第7話「INORI」…祈り…。

 誰だ、猫は意地が悪いなんて言ったのは。


 猫はやさしいぞ。


 風邪をひいたわたくしの熱を冷まそうとして、自分が食欲減退しちゃうくらい、やさしい。




 そして今は、わたくしが命を削って彼を支える所存。


 もちつもたれつだ、なあきょうだい。入院したとき3,7だった体今、3,3キロだ。脱水もしてる。


 命を彼にあげますと女神に告げたら、あと四か月はモつと言ってくれた。




 もとから、あと三か月の命だったらしい。


 そして片目が瞳孔麻痺で、眩しくても光を遮ることができない。よって、目を始終しょぼつかせている。視力はあるそうだ。


って言っても、猫はもとから目があまり良くないらしいが。わたくしのようだな。




 しかし、餌を食べてくれるようになってよかった。


 まさかわたくしのために、そんなに心配してくれるなんて、思わなかったのよ。


 まあ、命を削った分は、三か月ほどぐったりしてるけれどさあ。




 女神に、わたくしの命でどれだけ長生きさせられますかと尋ねたら、30年、だって。


 それにはわたくしの命はどれだけいりますか? と尋ねたら、全部……だって。


 全部あげます。




 女神はダメだって言うけれど、どうすればいいの?


 わたくし彼を長生きさせたいんです。彼はあとどれくらい生きたいと思ってますか?


 30年くらい。キリがない。




 でも、わたくしスッポンエキスでもなんでも飲みますから。


 モたせてください。



「いいでしょう……そのかわり、生きるのですよ」




 はい……!!!




 はい、女神……。




「全部なくなっても、生きるのですよ……?」




 全部? そういえば全部ってなんだろう?




「親子の縁を切られても。命拾いをしたと思って、しっかりね。家を出ても。世間に馬鹿にされても」




 今生きている基盤から切り離されるのは、それはつらいでしょう。それでもわたくしには未来があるのでしょう?




「それはそうですが……」




 そのとき、傍らに誰もいないなら、生きている価値などないと思うのです。




「ご苦労。さがってよろしい」




 はい、女神……。






と言うね。会話を心の中でしましたよ。


 そうしたらね、女神が。



「あなたのために命を削る覚悟ができました。あなたにはほかの神がくるでしょう」


 いやだ! わたくしはあなたでなくては嫌です。あなたの言葉を聞き、あなたの判断を仰ぎたい!!



「もっといい神がくるかもよ?」



 あなたがいいのです! 行かないでください。



「安心しました」



 女神、それでは…



「はい、ここに残ります」



 ありがとう存じます、女神よ。


 ところで……。



 今朝わたくしにとんこつラーメンのスープを飲むように指示したのは誰だ?


 女神はダメだと言ってくれたのに、他の神が降りたのか?


 ごめんだな。



     ☆☆☆



 とかなんとか、愛猫のために想い錯綜。

 3月30日のことだった。

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