どんなときも冷静であれ。そして、愛情を持って非情であれ。

ある日、彼は未知のウイルス「ノーザンライト」と出会う。
ウイルスは赤ん坊の命を次々と奪っていく。
そのウイルスに立ち向かった彼は、しかし、その心の中に自分を縛る鎖を抱き続けていた。

名声と地位を手に入れた彼だったが、彼は自分の中の鎖を持て余し、新たな夢を掴もうとした。
それを助けたのは、彼の親友。
親友の作り上げたシステムの中で彼は一体何をみつけるのか。

これは、彼と、彼の親友と、そしてある数奇な出会いの物語。
それぞれが痛みを抱え、それでも諦めることなく。
助け合い、支え合い、歩き続けたからこそ。
手にすることの出来た紛れもない『奇跡』。



作者はもしかして、医療関係者なのだろうか。
それとも医療機器の開発者?
これはSFであると分かっていても、もしかしてこんな病があるんじゃないか、こんなシステムが存在するんじゃないかと心のどこかで思えてしまう。それほどのたしかな知識に裏打ちされたリアリティ溢れるストーリー展開に、いっきに読みたくなってしまうこと間違いなし。

この作品は4章仕立てになっているのだが、その章ひとつひとつがそれぞれ別々の作品だったとしても高いクオリティを備えている。
十分に楽しめる作品だ。
しかし、最後の章を読んだとき、きっと貴方は手に汗を握り、強く心揺さぶられるだろう。
ぜひ、多くの人にあのエンディングを読んでほしい。


個人的には、主人公の親友がとてもツボだった。
もうね、ラストのエンディングでの彼を思うと、若い時のあの日からよく頑張ったね、と今でもホロッと来てしまうくらい。

そして何より好きなのは。
この物語に出てくる人は、誰もが全力で前を向いて生きているっていうこと。
そのとき、そのときでベストを尽くし、誠実に運命と向き合って、一歩一歩ちゃんと歩いていること。
ちんけな嫉妬や虚栄心や猜疑心で、前に進もうとする彼らを邪魔する人がいない(まったくいないわけじゃないけど)。
だから、読んでいる最中も、そして読み終わった後も、なんだか爽快な気分だった。

『バランサーズ』も良かったけど、この作品もいいなぁ。
どっちが好きかと問われたら答えに困ってしまうくらい、どちらも大好きな作品です。

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