San Francisco

 club slim’sでレオを見たとき。レオは素肌の上に黒いレザーのオーバーオールしか着ていなかった。気付くとクアーズを飲みながら私を見て笑いかけていた。何回も目があったけれど無視していた。レオが両手にクアーズを持って笑いかけてきたとき。私は降参して笑い返した。


 片方のボトルを受け取る。レオと名乗った男は私の名前を訊いた。


「レペゼンエイジア」


 そして自分のボトルを私のボトルに当ててきた。


「誰を聴きに来たの? グロウ?」


 レオと初めて会ったその日は、slim’sにロサンゼルスのスカコアバンドのライブを観に来ていた。レオのバンドは一番最初に演奏したらしい。レオたちのステージは観ていなかった。暗い色のソフトモヒカンが濡れてウェーブを作っていた。私はクアーズのボトルを片手に、何度も笑顔で振り返るレオの後をついて行った。ステージの横から裏に入った。すれ違ったロサンゼルスのバンドの人は迫力があって少し怖かった。レオはロサンゼルスのバンドの人たちと反対側の部屋に入った。テーブルを囲んで四角の形に置かれたソファに四人の男が座っていた。


「吸う?」


 私が隣に座ると、黒いハットを被って顎髭がある男が訊いた。回って来たのは普通の煙草じゃなかった。順番に少しずつ吸った。


 レオはチャイニーズアメリカンだった。二枚のCDジャケットを渡された。レオがCDケースを開けて印刷の写真を指差した。


「俺だよ」


 写真のレオは上半身裸でギターを弾いていた。レオはペンを探していた。それはテーブルの上にあった。CDケースの中の紙に電話番号を書き付けた。私は二枚のCDを持て余してながらクアーズを飲んでいた。


「飲みに行こう」


 空になったボトルを見てレオが立ち上がった。レオがバーでクアーズを頼む。


「何にする?」


 同じものを頼んでカウンターに凭れた。レオはまたこっちを見て笑いかけてきた。酔った私も気前よく笑い返した。


「ライブでアジア系の女の子に会うと『アジア代表だ!』と思って嬉しくなるんだ」

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