第16話 その足で大地に立つ

 ――


 一方、ヒィスリードの救援隊は眼前で行く手を塞ぐ蛮族の一軍を前に足を止めていた。


「何のつもりだ、こいつらは」


 行く手に立ちふさがる武装した蛮族の戦士達。

 身を隠しているわけでもない。

 あまりにもあからさま過ぎる待ち伏せである。

 ヒィスリードがそれに対して何事かと思考を巡らせていたその頃、後方にいたアキラは、ニュムリィの少女、ペルの様子がおかしいことに気づいた。


「ペル?」

「アキラ、なんだか怖い。いやだ。なんだろう、ぞわぞわするの」


 ペルの悪寒はアキラにも理解できた。

 どうにも、城の方角から嫌なプレッシャーが感じられるのだ。

 霊力の波動と言うのだろうか。

 誰かの、強烈な意思を感じる。悲しみや憎しみ、憎悪。

 とてもではないが優しい感情ではない。

 一体誰のものだ? ミカ? ウィリアム?

 ……違う。


「これは、ラズラビラだ。あの人の心だ。城で、一体何が起きて」


 見回すが、これを感じているのはペルだけで、周囲の人々は何も感じていないようだ。

 それよりも眼前の蛮族が気になっているらしい。


「城に急いだほうが良いのかもしれない。なんだか嫌な予感がする」


 アキラは一人呟く。

 フォレングス城はまだ遠いが、すでに目視出来る距離である。

 と、その時、先頭のヒィスリードから伝令が届いた。


「城が窮地の気配あり、合図と共に突撃、蛮族を蹴散らして城の救援に急ぐとのことです」


 伝令を伝えに来たその兵の言葉を聞いた瞬間、アキラは目の前の敵の思惑を感じ取る。

 ただの時間稼ぎとはどうも思えない。

 奴らは、完全にこちらを殺すつもりで待ち伏せているのだ。

 何か、策があるのかもしれない。

 どこかで何かを見落としている気がしてならないのだ。

 だが、これが霊力で敵の心を感じ取ってのことなのか、それとも自分の勝手な思い込みや感なのか、判断が付かない。


「シィクル。この待ち伏せをどう思う?」

「は? 目の前の敵ですか?」


 すぐ近くにいたシィクルに、アキラは聞いた。


「アキラ様、相手は蛮族です。あの程度の数ならば、馬を走らせるだけで突破できると思われます」


 シィクルの言葉に、どこか納得できるものを見つけようとしたアキラだったが、どうにも不可解な感覚が残って仕方が無かった。

 しかし、悩んでばかりもいられない。

 ヒィスリードら先頭の部隊から合図が届いたのである。


「騎兵に対して平野で待ち伏せとはな。奴らには戦うための知恵というものがないのか。全軍、城まで突き進め! 突撃だ! 城ではすでに敵の攻撃が始まっていると見える! 遅れるなよ! ……突撃!」


 蛮族の数は300か、400か。

 騎兵ならば突破も容易い、そう思えた。

 その一方で待ち伏せをしていた蛮族、ゴ・ブウは、眼前に迫り来る騎兵に対して、喜びの色をあらわにしていた。

 これで勝てればティ・エより約束された褒美が与えられるのだ。


「ほんとに騎士共が来やがったぜ! 何にも考えないで走ってくるぞ! すげぇぜ姉御! 姉御の言ったとおりじゃねぇか! フハハハハ! てめぇら、上手くやれよ! 全員もれなく殺してやれ!」


