美しい友情だこと。あたいはそういうの虫唾が走るんだよ! でも今回は見逃してやるよ。感謝しな!」

 女はそう言いながら剣の方に歩いて行った。

 「おい、危ないぞ触ったら…」

 オレは思わず言ってしまった。敵なのに。

 女は剣に巻きついている樹を刀で切った。その後、刀全体が炎に纏われ、樹を焼き払った。

 「なにが危ないって、誰に言ってるんだい?」

 「え、いや…」

 オレは初めて見た。刀から炎が出てきたのを。

 「この剣は貰っていくわよ! あっギルダーは煮るなり焼くなり好きにしてちょうだい」

 「姐さん…」

 女は部屋の上にある窓を割って去っていった。


 「ふぅ…どうなってるんだよ、分けわからねーよ。なぁ、ライト」

 「そうだな。先生に聞いてみないとな」

 

 オレたちはギルダーの腕を治療しながら、いろいろと聞いた。どうして道場に盗みに来たのか、あの女はなんなのかと。

 ギルダーは闇ギルド【常闇の扉】という組織に属していて、あの女は幹部の【メルト】というらしい。ギルダーは詳しいことは何も聞かされていないらしく、ただ剣を盗んでこいと言われただけだった。

 

 ある程度話を聞いたところで、先生が帰ってきた。

「これはどういう状況ですか?」

 先生は少しだけ困惑した顔をしていた。

「どうしたんですか先生、そんな顔して。珍しいですね」

「そうですか? 相変わらずの観察力ですねライト君。でもひとつだけ勘違いしていますよ、先生はいつもこんな顔ですよ」

「そうですか? なら大丈夫です」

 ライトはあっけなく引き下がった。でも顔はそうじゃない感じがした。

 だからオレがなにがあったか先生に説明した。こういうのはいつもライトがするから珍しいと我ながら思う。


「そうですか……」

 

 少しの間、先生は黙り込んだ。オレたちは声を掛けられなかった。真剣な顔をしていたから。

 

 —数分後

 先生は神妙な顔をして、口を開いた。

「これからも話すことは君たちの人生に大きく影響すると思います。それでも聞きますか? 運命を受け入れる覚悟はありますか?」

 先生は鋭い目つきをして言った。ライトもさっき言ってたけど、そんな表情はあんまり見たことがなかった。だから本気なんだと思った。その意味深な言葉には驚きと怖さを感じた。

 

 でも、オレたちは覚悟を持って『はい!』と答えた。


 「それなら話をしましょうか。こうなった訳を、きっかけを」

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