第2章:ストーリー紹介の章

スーツ姿の男と全身鎧の女が、快晴の空の下、草原の真ん中に座り込んで話をしている。

「えっと……ゆきさん、魔王を倒すための旅をすることになった……と」

「はい。神の加護を受け、先程より旅立つこととなりました!」

鎧を着た黒髪の女性『ゆき』は、はっきりとした声色で自分の身の上を説明する。

いつまでも訝しげな表情で話を聞く男、遊学は、とりあえずツッコミは入れずに耳を傾け続けた。

「一人旅が不安だったので神に願ったところ、あなたが目の前に降り立ってくださった。その身に着けている衣服も我々とは幾分と違う様子から、神の遣わしてくれた賢者様だと判断したのですが……」

いや、願ったところで人は現れないんじゃないか。神ってなんだ。賢者って……?

遊学は耳に入る情報から色々と思考を巡らせるものの、どれも落着はしなかった。

一つわかるのは目の前に広がる光景、先程まで遊んでいたレトロゲーム『エクストラストーリー』の世界が、夢では収まらない現実感で自身を包んでいるということぐらいだった。

「どうすれば帰れるのかな……」

飲み込めきれない現実に空を仰ぎ、呟く。

「えっ……一緒に来てくれないのですか……?」

独りごちた言葉を聞いて、不安と悲しみの表情でそれを見つめるゆき。思わずして遊学はたじろいだ。

「魔王討伐って言われても、俺は全然戦えないし……なんの役にも立たないだろうからさ……」

言い訳らしい言い訳を咄嗟に吐いて、状況を都合の良い方へ向けられないか、思考を巡らせる。

「戦いは私が一人で、賢者様は指示を下されば良いのです!」

ゆきは逃げようとする遊学を繋ぎとめようと、真剣に、懸命に言葉を返した。

物理的に、スーツの端を掴んでもいた。

それほどまでに不安だったのか、次には泣きだしかねない必死さが見える表情に、第一印象にあった凛とした女性像は消えてしまっていた。

「指示って言っても、戦い方とか全然わかんないけど、いいの……?」

先程よりかは肯定的な台詞に、顔を明るくさせるゆき。

「大丈夫です! 後ろにいてくださるだけでも、私には励みになるのです!」

そこまで言われては断りづらいと、苦笑いもそこそこに、遊学はゆきと行動することを決めた。


共に旅をすることとなった二人。

そのまま、目的地について話を続ける。

「次はどこに向かうんです?」

「どこ、ですか……どこに行けばいいんでしょうね……?」

話は終わってしまった。


「いやいやいや、それじゃ困りますよ。近くに村とかないんですか?」

軽い沈黙にツッコミを入れつつ、辺りを見渡す遊学。

「すみません、私この辺詳しくなくて……魔王軍に支配された街を救いながら歩いてれば、最後には魔王城に着くんじゃないかなぁって思ってたんですが」

「家の近くにあるコンビニ寄りつつスーパーで買い物して帰るみたいな気軽さで話をしないでください。魔王も嘆きますよ……」

いたって真面目な顔つきで語る女性を、冷ややかな目で見返すスーツマン。

どうしたものかと考えていると、手に持っていた攻略本にふと気付く。

「すみません……とりあえず、どうしましょう?」

ゆきはしおらしくなった声色で、今後について話を進めようとする。

「ちょっと待ってくださいね……ここが草原の真ん中だとすると、向こうに見える木が川沿いで、反対に岩山が見える……ということは、あっちか」

会話は一旦そこで打ち切り。

小さな本を読みながら周囲を見渡す賢者を、勇者はジッと眺めていた。

程なくして、会話が再開される。

「あっちに魔物に襲われた村があります。こっちの方に行けば、そこから逃げた人達が避難している集落があるはずなので、そこに行きましょう」

状況を一転させる、遊学の自信満々な指示。

はっきりとしたその言葉は、ゆきの心にあった先行きの不安を払拭するのに充分な力強さを秘めていた。

「さすが賢者様です……その本にはこれからの我々が行く先が書かれているのですか……?」

手に持つ見慣れない文字が書かれた本を見つめて、勇者は羨望の眼差しで賢者に問う。

「この世界の全てが書かれてる、かな?」

賢者は一冊の本を片手に掲げながら、またも自信ありげに答えた。

本には、この先のストーリーも紹介されているのだから。



---第2章 Fin---

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