 蛮族も手投げ槍を持ち、騎兵に対して走った。


「正面から来るか! 愚かなり蛮族! 全員! 城を目指して突き進…… 何ッ!?」


 突然だった。

 気勢を上げて先頭を進んでいた騎馬隊の馬が、何の前触れもなく地面を見失って転げたのである。


「な、何だ! 何が起きたというのだ!」


 それらに巻き込まれてヒィスリードも落馬し、後続の馬も次々と倒れ込んで、騎兵の陣形は総崩れとなった。

 落とし穴だった。

 布で隠され、土を被せられていたのである。

 浅いが、馬が転ぶには十分と言ったほどの穴は多数に掘られ、馬から落ちた者はすぐさま武器を持って穴から這い出た。

 ――こんな単純なことに引っかかるとは。

 油断があったと、誰もが思い、苦難の表情で武器を取る。


 だが、すぐに蛮族の投げ槍が飛来し、立ち上がった多くの戦士がそれを受けて絶命することとなった。

 もはや、格好の的である。

 ヒィスリードが気づいた時には遅かった。

 罠だ。罠にはまったのだ。


「ヒィスリードさん!」


 後続にいたアキラの馬が、投げ槍からなんとか逃れたヒィスリードを助けようと前方に躍り出ていた。

 だがしかし、もはやヒィスリードの生命は風前の灯であった。

 投げ槍に続き、蛮族の突撃が敢行されたのである。


「ヒィスリード様の危機だ! 殺させるな! 救世主様に続け!」


 無事だった後続部隊の戦士達も、次々とその場所に集まる。

 だが、最初の騎馬突撃が失敗に終わった時点で騎兵はその戦闘能力を大きく落としていた。

 騎乗からの攻撃はまだ有利とは言え、いまや戦力は拮抗状態である。

 むしろ、このままでは全滅の可能性すらあった。

 何しろ、敵の数は騎兵よりも多いのだ。


 アキラはピストルクロスボウに矢を装填し、引き金を引く。

 風を切る音が蛮族に向かって走った。


「当たった? でも!」

「ッ! 生意気な!」


 矢を受けた蛮族は倒れない。

 肩に直撃したようだが、致命傷ではないのだ。

 すぐさまウルオウ、シィクル、コトンが矢を放ち蛮族を射殺いころしたが、それでも走り寄る蛮族達の勢いを殺すことは出来ない。

 すでに白兵戦に入った戦士達もいて、ここも混戦状態に陥っていた。

 そして、アキラはなんとかヒィスリードの元へたどり着いたものの、彼は負傷していた。

 落馬によるものだった。


「ヒィスリードさん! 大丈夫なんですか?」

「胸の骨にヒビでも入ったか。力が上手く入らぬ……ッ!」


 もはや、話す余裕もない。

 急接近してきた蛮族の攻撃をかわしたヒィスリードが、反撃でその頭をかち割る。

 そして、それが彼の持つ力の全てであったかのように、ヒィスリードが剣を取り落とした。


「こ、この程度で……ッ!」


 アキラがピストルクロスボウでヒィスリードに狙いを付けていた蛮族をすかさず射った。


「ヒィス! ヒィスリードさん! 後退です! このままでは不味い! 馬に乗って! 早く!」

「すまない……!」


 しかし、アキラはすでに蛮族の攻撃範囲の内にいた。

 蛮族の投げ斧が彼の馬の首に食い込む。

 馬の断末魔の呼吸がアキラに伝わり、次には投げ出されていた。


「ッ……が、は」


 落馬したアキラは身体を地面に叩きつけられ、動くことが出来ない。

 蛮族はなおも歩み寄る。

 その殺意をアキラは察知して、必死に動こうとしたが立ち上がることが出来なかった。

 何か、身体がショック状態になってしまったかのように、まるで力が入らないのだ。


「アキラ! だめ! 起きて! 殺されちゃうよ!」


 ニュムリィの少女、ペルがアキラの顔を叩いている。


「ぺ、ペル、潰れて無くてよかった。君は逃げろ、早く」

「いやだよ! アキラが逃げないんだったら、私だって!」


 どこかで聞いた事のある台詞だった。

『いや。アキラ君が逃げないんだったら、私だって』

 戸閏間とうるまさん……と、アキラは思う。

 助けることが出来なかった少女、リナ・トウルマである。

 なんとしても逃がしたいと思っていたが、さらわれてしまった。

 今回も、ペルと言う少女が同じことを言って、自分を困らせている。

 ああ、彼女を助けるどころではない。

 このままではここで、こんなところで、自分は死んでしまう。


 はやく起きなければ。

 ……だが、どれだけ必死になっても、体が上手く動かない。

 深く暗い、絶望が襲ってくる。

 そうしてもがいている間にも、周囲の蛮族達が倒れたアキラを見つけて、彼を殺そうと、続々と集まって来る。

 喧騒の中でもその足音は、まるで死のカウントダウンのようにアキラの耳に届いていた。


 ヒィスリードも力尽きて膝を付いており、ウルオウとシィクルも、対峙している蛮族のせいで駆けつけることが出来ない。

 コトンも矢を射ちつくし、剣を抜いて戦おうとしている。

 絶体絶命の危機にアキラは思った。

 ……死ねばフィリのところに行くのか。

 トウルマさん、助けることが出来ず、すいません。

 ミカ、やっぱりあれが最後になったみたいだ。

 ……君の顔が見たかった。

 もはや死の諦めである。逃避への欲望がアキラを強く誘惑し始めた。

 ミューエルの虐殺。フィリやルレィの死。

 それらをくぐり抜けて戦ってきたアキラだったが、もう、疲れてしまっていたのだ。


 だが、その時。

 アキラが半ば命を諦めたその瞬間、名前を呼ぶ遠い声が聞こえた気がしたのである。


『アキラ! だめ! あきらめないで!』


 必死に自分の髪をつかんで顔を揺すっているペルの物では無い。

 遠い場所から、自分の危機を察知して発せられた必死な声のように聞こえた気がした。


『あきらめないで!』


 その声がアキラの身体の下、土の地面を揺らしている。

 ……

 ……振動?

 間違いなかった。

 気のせいかと思われたが、その揺れは断続的に大きくなっていく。

 地響きのようだが、地震ではない。

 ふと、顔を上げたアキラは、見た。

 城の方角からものすごいスピードで走って来る何かを。


 それは、二本の大きな足で走る怪物だった。


 まるで人間の下半身のようだったが、その股関節から上は膨れた下腹部があるだけで、そこから上の上半身が無い。

 どう見ても、何度見直しても、走っているそれは巨大な下半身である。

 大きさは一軒家の屋根よりも高い。

 4メートルか、5メートルか。

 横に倒れた卵のような膨らみが下腹部から突き出て、それの傾き具合が前傾姿勢で走っているのだということを理解させていた。

 全力疾走である。


 蛮族たちが気づき、何事かとそれらに注目した。

 そして、蛮族達はそれが自分達の敵であると知る。

 怪物から発せられている蛮族への敵意が、彼らにその武器を向けさせたのだ。


「なんだあのデカイのは!」

「敵かよ! 斧でも槍でも良い! 投げて殺せ!」


 それを一蹴するかのように、怪物は足を振り上げる。

 風が唸って、土が弾け飛び、轟音が大地に響き渡った。

 強烈な蹴りである。

 蛮族の戦士を数人まとめて吹き飛ばしたその足は、大地を踏みしめ、飛んできた蛮族達の投げ槍や手斧を跳ね返した。


 ……圧倒的だった。

 蛮族達は飛び道具が効かないと見ると、無謀にも白兵戦を挑もうとしたが、なす術も無く蹴られ、その肉体を宙に舞わせている。

 それらは蹴散らしていると言う言葉がぴったりと当てはまっていた。

 跳躍し、走り、蹴りを放つ怪物を誰も止めることが出来ない。

 蛮族達はその巨大な二本足に蹂躙され、その戦闘力をあっという間に失っていった。


「ちくしょう! なんなんだ、このデカブツは!」

「槍も斧もびくともしないぞ! 歯がたたねぇ! かすり傷も付かないぞ!」

「だ、だめだ! 逃げろ!」


 蛮族達を指揮していたゴ・ブウも空に飛ぶこととなり、彼が地面に激突するやいなや、ついに蛮族達は恐れをなして退散を始めた。

 ゴ・ブウは血反吐を吐きながらも立ち上がったが、まともに歩くこともできずに、再びその場に崩れ落ちる。


「……何だというのだ」


 ヒィスリードは震えながらその怪物を見ていた。

 一瞬で形勢を変えたその在り様は、まるで何かの冗談のようだと彼は思う。

 あんなにも強い蛮族達が、なす術も無く敗走しているのだ。


 そして、蛮族達がいなくなった後。

 ヒィスリードと同じように呆然とそれを見ていた騎士達の目の前で、その物体は足を折りたたんでその場に座り込んだ。

 近くで見れば、表面は皮膚と言うよりも装甲である。

 関節からは筒状のパイプのようなものも覗いていて、どうにも機械的な物に見えた。

 接地した卵のような下腹部が分かれてその中があらわになる。

 中には背もたれのある椅子と、それからその前方にせり上がった台と、球体。

 椅子には人間が座っていて、大きく息を吐き出すと立ち上がり、地面に降り立った。


 操縦席コックピット操縦者パイロット

 アキラが思ったのはそれだった。

 ウィリアムの発明品だとすぐに思い当たり、この二本足の怪物は、人が操縦する機械のような物だと知る。

 もちろん、この場でそう思ったのは戦闘機や巨大ロボットが登場する漫画やアニメを知る日本人であるアキラだけのようだったが。


 そして、それを操縦し、たったいま地面に降り立った人物が誰なのか。

 アキラにはその顔が見える前に分かっていた。

 彼の霊力による理解なのか、それとも彼自身の感による物なのか。

 ただ、アキラはその顔を見るより前にその名前を呼んでいた。


「来てくれたのか、ミカ」

「アキラ……! こんな、酷い状態で……!」


 少女がアキラに駆け寄る。

 アキラはその時になって、始めて自分の頭から血が流れていることに気づいた。

 戦いの最中に、どこかで傷を付けられたのだろうか。

 それとも落馬の時に、何かで傷ついたのか。

 分からない。

 ただ、アキラは幼馴染のその少女が自分を起こしてからその胸にすがりつき、静かに震えているのを感じていた。


 ――


 その頃、フォレングス城では、ラズラビラが乗り込んでいる同型の二本足によって、戦局は一気にくつがえされていた。

 アキラの危機を察知したミカは、出撃するなりウィリアムの命令を無視して城を飛び出して行ってしまったため、ラズラビラはたった一人で蛮族を相手に奮戦していたのである。


 そして、アメリカ人のウィリアムによって、TWO-LEGトゥレッグと名づけられたこの発明は、作り出した彼の想像以上の戦果を上げていた。

 TWO-LEG。操縦者であるラズやミカからは正式名称ではなく『二本足』と呼ばれているその発明品は、搭乗者の霊力と同調し自由自在に動き回る機動兵器である。


 立ち上がったその姿は、やはり人間の下半身に似ていた。

 股の上、人間で言うなら下腹部の部分に人が乗り込むコックピットがあり、長さにして3メートルの足で戦場を駆ける、全長4.5メートル程の巨体。

 それは、対峙した時に強大な威圧感を人に与えるには十分過ぎる大きさであった。


 蛮族の振るう武器の刃を物ともしない表面。

 これは材質による物ではなく、霊力に反応して強度を変える剣の技術を応用して作られた特殊な装甲である。

 搭乗者の霊力が高ければ高いほどその強度を増し、並みの攻撃では決して傷つかない。

 また、走ればその速度は馬よりも速く、城壁の上になんなく飛び移れるだけの跳躍も可能としていた。


 蛮族は暮らしていた土地の性質上、向けられた殺気には敏感な種族である。

 そのため、フォレングス城にいた蛮族達は、トゥレッグの装備されている霊力感応器によって放出されたラズラビラの強烈な敵意に強く反応してしまい、その存在を無視することが出来なくなっていた。


「図体がでかいだろうが、どうせ見掛け倒しだ! ぶち壊せ!」


 すでに避難民に対して狼藉を働いていた者。

 イルバを束縛し、その鎧と服を剥いで、今まさに彼女の中に侵入しようとしていた者。

 他の位置に配属されていた城の防衛隊と戦っていた者。

 その全てがそれらを放り投げて、その怪物の場所に集結し一斉に襲い掛かった。

 だが、ラズラビラの霊力で強化されたその外面に効果的な攻撃も出来ず、ただ踏み潰され、蹴飛ばされるだけで、蛮族はその命を散らしていった。


 ラズラビラは眼下で圧死する蛮族の感触を知って、笑う。

 ラズラビラの霊力で彼女と同調したトゥレッグの足は、いまや彼女の足と同等の感覚で持って動かされていた。

 彼女の主観では彼女の足であり、自分の足と同じような感触を彼女の五感に与えているのだ。

 骨が砕け、肉がつぶれる音をトゥレッグの足の下に感じて、それがどうにもラズラビラにはおかしくて仕方が無かった。


「アハハハハハハ! 何が蛮族だ! まるで地這い虫じゃないか!」


 同時に理解した。

 この残虐性の中に現れた愉快さがなんであるのかを。


「……ッ、そうか! これか! 父が感じていたのはこれだったのか! 圧倒的な力で抵抗できない相手を一方的に嬲る、この感覚だったのか! なるほど、思っていたよりも楽しいじゃないか!」


 嗤った。

 残酷な笑みだった。

 自分を縛り付けていた呪いの様な過去の。どんなに懇願してもそれを聞かずに自分を蹂躙し続けた、あんなにも恐ろしかった男の心が、始めて理解できていた。

 おかしくて仕方が無かった。

 だが、口から出る笑い声とは別に、ラズラビラの目からは涙が流れていた。


「こんな、こんな感情で、私は……! こんなちっぽけな、ただの楽しさだけで、あの男に支配されていたのか! 母も、私も……! こんなもの! こんなもので!」


 次に心を支配したのは憎しみである。

 消し去ってやる! こんな感情を持つ生物など、全て殺してやる!

 そうして笑いながら泣いていた彼女のその心は、蛮族への圧倒的な憎悪の感情でいっぱいになった。

 もはや容赦はしない。

 ラズラビラはこの蛮族達の中に自分の父親がいるかもしれないと思い込み、次々と殺戮していく。


 いや、いるはずがないのは理性では分かってはいた。

 父はやくざ者とケンカして死んだのだ。

 絶対にいるはずがない。しかし、それでも彼女の心はいるはずのない父の顔を捜していたのだ。

 今、この大きな力で父を殺すこと。それで始めて自分は解き放たれる。

 そう思えて仕方が無かったのだ。


 そうして強烈な殺意を表現したラズラビラの殺戮は、容赦なく蛮族たちを殺害して行った。

 城の建築物に逃げ込もうが容赦はしない。

 二本足は容易たやすくその建造物の壁を脚力で破壊し、蛮族を巨大な足の爪で肉塊に変えていった。


 蛮族達の死者は、全体的に見れば僅かだったのかもしれない。

 だが、この圧倒的な力に気圧された時にはすでに、戦意そのものが喪失していた。

 蛮族達は、ラズラビラの強烈な敵意と殺気に反応しながらも勝てないと分かって、ついには勝手に城の外へと逃げ出し始めたのである。

 ティ・エが退却を判断したのもやむを得ない話であった。


 こうして城に出現した足の怪物は、城に侵入して防衛隊との戦いで生き残った蛮族を蹴散らし、追い返した。

 たった一つの発明。

 たった一人の霊力。

 たった一つの憎悪の感情によって、蛮族達は敗れたのだ。

 勝利である。


「なんと言うすさまじさだ」


 その光景にウロド・フォレングスを始め、生き残った城の将兵達は頼もしくも想ったが、同時に恐れをも抱いた。

 あのイルバ・フォレングスでさえ身体の震えが止まらず、生き残っていた自分の生命を複雑な気持ちで見つめていたのだ。


 蛮族達の襲撃は失敗に終わった。

 フォレングス城防衛戦。

 死者の数は増加し、兵力は疲弊している。


 戦場で散った人々の弔いはいつになるのだろうか。

 二足走行の巨大兵器、トゥレッグの登場で、蛮族との戦いはその在り様を大きく変えつつある。


 戦いはまだ、終わらない。

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